コンタクトセンター最前線(第16回):カスタマーボイスサイクルの確立を目指しお客様の生の声を伝える

三菱自動車工業(株)

「COLT」 の発売により、大きくコール数を伸ばした三菱自動車お客様相談センター。 現在、相談センターでは、「迅速・的確・親切な対応」 をモットーに日々の業務に注力。 収集した顧客情報を商品開発やサービスの改善に活かし、お客様にフィードバックする「カスタマーボイスサイクル」 の確立を急いでいる。

モットーは「迅速・的確・親切」な対応

 三菱自動車が現在のお客様相談センターの前身に当たる顧客窓口を開設したのは、今から約30年前のこと。消費者保護法の施行に伴い、当時の三菱自動車販売内にユーザーリレーション課として発足したのがはじまりである。その後、組織変更を重ねながら、業務内容および受付体制の拡充を図ってきた。現在では、 「お客様相談センター」の名称でお客様関連部が管轄・運営。 「迅速・的確・親切な対応」をモットーに、お客様の期待を上回る対応をすることで、驚きと感動を与えるお客様相談センターを目指している。
 現在、相談センターでは、すべての車種や会社全般の問い合わせに対応している。
 相談センターが担う役割は多岐にわたり、大きく5つに分けることができる。
 まず、ひとつ目が、問い合わせおよび相談受付機能。相談センター業務の中心となる機能だ。
 相談の中でもお客様に何らかの問題が生じていて解決が求められる内容については、通常の相談受付とは別に、販売会社と連携しながら問題解決を促進する機能も持っている。
 2つ目が、お客様の声の還流・活用促進活動である。日々の対応業務で得た「お客様の生の声」を社内に還流させ、情報の活用を推進する。
 3つ目が、お客様の声の普及活動。顧客志向をうたう企業は多いが、それを社内の隅々にまで浸透させるのは難しい。なぜなら、全社員が顧客と直に接しているわけではないからだ。顧客の声を直に聞くか聞かないかによって心構えが大きく変わり、顧客志向に温度差が生まれる。そこで同社では、管理職を対象にお客様の声を聞く窓口研修制度を設けているのである。
 そして4つ目が、危機管理。お客様の声から何らかの兆しを察知し、警告情報を関連部門に発信。問題の早期発見と解決に貢献している。
 そして5つ目が、上記以外の消費者啓発活動、小学生相談室活動といった業務である。
 順番に説明すると、まず消費者啓発活動とは、パンフレットやホームページを通じて、車を安全に利用していただくための情報を提供すること。パンフレット制作に当たっては、日々お客様への対応を実施している女性の相談員(コミュニケータ)の意見を参考にするなど、女性の視点を多く取り入れている。
 次に、小学生相談室活動とは、小学生を対象にした問い合わせ受付である。毎年7月から11月の5カ月間、小学5年生の社会科の授業に合わせて開設。全国の小学生からの質問に対応している。

コールセンター

広々として明るい雰囲気が漂う相談センター内。すべての相談員の視界に入る場所に、応対のモットーである「迅速・的確・親切」が掲げられている

社員が相談員として対応

 相談センターは東京本社内に設置。1カ所で全国のお客様からの問い合わせおよび相談を、主に電話とeメールで受け付けている。
 電話窓口には、1996年5月より、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入している。相談センターでは、フリーダイヤルによるコール数の伸びを踏まえ、導入に先駆けて受付体制の整備を行った。ちなみに、以前は、大都市を中心に転送を目的としたアクセスポイントを設置し、お客様には最寄りのアクセスポイントまでの通話料を負担していただき、アクセスポイントから相談センターまでの通話料は同社負担という仕組みを敷いていたのだ。
 言うまでもなくフリーダイヤル導入の目的は、お客様の利便性を高めることにある。
 また最近では、携帯電話からのアクセスが増えてきたことから、2001年の冬より、フリーダイヤルの付加サービスのひとつである移動体着信サービスを利用。車という取扱商品の性質上、外出先から相談センターに問い合わせが入ることも多いため、相談センターでは、携帯電話やPHSからの着信受付は必須であると考えている。
 フリーダイヤル番号の告知媒体には、車両カタログ、新聞・雑誌の広告、取扱説明書、メンテナンスノート、ホームページ、消費者への啓発活動の一環として制作している小冊子などを活用している。(資料1)

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【資料1】フリーダイヤル番号告知媒体の一例

 受付時間帯は、月曜から金曜日の9時から18時までと、土曜・祝日の9時から17時まで(12時から13時を除く) 。日曜日、ゴールデンウイーク、夏季休暇および年末年始のみ休業している。受付時間外はIVRで対応。カタログ請求のみ受け付けている。相談センターでは近々、受付時間の拡大を予定しているという。
 相談センターのスタッフ数は、管理職、相談員、システム管理者などを合わせて総勢66 名。スタッフは、数名を除く全員が社員となっている。相談員は、一次受付、二次受付と2 つのグループに分かれており、一次受付で対応できない内容は二次受付に転送するかたちで対応している。
 電話対応システムには、システムベンダーの協力を得て独自に開発した「ハーモニクス」を1992年より導入している。「ハーモニクス」には、問い合わせ内容とその回答を登録。単語検索ソフトを活用して、対応業務に役立てている。
 1カ月当たりのコール数は6,000~7,000件。コール数および内訳の数字は月ごとに変動するという。特に、新車の発売やデモンストレーション走行などのキャンペーンを実施した際には急増。最近の例では、COLTの発表時に1日に1,000件もの問い合わせが寄せられ、過去最高の受付件数を記録した。また受付時間外のIVR利用件数も、通常時の10~100件を大きく上回り、一晩で200件もの資料請求が寄せられるという状況が数日間続いたという。

ASPサービスの利用でeメール対応を効率化

 一方、eメールへの対応は、1997年9月よりスタートした。電話対応の相談員が対応を兼務していることから、相談員への負担が大きく、生産性も低かった。そこで2002年2月、対応のスピードアップを図ると同時に応対品質を高めることを目的に、eメール対応ASPサービスを導入した。これには、ホームページにアップするFAQを充実させる機能や、お客様がFAQの中から知りたい情報が得られなかった場合に提案回答を行う自動返信機能がある。こうした充実した機能により、相談センターに問い合わせなくても問題を解決できるようサポート。きめ細かくFAQを追加・更新することにより、セルフサポート率の向上を実現した。
 相談センターに寄せられるeメールの件数は1カ月当たり400~450通。この内容の内訳は、電話とほぼ同様となっている。

ポイントカードでモチベーションを向上

 一般的にコールセンター・スタッフの離職率は高いと言われているが、同社相談センターの場合は、ほぼ全員が社員ということもあり、離職率は非常に低い。しかし、社員であることだけでモチベーションを保つのは難しい。そこで相談センターでは、相談員のモチベーション向上策として、2003年1月よりポイント制度を導入した。ポイントの対象となるのは、例えば「これは」と思うような“兆し情報”と“見込客情報”の2つ。それぞれ1件獲得するごとに1ポイントが加算される。50ポイント集めると賞品がもらえる仕組みだ。 (資料2)

兆し情報裏
兆し情報表.TIF 見込客情報表

【資料2】相談員の手作りによる 「兆し情報カード」と「見込客情報カード」。 獲得したポイン ト数に応じてかわいらしい★や♥のスタンプが押される

 また、前述した通り、相談センターでは期間限定で小学生を対象とした相談窓口を開設している。最近では、環境保護への取り組みについてなど、大人顔負けの問い合わせが数多く寄せられるが、その後、お礼の手紙が届くことがある。こういったことも、スタッフのモチベーション向上につながっているという。

急がれる「カスタマーボイスサイクル」の確立

 現在、相談センターが最も注力しているのが、 「カスタマーボイスサイクル」の確立である。これは、お客様の声を関連部門にフィードバックし、それを商品やサービスに反映してお客様に返していくというもの。以前の応対業務は、お客様と相談センターとのキャッチボールでしかなかったが、関連部門を巻き込んだ一連の流れを作り出すことで、お客様のメリットを創出、ひいては社内に貢献することを目的としている。(図表1)

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 「カスタマーボイスサイクル」の核となるのが、 「ハーモニクス」に蓄積された顧客情報である。この情報を関連部門と共有するべく、イントラネット上で知りたい情報を収集できる検索機能と、お客様の生の声一覧機能を構築した。さらに、兆し情報をまとめたカスタマーボイスメールを発信。このほか、月報を作成し、関連部署へフィードバックしている。
 お客様の声の活用における課題として、情報共有システムを構築しても、関連部門のスタッフが必ずしもアクセスするとは限らないことが挙げられる。真の情報共有を実現するためには、アクセスしなくても情報を見られる仕組みが必要だ。現在相談センターでは、試験的に情報を車種別にまとめ、希望者に個別配信している。これが良好な循環を生み始めており、従来は相談センターから関連部門への一方通行になりがちだったものが、関連部門から「パンフレットの表記を変更しました」 「ただいま検証中です」などのリアクションが寄せられるようになったという。
 また、多くの企業が顧客第一主義をうたっているが、それを実行することはたやすいことではない。お客様対応に携わっていない社員がお客様をどれだけ理解し、お客様の視点に立って日々の業務に臨んでいるのだろうか…。相談センターでは、関連部門のスタッフがより一層、顧客視点に立てるよう、お客様の生の声に接する場を積極的に設けている。例えば、部門を問わず、管理職が実際に相談センターの応対業務を経験する研修。百聞は一見にしかずである。また年に数回、大人数を対象とした集合研修を実施。ここで、お客様の意見や感じていることを伝えている。
 こうした研修は、お客様の視点の理解だけでなく、相談センターの業務への理解を促す。それによって、これまで疎遠であった部門との結び付きも強化。スムーズなお客様対応業務につながっている。

サービスの拡充を検討

 今後、相談センターでは、お客様の利便性向上を目的として、受付時間の拡充を検討しているという。
 こうした受付体制の拡充を図る一方で、相談員のインタビュースキル、コミュニケーションスキルの向上も不可欠。これには、日々の研修のほか、外部講師による研修の実施を検討しているところだ。
 さらに、コミュニケーションスキルが向上すれば、より多くの情報を収集することができる。相談センターで収集した情報を関連部門に活用してもらうためには、情報の精度が重要なポイント。相談センターでは、お客様が発する言葉の裏にある、 “価値ある一言”や“兆し”を察知し、いち早く関連部門へフィードバックすることに努めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年4月号の記事