コンタクトセンター最前線(第28回):眠らないコールセンター 全国で発生する緊急事態に24時間有人対応

日本ロードサービス(株)

顧客視点に立脚した “人に優しい豊かなカーライフ” を提供することを目的に設立された、日本ロードサービス(株)。同社では、 全国のドライバーから寄せられるさまざまなトラブルを解決するべく、ロードサービスを提供している。これに不可欠なのが、24時間・365日、年中無休で受付業務を担うコールセンターだ。

24 時間・365 日、年中無休で有人対応

 日本ロードサービス(株)の前身は、日本ロードサービス協議会。日本の高度経済成長とともに飛躍的な発展を遂げたモータリゼーションは、今日の経済活動において、また、私たちの日常生活において、必要不可欠なものとなっている。こうした状況の中、“人に優しい豊かなカーライフ”を提供する新しいサービスを提供しようと、1996年4月、民間企業の有志が中心となって同協議会を設立。そして、1997年4月より民間初のロードサービス事業をスタートした。
 サービスの名称は「JRSロードサービス」。全国に約7,300のサービス拠点を持ち、乗用車、大型トラック、自動二輪の事故や故障など、各種トラブルに対応している。同サービスの利用者は、自社のサービスC-LifeClub などの会員や、自動車メーカーやクレジットカード会社、レンタカー会社、損害保険会社などといった提携企業の顧客。JRS関連サービスの会員にはカードを発行しており、2002年1月現在の発行枚数は438万枚。内訳は、JRS提携カード(JRSプロパーカードおよび提携カードで、トラブル発生時に実費を要す)311万枚、JRSワランティカード(一定のロードサービスを無料で提供する会員制カード)127万枚となっている。一方、損害保険会社などの顧客サービスとして同社が受託している車両台数は865万台となっている。
 サービス拠点と同様に、ロードサービス事業の展開に不可欠なのが、事故や故障など、車両トラブルが発生した際に顧客から連絡を受けるコールセンターである。同社では、サービス開始と同時にコールセンターを開設した。
 事故や故障はいつ起こるか予測が不可能だ。当然、コールセンターは24時間・365日、年中無休で稼働している。また、事故車を人に例えると、このサービスは“救急車の出動”なわけで、IVRでの対応は非現実的だ。従って、時間帯を問わず、有人による受付体制を整えている。

コミュニケータは正社員 シフト作成と健康管理が課題

 業務の流れは、図表1の通り。「バッテリーが上がってしまった」「エンジンがかからない」「事故が起きてしまった」「タイヤがパンクした」などトラブルが発生した顧客から、同社のコールセンターへ連絡が入る。コールセンターでは、まずはじめにトラブルの状況を把握して、応急処置のアドバイスをする。そして、顧客が会員か非会員かを確認し、出動が必要な場合には、トラブル内容に応じて対応可能な最寄りのサービス拠点を探し、電話とFAXで出動を依頼。必要であれば、顧客の会社や家族への緊急連絡や、保険会社への連絡、レンタカー・タクシー、最寄り駅や宿泊施設の案内も行う。そして、依頼を受けたサービス拠点からサービススタッフが現場へ向かい、処置。作業が終了すると、コールセンターへ報告が入る、という仕組みになっている。

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 コールセンターに連絡してくる顧客は、突然の故障など何らかのトラブルで慌てていたり、冷静だけれども車には疎いといったように、非常にさまざまである。そのため、マニュアルを作成するのは難しいのが実際のところだ。同社では、臨機応変な対応ができるよう、コミュニケータを指導しているという。
 サービス開始当初は会員数も少なかったため、コールセンターでの受付業務は数名のコミュニケータで対応していた。その後、会員数および提携企業数の増加に伴い、受付体制を拡充。現在は、55名のコミュニケータがシフトを組んで対応に当たっている。時間帯によってアサインするコミュニケータ数は異なり、日中は常時30名、深夜は12〜14名で対応している。深夜に10名以上を配置しているのは、この時間帯は大型トラックに関するトラブルが多く寄せられるためだ。
 サービスの内容上、コミュニケータには車に関する豊富な専門知識と、前述したように臨機応変な対応が不可欠なことから、高いコミュニケーション能力が求められる。そこで同社では、高度な専門知識を備えた整備士や、専門知識とコミュニケーション力を併せ持つカーディーラー出身者を多く採用。加えて、長期間にわたって勤務してほしいという考えから、全コミュニケータを正社員として雇用している。

費用対効果に優れた受付システムを構築

 同社のロードサービスの種類は自社のものと提携先企業のものを合わせると、100を超える。必然的に、「JRS××(提携先企業名)ロードサービスです」という名乗り方も、100種類以上に及ぶため、利用者が自社の会員なのか、提携企業の顧客なのかを着信と同時に判別することが必要だ。そこで同社では、サービスごとに異なるフリーダイヤル番号を設置して、これをキーに顧客を認識。番号の告知媒体には、会員に配布するカードを活用している。
 同社が、電話窓口に NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを採用している理由はほかにもある。
 まず、サービス業であること。有料のサービスを提供している以上は、自社で通話料金を負担することが必須という認識が同社のベースにあるのだ。
 次に顧客に距離感を感じさせないことを挙げている。同社では全国の顧客からの電話に、ひとつのコールセンター(東京・中野)で一括対応している。しかし、青森県の顧客が東京で受け付けていると知ったら、「サービススタッフがきちんと到着するだろうか」など余計な不安を抱くかもしれない。安心してサービスを利用してもらうためにも、0120で始まる全国共通のフリーダイヤル番号は効果的なのである。
 さらに、コールセンターの稼働状況を把握することが挙げられる。フリーダイヤルサービスには「カスタマーコントロール」というオプショナルサービスがある。これを利用すれば、時間帯別コール数などを把握し、その数字を基に人員の適正配置や回線数の最適化を図ることができる。その上、特別なシステムを導入する場合に比べ、リーズナブルな価格でこうした機能を実現できるというメリットもある。同社では、機能とコストパフォーマンスを考慮したのだ。
 そして最後に、受託業務をスムーズに遂行できることが挙げられる。同社ではロードサービスのほかに、損害保険会社やリース会社などから、時間外の事故受付業務を受託している。同じくオプショナルサービスの「受付先変更サービス」を利用すれば、コールセンター側で瞬時に着信先の切り替えが行えるのだ。
 このように、既存のサービスを利用すれば十分な機能については外部のサービスを積極的に活用する一方、ロードサービスの受付システムは独自に開発したものを利用している。

【資料1】
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受付画面

【資料2】
トラブル発生からアフター

トラブル発生からアフターフォローまでを説明しているホームページ画面。ここでは未登録者専用のフリーダイヤル番号を紹介している。この番号の利用者は会費を支払っていないため、あえて携帯や PHS からは一般加入回線で受け付けている

 受付システムは操作性と検索性を重視して構築された。例えば、オペレーションの状況に応じて、地図情報画面、会員情報画面、受付画面などに容易に切り替えられるほか、サービス拠点の検索が地図情報からでもマウス操作ひとつで可能。また、サービス拠点や顧客情報の受付画面への入力は、マウス操作のみで済むようになっている。

シフト作りと健康管理が課題

 同社のコールセンターには、時間帯別に波があるものの、昼夜を問わず、さまざまなトラブルが寄せられる。年間コール数は約12万件。ロードサービス以外の受託業務が年間約10万件。トータルで1年間に約22万件ものコールに対応している計算だ。
 これだけのコールに、しかも24時間・365日、年中無休で対応していくためには、さまざまな苦労がある。前述の通り、同社ではコミュニケータを社員として雇用しているため、働く時間を平等にしなくてはならない。加えて、コールの多い時間帯に人を多くし、逆に少ない時間帯には少なくすることも必要だ。さらに、時間は同じであっても、コールが多い時間帯に勤務するコミュニケータと、コールが少ない時間帯に勤務するコミュニケータとでは業務量が平等ではない。日中と深夜という点にも考慮が必要だ。交通機関が動いている時間帯も頭に入れておかなければならない。このように複数の要素を調整しながらのシフト作りは非常に難しく、センター長は非常に苦労しているという。
 また、昼夜のシフトをこなすコミュニケータは、毎日同じ時間に食事や睡眠をとることができなくなり、生活が不規則になりやすい。加えて、夜起きているとつい食べ物を口にしてしまい、過剰にカロリーを摂取してしまうといった問題も起こりがちだ。同社ではコミュニケータの健康維持に注意を払い、効果的な睡眠のとり方を指導するなどしているという。
 今後、同社では、ロードサービス以外の受託業務が拡大すると予測している。業務が増えた場合、現状の受付体制ですべてを担うには無理がある。コミュニケータの増員が必須となるが、通常の仕事と勤務時間が異なる上に、専門知識が求められるため、必要な人員の確保が大きな課題だ。同社では、この課題の解決に努める一方で、ロードサービスのレベルアップを図っていきたいとしている。

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コールセンターのオペレーション風景。着信が少ない時間帯は、テレコミュニケータが自主的に車に関する情報を収集したり、仲間と情報共有を図るなどしている


月刊『アイ・エム・プレス』2004年4月号の記事