通信ネットワーク最前線(第47回):高品質な介護サービスの提供を目指して

(株)コムスン

在宅介護サービスのパイオニア、(株)コムスン。介護保険制度開始に先駆けて東京・六本木に開設されたコールセンターの現状と今後の展開について話を聞いた。

介護保険制度開始に向けてコールセンターを開設

 1988年に設立した(株)コムスンは、厚生省から日本ではじめて24時間巡回介護モデル事業として指定された高齢者介護の専門企業。同社では、2000年4月の介護保険制度のスタートに先駆けて、1月22日よりTVCMの開始と同時に、コールセンターを開設してお客様からの各種問い合わせ受付を開始した。
 同社では、東京・六本木の本社内に100席のコールセンターを設置した。
 オペレータの採用に当たっては、コールセンター業務の経験者、接客業経験者、サービス精神が旺盛、明朗活発、福祉・介護業界に興味があることのいずれかと、5日間の導入研修に参加できることを条件とした。二度の求人を行った結果、計約600名の応募があり、そのうちの350名に面接を行い、導入研修を実施。最終的には、半数を越える220名を採用した。多くのコールセンターでは、センターの運営における問題点として、オペレータの離職率の高さを挙げている。そこで同社では、このような現状を踏まえて、採用人数を決定したという。
 導入研修は、1月17日から21日までの5日間にわたって行われた。介護保険制度について1日半、ビジネスマナー、および電話応対マナーについて専門の講師を招いて1日半の研修を行った後、残りの2日で会社概要とコールセンターの1年間の目標について理解を深めるとともに、ロールプレイングを実施。翌22日にコールセンターをオープンした。

24時間・年中無休で受け付けを実施

 コールセンターの受付窓口には、NTTのフリーダイヤルを利用している。フリーダイヤルを導入した一番の理由は、お客様が気軽に電話をかけられるようにとの配慮によるもの。また、フリーダイヤルと言うだけで、通話料が無料であることがお客様に容易に伝わるのも理由のひとつだ。
 コールセンターの告知には、TVCM、新聞、ラジオ、折り込みチラシ、ホームページのほか、パンフレットをはじめとするすべての販促物を活用。これらすべてにフリーダイヤル番号を記載している。
 ちなみにTVCMに関しては、ひとりでも多くの人の目にふれるよう、番組提供からスポットに切り替えた。今後は、来年の3月まで継続的に放送していく計画。
 フリーダイヤルの受付時間帯は24時間・年中無休。受け付けに当たるのは、オペレータ220名と介護福祉士やケアマネージャーの資格をもった対応相談員6名の計226名。オペレータは30~40名単位の5つのチームにわかれており、1チーム当たり常時20名が稼働している。
 コールセンター・システムにはNECのACDを導入して、受付準備の整ったオペレータに効率よくコールをつないでいる。
 オペレータの業務内容は、お客様対応から後処理まで。電話を切った後、受付内容をシートに記入し、必要に応じて相談員とともに対応策を検討、全国約1,000カ所にあるケアセンターにFAXで連絡をしている。書面だけでは伝えきれない微妙なニュアンスを電話で補足すると同時に、お客様の状態や希望を確実に伝え、お客様の希望通りのサービスが提供できるよう努めている。
 このような電話応対から後処理までを含めると、ひとりのオペレータが1日に対応できる相談件数は約20件であるという。
 対応相談員の業務内容は、対応策の検討とお客様へのフォローコール。問い合わせ内容のモニタリング結果と対応内容記入シートに基づき、オペレータによるアドバイスが不足していたり、もっと詳しい情報を聞き出すことができたのではないかと思われるお客様へのフォローコールを実施している。併せて、その場でオペレータにアドバイスをし、OJTにより効果的にスキルを高められるよう働きかけている。
 また同社では、OJTのほかにステップ・アップ研修を実施してオペレーション品質の維持・向上を図っている。研修内容は話法、事業方針、介護保険制度などに関するものとなっており、社員やケアマネージャーが週1回の頻度で、1回につき10名前後のオペレータを対象に行っている。

サービス開始までの流れや各サービスの内容を写真付きでわかりやすく掲載したパンフレット1。 サービス開始までの流れや各サービスの内容を写真付きでわかりやすく掲載したパンフレット2。

サービス開始までの流れや各サービスの内容を写真付きでわかりやすく掲載したパンフレット。
表紙には“ハロー・コムスン”と語呂合わせのいいフリーダイヤル番号を記載している

コムスンのホームページ(http://www.comsn.co.jp)。
トップ画面にはフリーダイヤル番号が大きく記載されている

オペレータに求められる能力と応対に当たっての留意点

 コールセンターに寄せられる問い合わせは、同社が提供するサービスの内容や介護保険について、および介護相談など。要介護者の家族だけでなく、要介護者本人からの電話もあるという。
 お客様の中には、介護サービスを利用するに当たって必要な手続きについて説明をすると、面倒に感じたり、内容を理解できずにあきらめてしまう方も少なくない。そこで同社では、説明を求められた場合や、自分で手続きができると思われる方には説明をするが、それ以外のお客様にはすべての手続きを代行する旨を伝えるまでに留めている。お客様の悩みや、どの程度の介護が必要なのかは十人十色であり、あらゆるケースへの対応方法をマニュアル化することは難しい。したがって、オペレータには説明が必要なのか、1日も早いサービス提供が必要なのかを瞬時に判断し、臨機応変に対応する能力が求められるところだ。
 現在、お客様からの問い合わせ内容や相談に関する情報は紙ベースで管理されているため、同じお客様からの2回目以降の電話であっても、その都度はじめから事情をお話しいただかなければならない。この状況を改善するために、同社ではオペレータにオペレーションの最初と最後に必ず名乗ることを徹底させている。オペレータの名前を覚えて、次回の問い合わせの際に指名していただくことにより、スムーズに話しが展開できると考えているのである。
 また、コールバックの際にも、お客様の立場に立った心配りが必要だ。同社では、行政による介護保険制度のPRやTVCMの効果により、これまで閉鎖的であった介護業界のイメージが良い方向に変化してきたととらえている。しかし、介護サービスを気軽に選ぶことができる時代になりつつあるとはいえ、相談内容がナーバスであることにかわりはない。たとえば、要介護者本人からの相談の場合、「家族に申し訳ない」といった気がねや、「お嫁さんには頼みにくい」などといった事情があるため、サービス内容や料金がわかるパンフレットを郵送するに当たっても社封筒は使わないなど、細心の注意を払っているという。

半年間でコール数が3倍に増加

 コールセンター開設以降、コール数は着実な伸びを示している。1日当たりのコール数はTVCMや新聞への広告出稿のタイミングによって変動するが、スタート時の約200件/日から、半年後の6月には約600件/日と約3倍に増加した。同社では、今後も増加が続くであろうと予測している。平均通話時間は約16分。長いものでは1時間を越えることもあるという。
 サービスレベルを見ると、保留時間は20秒以内に設定されており、相談員への確認が必要なケースなど20秒以上になる場合は、一度「お待たせしております。もうしばらくお待ちください」といった言葉をはさんでからもう一度保留にするといった具合に、放置したままにしないよう配慮している。
 コールセンター開設当初は、発信番号の非通知通話や携帯電話・PHSからの通話も受け付けていたが、他人の名前を語る無責任な電話やいたずら電話が多く、頭を悩ませていたという。このような状況では、無駄な通話料が発生するだけでなく、オペレータのモチベーションまでをも低下させてしまうと考えた同社では、携帯電話・PHSからの受け付けを中止。発信番号が非通知の場合は、通知してかけなおしていただくようアナウンスしたところ、いたずら電話などが激減。1カ月当たり1,000万円弱かかっていた通話料の約4分の1を削減することができたという。

2000年4月27日に全国に配布された折り込みチラシの関東版。ケアセンターを掲載した表紙は地域ごとに差し替えられている。この日は、朝8時から深夜12時30分までに約2,000件のコールが寄せられた

2000年4月27日に全国に配布された折り込みチラシの関東版。ケアセンターを掲載した表紙は地域ごとに
差し替えられている。この日は、朝8時から深夜12時30分までに約2,000件のコールが寄せられた

質の高い介護サービスを提供するための施策

 現在、同社ではお客様のニーズにあった高品質な介護サービスを提供するために、以下の二つの課題に取り組んでいる。
 ひとつ目は、見込客のデータベース化。同社では、コールセンターに寄せられたお客様(見込客)の声をマーケティング・データとして活用していきたいとしているのだ。
 具体的には、蓄積したデータを分析することにより、広告の内容や出稿時期とお問い合わせの関係や、お客様が介護保険制度に対して感じていることを読み取ったり、入浴に関しては洗髪サービスが求められているといったサービスに関するニーズを掘り起こしていく意向。
 現在、見込客のデータベースを構築中だが、個人情報保護の観点からセキュリティ管理を徹底すると同時に、データベースにアクセスできるスタッフを限定する方針。人目に触れる機会を最低限に留めるというのがその狙いだ。
 二つ目は、インバウンドの空き時間の有効活用。
 同社では、コールの取り逃しによる機会損失を防止するために、余裕をもたせた要員配置を心がけている。そのため、時にはオペレータが時間を持て余してしまうこともあるのが現状。現在、空き時間を利用して医療施設、社会福祉協議会などを対象に、夜間、および土日・祝日の入浴サービスのニーズを探るためのアウトバウンド・コールを実施して、営業アポイントを取り付けている。このように同社では、顧客対応だけでなく、営業サポートを行うことによって、コールセンターに付加価値を付けていく方針だ。
 介護保険制度開始以降、介護サービスの利用が思うように伸びず、同社に限らず各社ともに苦戦を強いられている。しかし、そのような状況にあっても顧客のニーズにマッチした高品質のサービス提供を目指す同社の今後に期待したい。

コムスン本社内にあるコールセンターの様子。デスクと電話、ヘッドセットといったベーシックなコールセンターとなっている

コムスン本社内にあるコールセンターの様子。デスクと電話、ヘッドセットといった
ベーシックなコールセンターとなっている


月刊『アイ・エム・プレス』2000年8月号の記事