コンタクトセンター最前線(第15回):インターネット・ビジネスを“電話” でパワーアップ

楽天トラベル(株)

2002年8月に、楽天 (株) から分社化して設立された楽天トラベル (株) 。 総合旅行サイトを開設し、宿泊施設やツアー、格安航空券のインターネット予約サービスを提供する同社では、同年12月にコールセンターを開設。 電話を通じて、顧客に代わってWebサイトから宿泊施設を予約するサービスを開始した。

どこにもないサービスで宿泊予約のシェア拡大を狙う

 国内外の宿泊施設やツアー、格安航空券のインターネット予約サービスを手掛ける楽天トラベル(株)。インターネットを介して、いつでもどこでもリアルタイム予約を可能とした“利便性”と、安価な“楽天価格”を売りに、多くの顧客を獲得している。
 トラベルビジネスの開始は2001年3月。楽天(株)の1事業部として、契約施設数約600軒でのスタートだった。その後、商品ラインナップを拡充し、多様な顧客ニーズに対応。2002年8月には、楽天(株)から分社化し、楽天トラベル(株)として新たなスタートを切った。そして同年12月には、楽天トラベル宿泊予約センターを開設し、電話での予約受付業務を開始。現在では、3,000軒を上回る宿泊施設と契約を結んでいる。
 コールセンターを活用したこのサービスは、顧客に代わってオペレータが楽天トラベルのWebサイトで情報を検索し、宿泊施設を予約するサービス。従って、インターネットでのサービスと同様に、リアルタイムで予約がとれることを売りとしている。
 具体的な業務内容は、宿泊予約・変更・キャンセルの受け付け、および宿泊に関する各種問い合わせ受付となっている。予約に当たっては、宿泊施設の指定がなくても、立地や価格などの条件を基に宿泊先を探す。
 これまでインターネットのみを販売チャネルとしてビジネスを展開してきた同社が、宿泊施設の予約サービスに“電話”を取り入れたのはなぜか。
 宿泊施設の予約方法で最も多いのが、「宿泊施設へ直接電話する」で約50%。次に「旅行会社を通す」が約30%で、「インターネット」は約20%。近年、オフィスはもちろんのこと一般家庭へもインターネットが普及し、ここへきてブロードバンドがさらなる普及に拍車をかけている状況にあるとは言うものの、インターネットからの予約は意外に少ないのが現状なのだ。この約20%を、100ほど存在する宿泊予約サイトが奪い合っているのである。
 競合他社との差別化を図り、優位性を確保するためには、まだ誰も実施していないサービスの提供が必要となる。そこで同社が考えたのが、楽天の“ブランド力”、そして楽天トラベルの“利便性”と“楽天価格”という利点に、最も多く利用されている電話をプラスしたこのサービス。既存のビジネスモデルに、現在の通信メディアの中ではダントツの普及率と操作性を誇る“電話”を加えることでユーザーメリットを増大し、宿泊施設予約のシェア拡大を狙っている。

センター運営は設備も人材もアウトソーシング

 コールセンターを新設する際には、まずコールセンターを自前で持つか、テレマーケティング・サービス・エージェンシーなどにアウトソーシングするかを検討するが、同社では、迷わずアウトソーシングを選択した。
 その理由には、宿泊施設の予約システムはすでに持っているため、コールセンターの仕組みさえ整えばサービスをスタートできる状況にあったことが挙げられる。また、インハウスコールセンターの場合、莫大な初期投資が必要となり、さらに時間もかかることも懸念された。
 コールセンター開設に着手したのは2002年10月。わずか2カ月で開設できたのも、アウトソーシングを選んだことが大きな要因と言えよう。
 同社のパートナーとなったのは、(株)アイティ・コミュニケーションズ(以下、ITコム)。コールセンター業務だけでなく、旅行代理店業務も手掛けており、後者では楽天市場にも出店している。旅行販売の免許を持ち、かつコールセンターのプロでもあることから、迷うことなく同社に業務委託を決めたという。
 オペレータの教育もスムーズに行うことができた。この点においても同社はITコムを高く評価している。
 ビジネスマナーや言葉遣いなどを含む基本応対に関しては、ITコムが3カ月に及ぶ徹底した教育を実施。こうして基本的な応対スキルを身に付けたオペレータを対象に、楽天トラベルの事業や応対に関する研修をマン・ツー・マンで行った。この期間は約2週間。マン・ツー・マンの利点は、分からないことをその都度聞けることにある。集合研修で起こりがちな、何となく分かったつもりになることや、質問するタイミングを逃すことを防いでいる。理解するまで丁寧に教えることが、応対品質を高める第一歩になると言えよう。
 同社の業務を担うITコムのコールセンターは北海道にある。遠距離であるがゆえの不便さが危惧されるところだ。しかし実際には、「日々の連絡は電話とeメールで十分。特に問題は感じていない」(同社営業グループ課長 有木祐二氏)と言う。

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ユーザーメリットを最優先に考えた受付体制

 楽天トラベル宿泊予約センターの受付時間帯は、24時間365日。これは業界初の試みだ。深夜やどのような緊急時でも宿泊予約を可能にすることで、利用者の利便性を高めることを目的としている。先行していたインターネットでのサービスは、当然のことながら24時間365日受け付けているため、電話でも同じサービスレベルを維持しようとしたのだ。
 席数は10ブースで、総オペレータ数は約30名。 3交代制でシフトを組み、常時4~5名が対応に当たっている。
 24時間休みなく コールセンターを運営する上では、休憩室の充実や、仮眠スペースの確保が不可欠の要素。また、1時間ごとに10~15分の休憩時間を設け、オペレータの身体的・精神的負担の軽減に努めている。
 受付窓口にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入している。
 フリーダイヤルの導入目的は、もちろん利便性の向上にある。冒頭で述べた通り、オペレータは楽天トラベルのWebサイトを操作しながら応対するため、1コール当たりの通話時間は3~5分に及ぶ。そのため一般加入回線では顧客の負担が大きいと考えたのだ。また、インターネットから予約をする場合は顧客が費用を負担しているわけだが、それは感じられず、無料のような感覚がある。ところが、電話の場合は料金がかかることを明確に感じる。このことが利用の妨げとならないようにとの配慮でもある。
 ユーザーメリットを優先する同社では、携帯など移動体からの接続も可能としている。 フリーダイヤルで移動体着信を可能にする場合、通話料の増加を懸念する企業が多いのが実際のところ。しかし外出先から予約をする場合、携帯電話を利用する確率が非常に高いことから、コストをかけてでも顧客がアクセスしやすい環境を整えることが必要と考えたのだ。ちなみに、同社のフリーダイヤル番号は「0120-922-489」。“急でも無事予約”という語呂合わせで、覚えやすいよう工夫している。
 コールセンター・システムには、ITコムが自社開発したCTIシステムを利用している。電話をいただいた顧客は、 すべてデータベースへ登録。ナンバー・ディスプレイサービスを導入しており、2度目以降の電話の場合、発信電話番号をキーに顧客データベースを検索し、ヒットするとその情報がポップアップされる仕組みを採り入れている。
 また前述の通り 、オペレータが使用する予約システムは、顧客が使用する楽天トラベルのWebサイトとほぼ同じだが、一部、改良が施されている。

さまざまなアイデアで効果的な告知活動を展開

 予約センターの告知媒体には、ホームページはもちろん、グループ会社が発行するメールマガジン、バナー広告などを活用している。このほか、営団地下鉄の路線図を活用。これは学生、社会人など多くの人が持ち歩く、非常に携帯性の高い媒体であるため、その効果が期待できる。
 さらに、豪華な賞品やキャッシュバックを特典としたキャンペーンを展開。予約センターのフリーダイヤル番号を記載した告知チラシと前出の地下鉄路線図を新橋、田町、大手町をはじめとるすビジネス街の主要駅前で同社社員が配付した(資料1)。

【資料1】告知媒体の数々

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ホームページのトップ画面(写真左)/宿泊予約センター告知画面(写真右)

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二つ折りにすると、片側にフリーダイヤル番号が収まるデザインになっている

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チラシと地下鉄の路線図だけを手渡したのではすぐに捨てられてしまうため、クリアファイルに入れて配付している。こうすることで、持ち帰られる率が高まるのだという。右が2月7日(金)から行われた「バレンタインキャンペーン」のチラシ。約7,000枚を配付した

 2002年12月のコール数は約1,000件。サービスがスタートしたばかりであることから、サービスに関する問い合わせなど予約には至らないコールも多かったが、世間の注目度を実感したという。
 その後、コール数は増加傾向にあることから、さまざまな告知活動の効果がうかがえる。
 また、予約率も高まっている。初回は問い合わせにとどまった顧客が次回には予約をしてくださるといったことも多く、すでにリピーターもいるという。
 同社ではこれらを、予約センターの開設から3カ月ではまずまずの成果だと見ている。

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コールセンター風景

顧客、オペレータ、宿泊施設、すべての声に耳を傾ける

 予約センターで得られる情報は、日計表、月報といった形で同社へ報告される。また、顧客の声情報は、サービス品質の向上に役立てられている。
 顧客の声を基にサービスを改善した例としては、次のようなケースがある。
 ひとつ目は、当日予約可能な部屋数の増加。宿泊施設の事情により、供給される部屋数が限られ、需要に追いつかなかったため、宿泊施設に対して当日予約の需要の多さを数字で示し、割り当て部屋数を増やしてもらうよう働きかけたのである。
 2つ目は、予約システムの改善。システムの都合上、1回の予約で5部屋までしか予約できないようになっていたが、5部屋以上の予約を希望されるケースも多かった。そこで、システム開発部門に予約システムの改善を依頼したのである。
 また同社では、顧客の声だけでなく、オペレータや宿泊施設の声にも耳を傾け、こうした改善に取り組んでいる。例えば前者については、現在Webサイトに最寄り駅名で宿泊施設を検索できる機能を構築しているほか、検索地域の詳細化を図っているところだ。一方、後者については、宿泊施設が使用する管理画面の操作性を向上するなどした。

総合コールセンターを目指す

 現状の課題は、やはり認知度を高めることだ。今後もより一層、告知活動に努めると同時に、アクセスしやすい環境作りに注力する意向。ゆくゆくは、携帯電話からのアクセスは、コールツーで予約センターにつながるようにしたいと考えている。
 もうひとつは、Webサイトの操作性を高めること。同社では、前述のような検索機能の充実に加えて、動作をスピーディ-にすることが必要と考えている。インターネットを利用している顧客も、予約センターのオペレータも基本的には同じWebサイト利用しているため、Webサイトの操作性向上は、インターネット予約利用者のサービス品質を高めると同時に、予約センターの生産性向上に直結するのである。
 さらに、オペレータと同じWeb画面を顧客の端末に表示させることができる双方向Webシステムの導入を検討しているという。
 最後に、同社が目指すコールセンター像を聞いた。
 「現在は宿泊予約業務に特化したコールセンターと位置付けているが、将来的には格安航空券やパッケージツアーを販売する『ツアー市場』の予約関連業務や同社で行っている宿泊施設のサポート業務も取り込み、楽天トラベルの総合コールセンターへと発展させていきたい。会社の成長とともにコールセンターも成長していくことを願っている」(有木氏)。
 2003年中には、契約宿泊施設数を5,000軒にまで拡大し、幅広いニーズに対応。総合トラベルサイトとして大きく成長することを目標としている。予約センターのますますの発展に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年3月号の記事