コンタクトセンター最前線(第87回):IVR、在宅オペレータなどにより販売機会の損失を抑え、顧客満足度を高める

ジュピターショップチャンネル(株)

24時間365日のテレビショッピング番組「ショップチャンネル」を運営するジュピターショップチャンネル(株)。同社では、人材の確保が難しい深夜帯にコールが集中するコールセンターにおいて、番組との連動によるサービスレベルのコントロールのほか、IVRと在宅オペレータを効果的に活用することで、販売機会の損失を最小限に抑えている。

深夜帯にコールのピークがやってくる

 深夜にテレビの電源を入れると、ジュエリーやバッグなどさまざまな商品を紹介するテレビショッピングの映像が流れてくる。
 24時間365日のテレビショッピング専門番組「ショップチャンネル」の運営を中心としたダイレクトマーケティング事業を行うジュピターショップチャンネル(株)は、1996年11月、SCメディアコムとアメリカのホーム・ショッピング・ネットワーク社の出資によりに設立された(現在は住友商事の間接100%子会社)。
 テレビ通販では、日本で初めて商品の仕入れから番組構成、番組制作、受注、問い合わせ受付、配送、インターネットショッピングまでを一貫管理するシステムを導入し、継続的な顧客の利便性向上に努めている(図表1)。取扱商品のカテゴリーは、アパレル、ジュエリー、化粧品、家電、食品と多種多様で、1週間に700アイテムを販売。このうち半数は新商品というから、顧客を飽きさせない豊富な品揃えに驚くと同時に、受注オペレータや番組キャストの苦労が容易に想像できる。

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 コールセンターは、東京と大阪の2カ所にある。席数は2拠点合わせて約500席で、コールセンタースタッフはオペレータを含めて約900名。このほか、在宅オペレータが約40名を数える。電話窓口にはNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルサービスを導入しており、ひとつの番号で注文および問い合わせなどすべての用件に対応。また、同じくNTTコミュニケーションズのナビダイヤルも導入しており、こちらでは携帯電話からの着信に対応している。電話回線数は約1,600回線を保有。1日に5万〜6万件の注文および問い合わせに対応している。
 入電の特徴としては、ピークが深夜にやってくることが挙げられる。入電数は番組によって左右されるが、定常的なピークは深夜帯の23時から25時に発生しているのだ。
 その理由のひとつとして、キャンセル商品を狙うリピーターからの注文が集中することが挙げられる。当日キャンセルの受け付けが23時59分までとなっているため、23時を過ぎるとキャンセルに関するコールが増えるのである。
 もうひとつに、その日一番のお買い得商品を販売する「ショップ・スター・バリュー」(以下、SSV)の放送が毎日0時から始まることが挙げられる。SSVは普段販売している人気商品がお買得価格で購入できるとあって人気が高いことから、SSVがスタートする0時がコールの山場となるのである。

4つのオペレーション戦略

 同社では、深夜帯に集中するコールを取り逃すことのないよう、また顧客満足を高めていくために、4つのオペレーション戦略を実践している。
 ひとつ目は、サービスレベルのコントロール。これは、同社ならではの取り組みとも言える、番組との連動によるものである。コールセンターの混雑状況が全社で見られるようになっており、待ち呼が増えると制作現場ではテレビ画面上に「注文が集中しています」という文字情報を流したり、インターネットのアドレスやケータイサイトを表示したりして、視聴者を最適なコンタクトチャネルへ誘導。それでも混雑が緩和されない場合は、番組の司会進行役を務めるキャストが番組内で直接視聴者に「タッチでSHOP」(IVR)の利用を勧めたり、インターネットへ誘導したりする。
 2つ目は、IVRの活用である。着信呼はPBXで受け、顧客の用件に応じて「オペレータによる注文」「タッチでSHOPによる注文」「スーパータッチでSHOPによる注文」「カスタマーサービス」に振り分けている(図表2)。詳細は後述するが、キャストの声でガイダンスを組むなど細かな工夫を施すと同時に、日々問題点の改善に取り組むことで、利用率、完了率を高めている。

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 3つ目は、在宅オペレータの活用である。2001年ごろからテストオペレーションを開始し、すでに約7年が経過した。当初は数人であったが、現在では40名にまで増員し、定常的なコールのピークに備えて22時から26時まで勤務している。このほか、日中のコール増やオペレータの欠勤時にも対応している。
 4つ目は、インバウンド・マーケティングの実践である。同社ではインバウンドコールへの対応とアウトバウンドコールを同じオペレータが行うのは難しいと感じている。しかし、インバウンドコールに対してプラスαの情報提供をするインバウンド・マーケティングであれば、インバウンドのオペレータもマーケティングに貢献できると考えており、ターゲットを絞り込んで番組の視聴をお勧めする、あるいは顧客の最寄りの店舗で開催するイベントをお知らせするといった活動を推進している。顧客に伝える情報は、着信と同時にオペレータ端末にポップアップされる仕組みだ。

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番組キャストがパネルを使って「タッチでSHOP」を案内。オペレータ待ちの顧客は「2」番を押せば、「タッチでSHOP」に切り替わることを伝えている

IVRの効果的な活用

 4つのオペレーション戦略の中で、まず注目したいのがIVRの活用である。IVRの利用率や完了率の向上に苦慮しているセンターは多いのではないだろうか。
 同社では、総コール数に対するIVRの利用率および完了率は公表していないが、他社より高い数値を実現していると自負している。そんな同社のIVR活用のコンセプトは、「オペレータができることはすべてできるようにする」。1度目の利用で顧客に利便性を実感していただき、2回、3回と繰り返し利用していただけるよう、オペレータとのギャップを感じさせないIVRの作り込みに努めている。
 具体的には、IVRのログを確認し、顧客が間違ったりつまずいたりする箇所のガイダンスを修正している。また、VOC情報に基づくコールフローの改善や、誤認が生じやすいガイダンスの改善作業も継続的に行っている。
 コールフローの改善例としては、複数の商品を注文する際、ひとつの注文が完了するたびに受注商品を確認されるのは煩わしいという意見をもとに、確認は最後にまとめて行うようにした。また、顧客特定をしている間に欲しい商品が売り切れてしまうという苦情に対しては、顧客特定の前に商品を確保できるよう、コールフローを変更することで対応した。こうしたコールフローの変更は頻繁に行っている。
 2007年にスタートした「スーパータッチでSHOP」は、VOCから生まれた新しいIVRサービスである。これは、「タッチでSHOP」で注文の都度、住所、氏名、連絡先、割引券の有無、支払い方法などを入力するのは煩わしいというリピーターの声に基づき、注文や発送に必要な情報をあらかじめ登録していただき、注文時の操作を簡便化したサービス。当初はVIP顧客用にスタートしたものを、2008年6月より2回目以降のリピーターであれば誰でも利用できるよう間口を広げ、現在に至る。
 図表3は、「タッチでSHOP」と「スーパータッチでSHOP」の流れのイメージである。「スーパータッチでSHOP」は、電話番号と誕生日で顧客を特定し、支払い方法や配送先の入力をしなくても注文することができる。最短40秒で注文が完了するようになっており、通話時間の短縮により、応対件数が増大するだけでなく、通話料の削減にも役立っている。

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 リピーターで個人情報やクレジットカード番号の入力に抵抗のある方でもIVRを利用できるよう、「スーパータッチでSHOP」の開始後も「タッチでSHOP」は継続している。こうしたところに、同社の顧客視点がうかがえる。

在宅オペレータ活用の成功ポイント

 もうひとつ注目したいのが、在宅オペレータの活用である。同社では、日本アバイア(株)のIPエージェントを利用して、在宅オペレータによる受注業務を行っている。
 優秀な人材の継続雇用のために、あるいは通勤が難しい深夜帯の人材確保のために、在宅オペレータの導入を検討しているセンターは多いだろう。しかし、実際に導入し、効果的に活用できているセンターは少ないのが実際のところだ。こうした中、同社が在宅オペレータの活用に成功している理由はどこにあるのか。
 まず、「優秀でなければ在宅オペレータになれない」「もっと働くことができる」ということをインセンティブとして在宅オペレータをスタートしたことにある。これにより、在宅オペレータのモチベーションと会社へのロイヤルティが高まっていった。
 次に、費用対効果を明確に数値で現すことができたことが挙げられる。通勤に必要な交通費、閑散時の余剰人員の時給、ピーク時に必要な席数などと在宅オペレータに必要な設備費などを比較した結果、在宅オペレータの有用性が明確に見えてきたのだ。
 導入当初は、電話回線にINS64を使用していたことから、オペレータ端末に商品画像を表示するまでに時間がかかるなどの問題もあったが、同社では、こうした問題をひとつずつ解消していくことで、在宅オペレータの稼働率を向上。今日では、ピーク時におけるサービスレベルの低下防止に大きく貢献するまでになっている。

IVRのさらなる利用率向上を目指す

 現在、同社が課題としているのは、IVRの利用率向上である。現状の利用率が低いわけではないが、IVRが顧客に与えるストレスをなくすために、これからも顧客の声に耳を傾けていきたいとしている。IVRでの受注をオペレータによる受注に近づけるよう、今後も継続的に改善に取り組んでいく意向だ。
 番組と連動したサービスレベルのコントロール、IVRの活用、在宅オペレータの活用、インバウンド・マーケティングを、同社では“攻めのオペレーション”と呼び注力している。その一方で、同社では“守りのオペレーション”にも取り組んでいる。前述のIVRの運用方法の改善以外においてもVOCを幅広く活用しているほか、ISO10002「品質マネジメント——顧客満足——組織における苦情対応のための指針」に適合した顧客対応マネジメントシステムを構築しているのだ。
 攻めと守りのオペレーションで販売機会の損失を防ぐと同時に顧客満足の向上を実現している同社。そこには常に顧客の視点がある。これからも同社の取り組みに注目していきたい。

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東京コールセンターのオペレーション風景。オペレータ席の上にはテレビが設置されており、常に番組を放送している


月刊『アイ・エム・プレス』2009年2月号の記事