コンタクトセンター最前線(第70回):お客様に寄り添いより良い情報提供とVOC活動に励む

ニコンカメラ販売(株)

ニコンカメラ販売(株)では、2003年4月より、ニコン製品のカメラや関連製品の問い合わせ、修理受付に対応するカスタマーサービスセンターの運営を開始した。 現在、同センターではお客様へ情報を発信すると同時に、VOC活動にも注力している。

メーカーから販売会社へお客様窓口を移管

 ニコンカメラ販売(株)は、カメラメーカーの老舗である(株)ニコンのカメラをはじめとする映像関連製品の取り扱い、およびサービス業務を担う販売会社である。同社では、ニコン製品の良さをお客様に伝えるとともに、お客様のニーズを吸収して製品に反映することで、写真文化の発展に貢献してきた。
 同社とお客様とのコンタクトポイントには、全国8カ所のサービスセンター(修理受付窓口)と、東京の銀座と新宿のサービスセンターに併設しているニコンプラザ(ショールーム)、そして本社内に設置されているカスタマーサポートセンターがある。これらは互いに連携を図りながら、お客様へのより良いサービスやサポートの提供に努めている。対面でサービスを提供するショールームやサービスセンターに対して、電話やeメールによりお客様にサービスを提供するのが、今回紹介するカスタマーサポートセンター(以下、CSC)である。
 CSC の開設は2002年5月。ニコン内に設けていた、お客様相談室とテクニカルセンターを統合するかたちで開設された。同時に、NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを導入して、電話番号を一本化。製品に関する問い合わせ・意見・要望から操作方法や修理の受け付けまで、すべての用件にひとつの電話番号で対応する体制を整え、お客様の利便性を高めた。また、ナビダイヤルは通話料金を発信者と着信者の双方で負担することができ、その負担割合を導入企業側で設定することができる。CSCではこの機能を活かして、全国から市内通話料金で通話できる環境を整備。均一なサービス提供も実現した。さらに、これは二次的効果と言ったほうがよいかもしれないが、名称を一新したことにより、お客様相談室という名前が持つ苦情受付のイメージと、テクニカルセンターという名前が持つメカニカルで難しいイメージを払拭することができた。
 統合からしばらくの間は、ニコンがCSCを運営していたが、2003年4月、ニコンカメラ販売に移管され、現在に至っている。冒頭で述べたように、ニコンのカメラはニコンで開発・製造し、ニコンカメラ販売を通じてカメラ店や量販店などの店舗で販売される。こうした流通形態のため、店舗でのお客様の反応や売れ行きに関する情報は、ニコンカメラ販売に集約される。加えて、店舗に持ち込まれた製品修理案件で店舗との連携が必要となるケースが時々ある。そのため、ニコンではCSCをお客様にとってより身近なものにすることが、一層、お客様に満足していただけるサービスの提供につながると考えたのだ。

お客様の立場に立った親身な対応がモットー

 CSCでは、開設以降、お客様のライフスタイルの変化やデジタルカメラの普及といった社会の動きに合わせて、受付体制を拡大していった。現在、電話の受付時間は、お盆と年末年始を除く9時30分から18時まで、約70名のコミュニケータがシフトを組んで対応に当たっている。このうち50名が一般的な問い合わせに対応する一次受付を担当し、残りが専門性の高い問い合わせに対応する二次受付を担当。このほか、ニコン内にも数名の二次受付スタッフが常駐している。電話対応に加えて、eメール対応もCSCの仕事だ。CSCでは、一次受付スタッフを電話チームとeメールチームに分けて対応に当たっている。
 近年、コンシューマー向けカメラの主流はデジタルカメラだ。おのずと、受付件数の80%はデジタルカメラが占める。このうち、60%が一眼レフ、30%がコンパクトカメラ「クールピクス」に関する問い合わせで、10%がアクセサリーやスキャナ、レンズ、ソフトウエア「CaptureNX」に関する問い合わせ、および買い物相談となっている。
 また2割が、フィルムカメラやフィルムカメラ用アクセサリー、レンズに関する問い合わせである。受付総数に占める割合は少ないが、今でもフィルムカメラを愛用するカメラファンからの問い合わせがメインとなるため、内容が専門的だったり、何十年も前に生産中止となっているカメラに関する問い合わせだったりと、多くは対応に高度な知識を必要とすることが特徴となっている。CSCでは、どのような問い合わせにも常にお客様の立場に立って話を聞き、親身に対応することをモットーに、日々の業務に臨んでいる。

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問い合わせ方法の告知には、製品カタログ(左)やWeb サイト(右)、使用説明書などを活用している

あらゆる問い合わせに迅速・的確に対応する施策

 電話もeメールもそれぞれ対応スキルが必要となるが、eメールに比べて電話応対の難しいところは、リアルタイムで回答しなければならないこと。特にCSCの場合は、問い合わせ内容が多岐にわたる上、その難易度も幅が広い。ゆえに、専門性の高い問い合わせについては二次受付にエスカレーションできる体制を敷いている。しかし、お客様へのサービスを考えれば、一次受付で適切な回答をするのがベスト。CSCでは一次解決率を高めようと、スキルアップ研修に力を入れている。
 人材育成に励む一方、CSCではシステム面でのサポート体制も構築している。IVRを利用して、用件別にコールの振り分け行っているのだ。着信時に流れるガイダンスに従ってお客様が用件の番号をプッシュボタン入力すると、その番号に対応したコミュニケータグループに電話がつながる仕組みになっている(図表1)。

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 また、対応に必要な製品情報などを蓄積したナレッジデータベースも、コミュニケータをサポートする重要なツールである。ナレッジデータベースは、一部のサービスセンターでも閲覧できるようになっており、サービスセンターの対応力アップに役立っている。現在、ナレッジデータベースの共有を全サービスセンターへ拡大することを検討しているところだ。

お客様の要望を実現した使用説明書の改善や手ぶれ防止機能の標準装備

 単に問い合わせに対応するだけでなく、お客様の声をニコンへフィードバックし、新製品の開発や既存製品の改良、マーケティング施策などに役立てるVOC(Voice of Customer)活動 CSCの重要な業務となっている。
 電話、eメール、サービスセンターに寄せられる問い合わせや修理依頼の件数は、年間20万件。これを単純に12で割ると、月間平均受付数は約1万7,000 件となる。CSCでは、これらお客様の声から月間平均2,000〜3,000件の要望を抽出。さらに絞り込みをかけた後、VOC会議で改善策を検討し、実際の改善活動に落とし込んでいる。VOC会議は、約2カ月に1回の頻度で開催。ニコンカメラ販売の関係部門およびニコンの開発やマーケティングの部門からメンバーが参加する。

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 VOC活動の成果をいくつか紹介しよう。まず、見た目にわかりやすい事例としては、製品に必ず同梱されている使用説明書の改善が挙げられる。「読みにくい」「わかりにくい」といった意見が多く寄せられたため、サイズをB6版からA5版に拡大し、中面の文字も大きくした。さらに、撮影シーン別のコンテンツを増やし、「背景をぼかして、人物をきれいに撮りたい」「花や虫に近づいて大きく写したい」「夜景や夕焼けを背景に記念写真を撮りたい」というように、撮影時の「○○したい」をかなえる操作方法を容易に見つけられるようにした。
 製品そのものの改善事例としては、手ぶれ防止機能を標準装備したことが挙げられる。手ぶれ防止機能は、高額カメラにしか搭載していなかったが、「手ぶれ防止機能付き機種を増やしてほしい」という要望が寄せられたため、一眼レフデジタルカメラの標準仕様に加えることになった。現在、手ぶれ防止機能は、デジタルカメラ購入の際のポイントのひとつに挙げられるほど、人気の高い機能となっている。
 また、別売りの画像編集ソフトウエア「Capture NX」においては、ユーザーが操作を間違いやすい機能や問い合わせの多い機能を、簡単でわかりやすく行えるように改善した。デジタルカメラに関して意外と多く寄せられるのは、こうした撮影後の問い合わせだという。

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旧タイプの使用説明書(上)と新タイプの使用説明書(下)。新タイプでは、撮りたい物やシーンから操作方法を検索できるよう、索引が工夫されている

コミュニケータ自身がカメラを使うことでよりお客様の立場になれる

 電話応対で最も避けたいことと言えば、コミュニケータの対応によってクレームを生んでしまうことである。電話もeメールもお客様の顔が見えないコミュニケーション・ツールなだけに、ちょっとした会話の齟齬がクレームに発展してしまう可能性が潜んでいるのだ。まず、お客様がどの程度カメラに精通しているかを見極め、次に、お客様が求めていることを理解する。CSCでは、これができればお客様満足につながると考えている。
 しかし、顔が見えない電話やeメールで、瞬時にお客様を知るのは難しい。コミュニケータのお客様を見極める力を高めるために、CSCではコミュニケータに自分のカメラを持って日頃から撮影をするよう促している。実際にカメラを使っていれば、お客様のカメラへの精通具合を把握しやすくなる上、CSCが対応のモットーとしているお客様の立場に立った親身な対応も可能となる。さらに、何と言っても実体験には説得力がある。これが、お客様の納得につながるのだ。加えて、コミュニケータが自社製品に愛着を持つことが、CSCだけでなくニコンへの信頼感も醸成すると考えられる。
 今年、創立90周年を迎えたニコンでは、創立100周年に向けて新たな経営ビジョン「私たちのありたい姿。—期待を超えて、期待に応える。—」を策定。この新たな経営ビジョンのもと、CSCでは現状に満足することなく、これからもお客様の声に耳を傾け、お客様のニーズに合った製品作りと期待に応えられるサービスの提供に取り組んでいくという。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年9月号の記事