幅広い分野に製品を供給し、日本の産業界と生活者をサポートしている住友スリーエム(株)。同社カスタマーコールセンターでは、製品ごとに異なる電話番号と専任チームの編成により、3万5,000点に及ぶ製品に関する問い合わせに対して迅速かつ適確な対応を実現すると同時に、営業担当者が本来の業務に専念できる環境を整えた。現在は、問い合わせの中に価値を発見し、ビジネスを作り出すことに注力している。
コールセンターの開設で顧客対応の滞りを解消 社内の情報の流れもスムーズに
住友スリーエム(株)は、米国のミネソタ州セントポール市に本拠を置く3M社と住友電気工業(株)などの合弁により1960年に創業。電気・電子・電力・通信関連から建築・サイン・ディスプレイ関連、ヘルスケア関連、セーフティ・セキュリティ関連、自動車交通関連、産業関連、さらにはオフィス・ホーム・レジャー関連まで、幅広く日本の産業界と生活者をサポートしている企業である。現在同社では、3M社の製品およびシステムを販売すると同時に、日本の産業界の需要に応じて開発された製品を日本国内はもちろんのこと世界各国に向けて供給。2008年度の連結売上高は2,455億円となった。
同社が供給する製品数は約3万5,000点。これらに関する問い合わせ受付を担っているのが、「カスタマーコールセンター」である。同センターは、①製品の開発・改良、市場開発に役立つ情報発信の中心的存在を担う、②営業担当者に代わって顧客に迅速かつ適確に対応する、③将来的にはネットビジネスもサポートするという目的のもと、2003年9月に開設された。それ以前は広報部が窓口となり、問い合わせ内容に応じてマーケティングや販売などの事業部に振り分けていたが、実際には事業部、支店・営業所に顧客から直接問い合わせが寄せられるケースも多かった。さらに、電話を保留にして担当者につなぐことが顧客に“たらい回し”のイメージを与えてしまったり、対応が遅れる原因にもなっていたのである(図表1)。
一方、営業担当者においては、電話対応に追われ本来の業務に専念できないという問題を抱えていた。加えて、e メールで受け付けたセールスリードを逃してしまうこともあり、顧客からの問い合わせを一手に担う窓口の開設が望まれていたのだ。
同センターの開設以降は、顧客対応が滞ることもなくなり、セールスリードなどの情報の流れも良くなったという。
製品分野別にナビダイヤル番号を用意し迅速で的確な対応を実現
同センターは、東京都世田谷区にある本社内に設置されており、電話、eメール、ファクスで顧客からの問い合わせに対応している。電話窓口の受付時間帯は、平日の8時45分から17時15分まで。土日・祝日は休業となっている。電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを使用しており、顧客は市内通話料の負担で問い合わせることができる。また、ナビダイヤルのオプションサービスを利用して受付時間終了後にはその旨をアナウンスしているほか、携帯電話からの着信も可能にすることで、顧客にとってストレスの少ないセンター運営に努めている。
図表2は、同センターの組織である。センター長を筆頭に、製品分野ごとにチームを編成。それぞれ異なるナビダイヤル番号とeメールアドレスを用意し、顧客の用件に応じた最適なチームに速やかにつながる環境を整えた。これにより、迅速かつ適確な対応を実現。製品分野によって異なるものの、センター開設前は60%だったファースト・コンタクト・レゾリューション(1回目のコンタクトで解決できる率)をおよそ85%にまで高めることができた。
コンタクトセンターシステムには、CTIを導入。過去にカタログ・サンプル請求や取引の実績がある顧客データに発信者番号がヒットすれば、該当する顧客の情報が端末にポップアップされる仕組みになっている。これも迅速な対応を後押ししていると言える。
このほか、ボイス録音システムを導入し、万一の場合のリスクヘッジとして、また応対品質チェックのためのモニタリング用音声データとして活用している。
カスタマーコールセンターの告知媒体にはWebサイト(左)や広報誌(右)を活用している。広報誌は年に2回、1万部を発行。顧客に送付しているほか、展示会や本社受付にて配布している
顧客対応のポイントは4つの“きく”
同センターに寄せられる1カ月当たりのコール数は2万件弱となっている。同じくeメールは6,000件で、電話に比べて少ない。受付件数は製品分野ごとに差があることから、これまでの受付実績などに基づいて受付件数を予測し、必要なスタッフ数を割り出している。応答率は97%と高い。
eメール対応については、各チームに専任者を置き、その日のうちに回答を送っている。特に返信期限は定めていないが、ほとんどのケースでスピーディーな対応ができているという。
具体的な問い合わせ内容は、「カタログ・サンプル請求」が最も多く、以下、「製品仕様・スペック」「製品の有無と選定」と続く(図表3)。
同社製品の多くは産業関連製品であることから、顧客の課題を把握し、その解決策として既存製品の活用や代替製品、新製品、新技術を提案するかたちでビジネスを展開している。そのため、同センターでの対応のひとつひとつがビジネスの端緒となる。そこで同センターでは、“問い合わせの中に価値を発見し、ビジネスを作り出すこと”をモットーに掲げるとともに、4つの“きく”に留意して顧客対応に当たっている。
ひとつ目の“きく”は「聴く」である。注意深く傾聴して顧客の困りごとを把握しなければ、最適な情報を発信することはできない。具体的には、受付業務としては難易度の低い「カタログ・サンプル請求」においても送り先を聞いて要望通りに送るだけでなく、カタログやサンプルが必要な理由をヒアリングにより確認している。
2つ目の“きく”は「聞く」である。幅広く情報を集め、コミュニケータの知識を広めるためにも、よく聞くことが必要なのだ。
3つ目の“きく”は「効く」である。顧客の話を聞こうとする姿勢が、コミュニケータ自身の知識向上に効果を発揮するというのだ。
そして4つ目の“きく”は「利く」である。「聴く」「聞く」「効く」を実践することで、最終的に同社の利益アップにつながると考えている。
顧客の声をビジネスに生かすことが課題
現在、同センターでは、センターに寄せられた情報を活用することを課題としている。センターを集約し、多くの情報が集まるようになったが、製品開発やマーケット開拓にさらに情報を生かす機会を探っている。近年、コールセンターに集まった顧客の声をビジネスに生かす取り組みは活発化しており、数々の実績を挙げている企業も多い。今後、同センターでは、先行企業を参考にこうした取り組みを推進していく構えである。
センター機能を高め顧客とのコミュニケーションを活発化
米国の3M社は、100年の歴史に甘んじることなく変革し続ける企業である。そのDNA は、住友スリーエムに、そしてカスタマーコールセンターにも受け継がれている。今後、同センターでは、“コールセンター”から“コンタクトセンター”へステップアップするべく、電話・e メール・ファクスによるインバウンド業務からアウトバウンド業務までを幅広くカバーするかたちでセンターの機能を高度化し、これまで以上に顧客とのコミュニケーションを促進していきたいとしている。
具体的な施策としては、アウトバウンド業務の再開が挙げられる。同センターでは、2006年度よりアウトバウンド業務をスタート。2007年度後半にはアウトバウンドの専門部隊を作り、顧客を見込客、新客、固定客、離反客の4つに分類して、それぞれのタイミングでそれぞれの顧客にマッチした施策を行った。ちなみに施策の数は36種類に及んだという。
続いて2008年度には、約50種類のプロモーションを行い、積極的にセールスリードを獲得した。数々の施策は効果を上げたが、諸事情により現在は休止している。今後同センターでは、派遣のコミュニケータを教育して体制を整えた上で、アウトバウンド業務を再開する意向である。
さらに、2008年11月にオープンした「3Mオンラインストア」のサポートにも積極的に関与していく。現在、製品に関する問い合わせは同センターで受け付けており、フルフィルメントなどに関する問い合わせは別部門で受け付けているが、将来的にはオンラインストアへの参画をより進めていくことを視野に入れている。
カスタマーコールセンターの様子。冷房の温度を高めに設定しているため、ブースには扇風機を用意している