コンタクトセンター最前線(第4回):顧客とLPの結び付きを深めるためにカスタマーサービスセンターを開設

プルデンシャル生命保険(株)

顧客ニーズに基づくコンサルティング販売を特徴とし、業績を上げているプルデンシャル生命保険 (株) 。 同社では、本社機能のバックアップを兼ねたカスタマーサービスセンターを仙台に開設し、2001年8月にカットオーバーした。

“経済的な保障”と“心の平和”を目指して

 プルデンシャル生命保険(株)は、1987年10月、アメリカ最大級の保険会社The Prudential Insurance Company of Americaの全額出資による日本法人として誕生。以来、「顧客一人ひとりが経済的な保障と心の平和を得ることができるよう最高のサービスを提供する」というミッションのもと、全国46拠点、2,003名(2002年3月1日現在)のライフプランナー(LP)により販売活動に励んでいる。
 保険商品は一生涯に支払う保険料を計算してみると、思った以上に高価な買い物になる。また、同じ30歳の男性でも既婚者と未婚者では必要な保障が異なるのは当然のことである。同社では、顧客に保障内容を良く知ってから購入していただけるよう、生命保険のプロフェッショナルであるLPによる、顧客ニーズに基づくコンサルティング販売を行っている。
 業績は順調に伸びており、2000年度における保有契約件数は前年比18.7%増の86万7,257件、保険料収入は前年比18.9%増の1,935億円、総資産は前年比28.6%増の5,631億円となっている。

顧客との結び付きを深めるためにCSCを開設

 同社では、顧客が自社の商品やサービスにどのくらい満足しているかを知るために、1994年から顧客満足度調査を実施している。対象となる顧客は無作為に抽出した約1万1,000名で、調査項目数は100以上に及ぶ。
 その結果によると「プルデンシャル生命保険を友人に勧めていただけますか?」との問にYesと答えた顧客が96%と、高い顧客満足度を誇っている。しかし、経年変化を見れば、やはり契約時から時間が経った顧客に関しては満足度が低下しており、中には、「契約後、LPと会う機会がない、少ない」などの声を寄せてくる顧客も少なくないのは事実であった。
 一方で、キャリアを積んだLPの場合、顧客数は1,000件をゆうに超え、顧客に、すべての局面においてきめ細かく対応するには、どうしても物理的な限界が出てくる。
 顧客とのインターフェースの主役はあくまでLPとしつつ、事務能率を向上させる。これにより、LPが対面によるクオリティーの高いサービスに注力できるようにし、顧客の満足度を向上させるという経営の要請を受けて、2001年3月、宮城の仙台にカスタマーサービスセンター(CSC)を設立。同年 8月、カットオーバーに至った。
 仙台を立地として選んだそもそもの理由は、リスク管理にある。
 当初はCSCの立地は東京本社の近辺がいいという考えもあったが、それでは災害時に本社、CSC共に機能不全に陥り、企業活動ができなくなってしまう。そこで、本社機能のバックアップも兼ねて、地方に設置することとなったわけだ。
 全国20カ所以上の地域が候補地に挙がったが、最終的に仙台を選んだ理由としては、宮城でコールセンターなどの情報通信関連事業所を新設、または移転する企業を対象とした優遇策を実施しており、スペース費や人件費が補助されることがある。加えて、優秀な人材が多く採用が容易であること、通勤に便利なことなども大きな決定要因になった。

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CSCのオペレーション風景

役割を明確にして業務効率と顧客満足度を向上

 CSCの目的は、まず顧客に正確・迅速・丁寧なサービスを提供することにより、満足度の向上を図ること。次に、LPに集中しがちな保全事務の一部を代行することにより、LPの活動効率を高め、LPならではの“Face to Faceのサービス”を提供すること。さらに、全社的な契約保全事務の集約、および効率化を実現すること。
 単純な住所変更などLPでなくてもできる事務的な仕事をCSCで行い、LPの業務を保障の見直しなどFace to Faceのサービスに特化することで、LPの生産性を高めると同時に、顧客満足度も向上させることが狙いだ。
 現在CSCでは、①顧客からの問い合わせ受付および手続き受付、②資料請求受付および発送、③LP経由での手続き依頼の受け付けを行っている。

CSSは現地で採用

 顧客およびLPからの問い合わせには、電話、ファックス、eメールで対応している。
 着信時に顧客からの電話か、LPからの電話かを判断するために、顧客用とLP用に異なる電話番号を用意。回線にはNTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを利用している。
 受付時間帯は、月曜から金曜日の午前8時から午後9時までと、土日・祝日の午前9時から午後5時まで。年末年始も土日・祝日と同様の営業時間としており、年中無休となっている。
 受け付けに当たるのは、18名のカスタマーサービススタッフ(CSS)と8名のシニアカスタマーサービススタッフ(SCSS) 、そして2名のスーパーバイザー(SV)の計28名。CSSは、全員が現地採用した社員である。
 このほか、発送業務を行う派遣スタッフが4名、品質・シフト・システムの管理を行うスタッフが5名、センター長をはじめとするマネジメントスタッフが3名おり、全員が一丸となって業務に当たっている。
 CSC内には、37席のオペレーションブースのほかに、各種書類の発送業務やシステム管理を行うブース、12名までの集合教育が可能な研修ルーム、そして休憩ルームがある。休憩ルームにはソファーが置かれており、長時間椅子に座って仕事をしているサービススタッフへの気遣いがうかがわれる。さらに、自動販売機、テレビ、電子レンジ、冷蔵庫を完備しており、自宅さながらの様子だ。

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研修ルーム(写真左)/休憩ルーム(写真右)

システムをゼロから構築

 CSCの開設に当たり、同社では業務内容に合わせたシステムをゼロから構築した。既存のシステムをカスタマイズするだけでは、すべてのニーズに対応できないと判断したのである。やりたいことが明確であったため、妥協は許さなかった。
 要件定義を含めて、開発に要した期間は約1年。①電話、eメール、ファックス、郵便および本社への来店コンタクトの一元管理、②CTIによる業務の効率化、③コンタクト・トラッキングと業務手続きをシームレスに融合、④生命保険の複雑な名義情報を顧客データと連係、⑤スピーディーなシステム・セッティングの5つをコンセプトに構築がなされた。ACD、ミドルウエアには日本アスペクトコミュニケーションズのAspect Enterpriseを導入している。
 システムをはじめとする設備費や人件費など、コールセンターの開設・運営には多額の費用がかかる。そのため、コールセンターは“コストセンター”と言われているが、同社では、CSCにかかる費用は“サービス”を創出するための新たな投資と考えている。
 また同社では、CSCでLPのサポートをすることにより、LPの活動時間中の保全業務に費やされるリアクティブな時間を最大で56%から28%に縮小することができると試算。さらに将来的には、本社関連部門の人員増を抑制することも可能と考えている。

専任のトレーナーを起用し、教育に注力

 CSCでは研修専任のトレーナーを起用し、SVとともに教育に当たらせている。研修専任のトレーナーは、コールコーチと業務指導担当に分かれており、前者はOffJTによる言葉遣いや感じのいい話し方、後者は業務知識の教育を担当。SVは、OJTを担っている。
 人材の育成には終わりがない。そこで同社では、永続的なスキルアップを目指しトレーニングサイクルを確立した。
 これは「PLAN」「DO」「CHECK」の3ステップからなるもので、まずPLANでは、SVとコールコーチがモニタリングして、その結果をもとにミーティングを行う。その後、CSSとミーティングを行い、結果をフィードバックした上でトレーニング方法を決定する。次に、DOでそれを実践。OJTでカバーしきれない部分はOffJTで補う。そして、CHECKでもう一度、SVとコールコーチがモニタリングしてミーティングを行い、モニタリング結果をCSSにフィードバックする。CSCではこれを、「PLAN」「DO」「CHECK」の頭文字を取って“PDCサイクル”と呼んでいる。
 このPDCサイクルを繰り返し行っていくことにより、CSCではオペレーションスキルがらせんを描くように向上していくことを期待している。
 同社では、CSSに対してまず始めに業務知識の研修から取り組んだため、トークレベルはまだまだ研修が不足していると見ている。そこで今後は、トーク品質の向上を課題としている。

まずは試験的にサービスレベルを設定

 受付状況を見ると、2001年8月のカットオーバー直後は、1日200件程度であったが、10月から11月にかけては、年末調整のお知らせをしたことにより、倍以上に増えた。現在では、問い合わせが多く寄せられる月曜日を除いては1日当たり250~300件と落ち着きを見せているという。このうちLPからの電話は、約30%となっている。
 現在、CSSでは10秒以内に90%以上のコールを取るなど、目標値を設定している。これは、適正なサービスレベルを見極めるために試験的に定めた数値であるが、今のところクリアできているという。
 一方、eメールによる問い合わせ件数はまだまだ少なく、1日10~20件ほど。こちらは、電話のような曜日による件数のばらつきは見られない。返信は、最長12時間以内を原則とし、送信前には必ずSVのチェックが入る仕組みになっている。

課題と今後の展開

 CSCでは、センター運営における課題として、先に挙げたトークレベルの向上以外に、モチベーションコントロール、コンタクト情報の有効活用、コスト効率、評価制度の確立、コール量の予測に基づくシフト管理など、さまざまな事柄を挙げている。
 中でも評価制度については、具体的なアイディアを持っている。前述のPDCサイクルをこれに発展させようと考えているのだ。モニタリングの結果によってトークスキルの向上が現れていれば、昇給するなどのインセンティブを設けることも検討しているという。
 また、CSSは全員社員であることから、労働基準法の規制などにより、フレキシブルなシフトが組みにくい。加えて、この7月には増員を予定していることもあり、今後はワークフォース・マネジメント・ツールを導入し、科学的なシフト管理を行っていく意向だ。
 さらに、これまではカットオーバーそのものがモチベーションを高めていたが、それから7カ月が過ぎた今、新たな志を持ち、オペレーションに臨むことが大切と認識している。
 このように課題も多々あるが、CSCでは、これまで大きなミスもなく業務を行ってくることができた。その理由としては、CSC内に研修専任のトレーナーを置いたことと、現地でいい人材を採用できたことがある。
 同社のミッションに立ち返ってみると、CSCは顧客の“心の平和”を具現化したものでもあると言える。CSCでは、今後も、正確・迅速・丁寧をキーワードに、顧客対応に努める意向だ。同時に、LPの秘書役として、業務効率の向上にも注力していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年4月号の記事