コンタクトセンター最前線(第60回):センター開設の目的を達成し次なるステップに挑む

(株)日本医療事務センター

日本で初めて医療事務の専門教育をスタートさせた(株)日本医療事務センター。 同社では、医療事務やホームヘルパーの資格取得から就業までをサポートする「ニック教育講座」の資料請求や問い合わせに対応するコールセンターを開設し、全国の拠点に分散していた業務を集約した。 その目的と効果、今後の取り組みを紹介する。

コールセンターを開設して分散していた業務を集約

(株)日本医療事務センターは、1965年10月、日本初の医療事務教育機関として創業し、医療事務通信講座を開始した。以降、教育講座を拡充するとともに事業の拡大を図り、現在では医療事務の業務委託・人材派遣、介護サービス、調剤薬局、就職コーディネートと、医療および福祉に関するトータルなサービスを提供している。
 創業時から手掛けている教育事業は「ニック教育講座」の名称で運営。2005年には、「『学びたい』を支えたい」をブランドメッセージとして掲げた。講座の種類は、医療事務や調剤薬局事務などの医療系講座、介護福祉士講座など試験対策講座と各種セミナー、ホームヘルパー2級養成講座など福祉系講座を、計27種類提供している。
 各講座に関する問い合わせ受付および資料請求受付から発送までを一手に担っているのがコールセンターである。もともと、問い合わせや資料請求の受け付けは北海道から九州までに点在している43カ所の営業拠点で行っていた。ところが、対応マニュアルはあるものの、時間の経過とともに拠点独自の方法が加わって、対応のばらつきが生じてきたことから、応対スキルの標準化を図り、全国のお客様に高品質なサービスを等しく提供しようと、2004年7月にコールセンターを開設したのである。各拠点からコールセンターへの業務移管は段階的に行い、2005年秋に完了させた。
 業務を統合するに当たっては、コミュニケータの教育に最も苦労したという。はじめてコールセンターを開設する場合、社内にノウハウがないことを理由にアウトソーシングする企業もあるが、同社では社内にノウハウを蓄積するためにアウトソーシングやインソースは選択せず、コミュニケータを直接雇用して自ら育成していく方法を選んだのである。そのため、商品知識や応対マナーなど、問い合わせ受付から資料の発送まで、コールセンターの業務に必要な知識を一から教えるのに労力を費やした。

数々の狙いを達成

 コールセンター開設の背景には、全国のお客様に高品質なサービスを等しく提供すること以外にも、次のような狙いがあった。
 まず、コールの取り逃し防止が挙げられる。各拠点は少人数で運営しているため、同時に何本ものコールに対応できなかったり、回線数の問題から電話がつながらなかったりと、電話に出られない状況が頻発していたのである。コールの取り逃しは、ビジネスチャンスの損失を意味する。同社にとって、1本でも多くのコールに対応できる受付体制を構築することが急務であったのだ。
 次に挙げられるのは、案内書の送付率向上である。案内書の送付率とは、総問い合わせ受付件数に占める資料送付件数の割合のこと。講座に興味を持ったお客様に資料を送付することで講座への理解を深め、申し込みにつなげようとしたのである。
 このほか、業務の集約によるコスト削減にも期待を寄せていた。具体的には、資料発送に伴う郵便料金の割り引きが挙げられる。差出通数が規定のボリュームになれば、割り引きが適用されるためである。また、各拠点のスタッフが本来業務に集中できるようになることで業務の生産性が高まり、人件費の削減につながることも見込んでいた。
 コールセンターの開設から約2年が過ぎた今、こうした狙いは現実のものとなっている。コールセンター開設以前は10%と2ケタ台に達していた放棄呼が、現在では2%にまで縮小。送付率も、6割から倍の8割に大きく改善された。過去の受講履歴や問い合わせ履歴をもとに初めてのお客様なのかリピーターなのかを識別した上でトークを展開することで、お客様とのコミュニケーションを深め、資料送付の了解を得やすくなったためだ。教育の効果が表れているとも言える。もちろん、郵便料金も軽減されているという。

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電話は声と声とのコミュニケーション。お互いに顔は見えなくても、表情は声に乗って伝わる。同社では、コミュニケータ一人ひとりに手鏡を支給し、常に笑顔で対応に臨むよう指導している

受付時間外は自動受付でビジネスチャンスの損失を防止

 現在、コールセンターには、電話とネットを合わせて年間約20万件の資料請求および問い合わせが寄せられている。この応対に当たるのは、11名のコミュニケータと2名のリーダーにセンター長を加えた計14名のスタッフたち。電話による受付窓口には、“フリーダイヤル ニック良い講座(0120−29−4153)”と語呂合わせの良い番号を利用し、年中無休で午前8時から午後9時まで受け付けている。
 前述のように、同社の受付時間は比較的長い。しかし、資料請求者の年齢層を見ると20代が多いことから、同社では彼らのライフスタイルに合わせた受付体制を実現して利便性を高めると同時にビジネスチャンスの損失を防ごうと、受付時間外に限って、資料請求のみ自動受付でカバーしている。
 自動受付を実施するに当たっては、IVRの導入を検討したが、大きな投資が必要なことから断念。安価に24時間自動受付を可能にするフリーダイヤルCRMパッケージに着目し、2005年1月に導入した。
 CRMパッケージは、NTTコミュニケーションズのネットワークを介してIVRと同様の機能を提供するサービスである。そのため、日本医療事務センターでは、少ない投資で自動受付を実現することができた。加えて、同パッケージにはあらかじめ資料請求受付のコールフローが用意されていることから、カスタマイズすることなくスピーディーに資料請求の自動受付を実現した。
 また、同パッケージには、音声認識とプッシュボタン入力の2つの選択肢がある。導入当初、同社ではお客様の手間を省くために音声認識の機能を使用していたが、講座名が難しく、お客様がスムーズに言えない、もしくはシステム側が認識できないといったことから、完了率は伸び悩んでいた。そこで同社では、講座名を数字で選択できるよう、プッシュボタン入力に切り替えた。
 これにより、若干完了率を改善することができたが、同社ではまだ改善の余地があると見ている。現在、1カ月当たりの時間外受付件数は約200件。より多くの資料請求受付を自動受付で完了させることができるよう、操作性の向上を課題としており、コールフローやガイダンスの見直しを検討しているところだ。

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教育と一次解決率の向上が課題

 同社が挙げるもうひとつの課題は、新講座の情報をスピーディーにコミュニケータに伝え、身に付けてもらうことである。教育事業は医療事務の通信講座からスタートしたが、年々講座の種類が増えており、コールセンター開設以降も「介護予防運動指導員養成講座」が加わった。講座の増設に合わせてコミュニケータの知識も備えていかなくてはならないのだ。
 続いて、3つ目の課題として挙げているのは、1次解決率の向上である。問い合わせをその場で解決することができれば、お客様の満足度はもちろん、社内におけるコールセンターの存在意義も高めることができる。だが、1次解決力をアップするには、コミュニケータは各講座の情報、各拠点の情報、対応マナー、問題への対処法などさまざまな知識を備えていなければならない。
 同社では、定期的にテストを実施して研修内容が身に付いているかをチェックするほか、同僚コミュニケータやリーダーに教えてもらわなければ回答できなかった案件があった場合、センター長に報告することをコミュニケータに義務付けている。

教育事業部のコールセンターから全社的なコールセンターへ

 当初の目的を達成することができた同社では、コールセンターの次なるステップとしてCRMの推進に着手している。具体的には、優良顧客とのリレーションシップの強化と、クレームを含むお客様の声に基づく施策展開の2つがある。前者については、1年間の受講履歴をもとにRFM分析を行い、優良顧客を洗い出してダイレクトメールによる講座のお知らせなどを行っていくという。
 また、この8月にホームページを大幅にリニューアルし、講座の申込受付をスタートした。10月にはポイント制度、12月にはテキストの販売も開始する。コールセンターで提供しているサービスをインターネットでも提供し、コールセンターとホームページとを対として運営しようとしているのだ。
 同社においては、2005年に、インターネット経由での問い合わせおよび資料請求の件数が電話によるそれを上回った。これは、時代の象徴でもあり、未来を予言しているようでもある。こうした中で、同社ではインターネット活用の重要性を実感する一方、お客様とのコミュニケーションを深めていくに当たってはコールセンターの重要性も認識。将来的には、コールセンターを教育事業部に限らず、調剤薬局などほかの事業に関する問い合わせにも対応する全社的な顧客接点へと発展させるという大きなビジョンを描いている。

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各講座の資料


月刊『アイ・エム・プレス』2006年11月号の記事