コンタクトセンター最前線(第89回):スキルマップの導入で効率化とホスピタリティの強化に取り組む

テルモ(株)

医療機器メーカーとして日本国内はもちろん海外でも知られるテルモ(株)。患者や一般生活者、医療従事者から商品に関する問い合わせを受け付けるテルモ・コールセンターでは、2008年4月にスタートした中期計画を受けて資格制度を見直し、スキルマップへ変更。モニタリングのチェック項目に、KPIとホスピタリティの指標を加えることで、さらなる効率化とホスピタリティの強化に注力している。

コールセンターですべての顧客から寄せられる電話応対を一手に担う

 北里柴三郎博士をはじめとする医学者たちによって、優秀な体温計の国産化を目指して1921年9月に設立された医療機器メーカー、テルモ(株)。以来、体温計の時代を経て、高度医療を総合的に支える医療機器の開発へと事業領域を拡大していった。現在は、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念のもと、世界初のホローファイバー型人工肺や日本発の各種使い切り医療機器など、人々の健康に役立つさまざまな商品を世界160カ国以上で提供している。
 生産拠点は、2008年12月末現在、国内5カ所、海外16カ所。販売・マーケティングオフィスは、同じく国内34カ所、海外45カ所。取扱商品分野は、医療機関で使用する医療機器や医薬品、在宅医療で使用する医療機器などの「ホスピタル商品」、人工心肺システムなどの「心臓・血管領域商品」、血液バッグなどの「輸血関連商品」、そして体温計や血圧計などの「ヘルスケア商品」の4カテゴリーに大別することができ、取扱商品数は約1万2,000種類に及ぶ。2008年3月期の連結売上高は3,064億円。テルモというと体温計をイメージする方も多いと思うが、売上構成を見ると体温計の割合は1%ほどで、残りのほとんどが医療機器や医薬品で占められている。
 テルモ・コールセンターは、上記の商品を使用する医療従事者や患者からの問い合わせを受け付ける窓口である。開設は2002年と比較的新しい。それ以前は、医療従事者からの問い合わせには全国の支社で対応。また、在宅輸液などの在宅医療を受ける患者および、体温計や血圧計などを利用する一般生活者を対象とした商品についても、それぞれの担当部署で問い合わせに応じていた。しかし、こうした受付体制では電話応対にばらつきが生じる可能性があるだけでなく、担当者が不在の場合は対応に時間を要する。そのため、均一で的確、かつスピーディーな情報発信の実現を目指して、顧客から寄せられるすべての電話をテルモ・コールセンターへ集約し、今日に至る。

フリーダイヤルとボイスワープでセンターにコールを集約

 現在、テルモ・コールセンターは、東京都渋谷区の本社内に設けられている。図表1は、同センターの組織を表したものである。実際の応対に当たるフロントスタッフは、患者および一般生活者に対応する商品チームと医療従事者に対応する営業チームに分かれており、それぞれコミュニケータ、スーパーバイザー、リードスーパーバイザーで構成されている。席数は、商品チームが15席、営業チームが20席。応対時のモットーは、両チームともに「正確・迅速・丁寧」としているが、患者や一般生活者と医療従事者とではコールセンターに対するニーズが異なることから、商品チームはホスピタリティを、営業チームは正確さと迅速さを優先している。

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 電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入。顧客別、商品別に専用のフリーダイヤル番号を設けて対応している(図表2)。窓口が複数あるために、どこに問い合わせればいいのか迷う顧客がいることを想定し、会社の代表番号で窓口案内を行っているところは、幅広い顧客層への配慮が感じられる。

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 同センターがフリーダイヤルを導入したのは、コールセンターの集約を行った2002年のこと。東京で受け付けていることを知り通話料を気にする顧客がいたことから、気軽に問い合わせることができる環境作りが不可欠であったのだ。携帯電話からの着信も可能にすることで、顧客の利便性をより一層、高めている。また、アクセスしやすい環境を作ることにより、多くの声を収集する狙いもあった。
 フリーダイヤル導入後も支店の番号は残っているため、医療従事者からは集約前と同様に支店に電話が寄せられることもある。その場合は、NTTボイスワープ(かかってきた電話をあらかじめ指定しておいた電話番号に転送するサービス)により、同センターの営業チームにつないでいる。
 同センターに寄せられるコール数は月間3万件に及ぶ。内訳を見ると、営業チームに寄せられるコール数は月間2万1,500コールで、このうちの4割が支店経由。商品チームに寄せられるコール数は月間8,500コールとなっている。
 受付窓口にはeメールも用意しているが、取扱商品が医療機器など人体・人命にかかわるものであることから、商品に関する問い合わせはフリーダイヤルを利用していただくよう告知している。また、eメールでいただいた問い合わせについても、内容によっては電話や書面で返答するケースもある。

「企業電話応対コンテスト」で自らの応対レベルを確認

 コールセンターの集約以降、均一な情報発信や顧客対応の効率化が可能となったことに加え、支店スタッフの業務の効率化も図れるようになった。こうした中、同センターでは、継続的に応対品質の向上に取り組んでいる。
 日々の活動としては、受付時間終了後に行う早口言葉や定型文の唱和と、コール品質改善会議の開催の2つがある。後者は、全コミュニケータの参加により行われる会議だ。具体的には、まずチームごとに顧客とトラブルになってしまった応対や良かった応対を聞く。次に、良かったコールについては良かった点を、トラブルになってしまったコールについては改善点を見つけ、良かった理由やどのように答えれば良かったのかを文字に起こしていく。この作業を通して、コミュニケータたちの気づきを促しているのである。
 センター内での活動と併せて、2005年度から(財)日本電信電話ユーザ協会が実施する「企業電話応対コンテスト」に参加している。参加の目的は、世の中のコールセンターにおける自らのスキルレベルを知ること。2005年度に開催された第9回の同コンテストでは、商業部門において優良賞を獲得。2008年度の第12回では、商業・金融部門において応募数186件の中から最優秀賞に選ばれた。

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テルモ・コールセンターでは、同じフロアで商品チームと営業チームが応対に当たっている。パーティションの上には待ち呼の数を表示するランプが設置されている

中期計画の推進に当たりセンター運営を見直す

 同センターでは、新たな応対品質の改善策にも取り組みはじめている。
 テルモでは、2008年4月より「フェニックス2010:非連続への挑戦」をスローガンとする中期計画をスタートさせた。フェニックスはエジプト神話に伝わる鳥で、500年に一度巣を焼き尽くして死んだ後、灰の中からよみがえる力を持つ永遠の生命を得た鳥である。これにちなんで、永続的な成長を望むためには、創造的破壊のプロセスに自ら飛び込む必要があるとし、自ら生まれ変わるくらいの気概をもって新しい一歩を踏み出そうというのだ。
 コールセンターにおいても、過去の成功にとらわれず新しいことに挑み、さらなる応対品質の向上と効率化を進めようと運営手法を見直し、より研ぎすますために3カ年計画を立てた。取り組みのひとつは、KPI(コールセンターの生産性や提供するサービス品質を管理するための指標)をコミュニケータ一人ひとりに意識させ、効率化を図ること。もうひとつが、かねてからの課題であった患者および一般生活者への対応におけるホスピタリティを強化することである。
 これらの実現に向けて、同センターではそれまで実施していたコミュニケータの資格制度の見直しを図り、スキルマップに変更。以前から実施していたモニタリングのチェック項目である「商品力」と「コミュニケーション力」に「KPI」のひとつであるCPH(Call Per Hour:1 時間当たりの応対件数)とACW(AfterCall Work:後処理)を加えた。また、商品チームでは、ホスピタリティのある対応をモットーとしていることから、ホスピタリティの項目を追加した。
 資料1は、商品チーム用のスキルマップである。コミュニケータへフィードバックする際には、特に強化したいホスピタリティの項目を抽出してきめ細やかな指導に役立てている。

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【資料1】商品チーム用スキルマップ

 スキルマップの作成に当たっては、モニタリングと評価を外部機関に依頼している。その理由は、社内のスタッフの指摘より、第三者の指摘のほうが客観的な意見としてコミュニケータに受け入れられやすく、スムーズな改善につながるためである。チェックする分野は、前述の通り商品チーム、営業チームともに「KPI」「商品力」「コミュニケーション力」の3つに大別されており、チェック項目は20に及ぶ。スキルマップの作成およびフィードバックの実施は年に2回。初回は2008年10月に済ませており、この3月には2回目を行う予定である。
 スキルマップの効果が表れるのはこれから。同センターでは、スキルマップで応対スキルを可視化し、コミュニケータ一人ひとりの強みと弱みを把握することで、応対スキルの底上げを図り、センター運営の効率化とホスピタリティの向上を実現するべく力を注いでいる。

チームの垣根を取り払いコミュニケータのマルチスキル化を推進

 今後、同センターでは、コミュニケータのマルチスキル化に取り組んでいきたいとしている。現在のチーム別の受付体制では、営業チームのコールが立て込んだ場合に、商品チームに余裕があったとしても、商品チームのコミュニケータは営業チームの商品知識がないため、対応することができない。コミュニケータの有効活用だけでなく、業務の効率化や応対品質の面からも、チームの垣根を取り払ってマルチスキル化を進めることが不可欠となっているのだ。
 さらに、業務の効率化によって生まれた時間を、MR(医薬情報担当者)向けのヘルプデスク業務に当てたいと考えている。業務の効率化と応答品質の向上で顧客満足を獲得するだけでなく、新たに生まれた時間で新しい業務を行うことができれば、社内におけるコールセンターの位置付けを高めることも期待できる。引き続き、テルモ・コールセンターの取り組みに注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年4月号の記事