千葉県水道局では、 従来、 各営業所や支所で行っていた開閉栓などの受付業務と事務業務を集約し、 2004年8月より「県水お客様センター」 での受け付けをスタート。 水道に関する総合的なサービス拠点として、お客様の利便性を高めるべく、ワンストップサービスの提供に努めている。
利便性向上を目指して県水お客様センターを開設
近年、社会的な安全・安心に対する生活者の意識が高まる中、公共サービスにも一般企業同様に生活者の厳しい目が向けられており、ご多分に漏れず水道サービスにおいても、そのサービス内容や水質への関心が高まっている。こうした状況の中、千葉県水道局ではお客様の多様なニーズへの迅速な対応を実現するとともに、窓口のさらなる利便性の向上を目指して、電話や FAX、インターネットなどでお客様対応を行うコールセンター、「県水お客様センター」を開設した。
千葉県水道局では、11市2村の約279万人に給水しており、センター開設以前は、お客様からの電話受付などは10カ所の営業所および支所で行っていた。しかし、給水区域が広いことからお客様にとって担当する営業所がわかりにくく、さらに、給水区域内での転居であっても所管する営業所が異なる場合は2カ所への届け出が必要と、お客様にとって必ずしも便利な窓口とは言えない状況にあった。こうした状況を解消し、お客様の視点に立ったサービスを提供しようと、同局では2004年4月に「県水お客様センター準備事務所」を設置。同年8月に県水お客様センターと名称を改め、お客様対応業務を開始するに至ったのである。
職員の減少も見据えてBPRを実施
県水お客様センターは、千葉県・千葉市内に設置されている。図表1の通り、同センターは受付サービス課、料金管理課、総務課の3課で構成。電話、FAX、郵便、インターネットによるお客様対応業務は受付サービス課に集約し、既存の営業所および支所は3事業所・7支所に改変し、訪問が必要な業務と料金滞納に関する業務に専念することで、業務の合理化・効率化を実現した。
現在、受付サービス課では、これまで各営業所および支所で受け付けていた開閉栓の申し込み、氏名などの諸届け変更、料金に関する問い合わせのほか、郵送されてくる給水契約の申込書や口座振替届出書の受付・登録までを一手に担っている。
今回、県水お客様センターを開設するに当たっては、業務内容を簡単な電話受付のみとする考えもあった。しかし、千葉県水道局では近い将来、団塊の世代が定年を向かえるのに伴い職員が大幅に減少する。その後も職員の高齢化が進むことは間違いない。そこで、現状より少ない人員でお客様サービスを維持するためにも、県水お客様センターを中心とした効率的かつ機動的な体制を整備することが不可欠と考え、総合的な事務所としたのである。
同センターの開設は、窓口を明確にしてお客様の利便性を高める一方、これから直面する課題を見据えた、BPR(Business ProcessReengineering)の一環であるのだ。
センター開設に先駆けて作成した折り込みチラシ(左)と広報紙「県水だより」(右)。県水だよりで継続的な告知を実施し、認知度向上に努めている
均一なサービス提供を目的にナビダイヤルを導入
ではここで、受付サービス課の受付体制を紹介しよう。
まず受付時間帯は、平日の午前8時45分から午後6時までと、土曜日の午前8時45分から午後5時までで、日・祝日は休業となっている。受け付けに当たるのは、約70名のコミュニケータ。席数は最大77席を確保しており、入電状況に応じて対応席数を調整している。
電話窓口には、NTTコミュニケーションズのナビダイヤルを使用している。このところ地方自治体のコールセンター開設が相次いでいるが、たいていは一般加入回線を使用しており、ナビダイヤルやフリーダイヤルを導入しているケースはごくわずか。その理由としては、税金でセンターを運営していること、そもそも市内通話料金で済むためお客様の負担が少ないことなどが挙げられる。しかし、千葉県水道局は事業体として独立しており、前述の通り給水区域が広いため、お客様の居住地域によって負担する通話料に差が生じてしまう。加えて、最寄りの営業所および支所で受け付けていた当時には市内通話料金だけで済んでいたお客様の負担を増やすことにもなる。そこで、同センターではすべてのお客様に平等なサービスを提供しようとナビダイヤルの導入を決めたという。
また、ナビダイヤルのオプションサービスのひとつである回線数変更サービスを利用。カスタマコントロールを活用して、リアルタイムにコールセンター側でコール数に応じた回線数の設定を行っているほか、受付時間外に寄せられるコール数など、受付状況の把握に努めている。
アウトソーシングで運営ノウハウを得る
千葉県水道局では、今回コールセンターを開設するに当たり、各社のコールセンターの見学やセミナーへの参加を通じて情報を収集。理想のコールセンター像を描いていった。しかし、コミュニケータの採用・教育・管理、入電予測に基づく人員配置、コールセンターシステムの構築など、実際のセンター運営に必要なノウハウは多岐にわたる。これを短期間で学び、自らの力だけでセンターを運営するのは難しいと判断した同局では、テレマーケティング・サービス・エージェンシーへの業務委託を決定。東京ガスのグループ会社であるTGテレマーケティングに委託した。
業務委託に踏み切ったもうひとつの理由としては、コスト削減が挙げられる。同センターは1年を通じて3月の後半に最もコールが集中するといった特殊事情があるため、最大コール数に合わせて人員や回線を確保したのでは、維持費がかさむと同時に閑散期に余剰が生じることになりかねない。ちなみに、2005年3月のコール数は5万5,000件で、これらは同月の後半に集中。三連休明けの3月22日(火)には、センター開設から1年の間で最も多い4,116件を受け付けた。
また、コールセンターシステムも、東京ガスグループのシステムベンダーにアウトソーシングし、東京ガスのコールセンターで利用しているシステムを水道業務用にカスタマイズして導入した。カスタマイズと言っても、業務内容が酷似しているため容易に行えたという。
同センターでは、このシステムを「お客様センター支援システム」と呼んでいる。同システムは、お客様ごとに応対履歴を入力・閲覧できるようになっており、料金システムとも連携している。そのため、支払い状況の把握に加えて、お客様と交わした約束なども記録できるので、対応者が変わっても適切な対応を行うことができる。さらに、水道事務所・支所ともデータを共有するとともに、訪問対応などの履歴も入力して
いる。
ワンストップサービスの提供を実現
県水お客様センターの開設から1年間の受付状況を見ると、総受付件数は62万5,653 件。月間平均で3万4,434件となっている。このうち利用が最も多いチャネルは電話で、40万521件と総受付件数の約64%に及ぶ。次に多いのは郵送で16万580 件。検針時に、検針担当者がお客様から直接用件を聞くケースも3万件以上あり、意外と多い。
受付内容の内訳は、転居時に発生する開閉栓の申込受付が最も多い。この申し込みが集中する3月には、スポットでコミュニケータを採用。担当業務を開閉栓の受け付けなど比較的容易な業務に特化させることで、研修期間の短縮と応答率などサービスレベルの維持を図っている。
同センターがTGテレマーケティングに求めるサービスレベルは、電話着信後の20秒以内での応答率が平均80%以上で、放棄率が平均5%以下としている。実際の稼働状況を見ると、応答率は平均92.4%で、放棄率が平均3.07%。提示されているレベルより高い数値を達成している。
また電話受付における完了率が平均73.8%、料金の支払い場所の案内など分析には使用しないため応対履歴に残さない各種案内が3.3%、水道事務所・支所への取り次ぎが22.9%となっており、かなり高い割合でワンストップサービスの提供を実現している。これにより、同センターではお客様の満足度が高まっていると見ているが、アンケートを取るなどして実際に確かめたわけではないので、あくまで予測に過ぎない。しかし、顧客満足度調査を実施しようにも、転居してしまう方の調査は個人情報保護の観点からみても難しいため、その方法を模索しているところだ。
センター開設で得た多くの効果とは
センター開設の効果は、窓口の明確化、業務の合理化・効率化、ワンストップサービスの提供にとどまらない。
お客様サービスの向上においては、①FAXでの受け付けによる聴覚や発話が不自由なお客様の利便性向上、②専門のコミュニケータや、受付マニュアルによる高品質なサービス提供、③応対履歴や対応手順のデータベース化による迅速で適切な情報提供、④断水工事などの緊急時や、渇水時などの最新事情の把握による迅速で適切な情報提供も実現している。
事務の効率化においては、県水お客様センターおよび水道事務所・支所から支援システムに対応履歴を登録することにより、情報の共有が可能となった。さらに、同センターから各水道事務所への取り次ぎには前出のお客様センター支援システムを利用してペーパーレスで行うため、環境保護対策が推進される。
お客様の声を分析・活用することにより、業務改善や事務の効率アップに役立てられる点も大きい。同センターではできることから積極的に声の活用に取り組んでいる。例えば、口座振替を申し込んだお客様へ引き落とし開始日を知らせるようになったのは、お客様の声を反映した結果である。
現在同センターでは、解決すべき課題として、応対品質の向上と既存システムとのスムーズな連携の2点を挙げている。前者については、品質検討会を発足したが、先に紹介した例をはじめとする業務改善に留まっており、本来の目的である品質向上にまで着手できていないのが現状である。後者については、各家に設置されている水道メーターに関するデータベースなど、構築した年代や発注先の異なる十数個もの既存システムと、最新の技術を駆使して構築したお客様センター支援システムを連携させることは容易ではないのだ。
同センターが解決しなければならない課題は非常にハードルが高い。しかし、多くの時間を費やしてもこれらが解決すれば、県水お客様センターは大きく飛躍するだろう。今後の動向に注目していきたい。
県水お客様センター内の様子。入退室管理システムには、虹彩による本人認証を導入。最先端のバイオメトリクス技術を活用する一方、私物の持ち込みを禁止してセンター内では透明バッグを利用させるなど、徹底したセキュリティ管理を行っている