通信ネットワーク最前線(第41回)

(株)リコー

独自のコールセンター・システムを活用し、ビフォア・セールス、既存客への各種問い合わせ受付、およびクレームへの対応を行うリコー(株)の「お客様相談室」を紹介する。

「お客様相談室」の変遷

 コピー機やファクシミリなどのOA・情報管理機器を通じて、企業と深く関わっている(株)リコー。同社では、1981年より「お客様相談室」を設けて、ビフォア・セールス、および購入後のお客様からの操作・仕様に関する問い合わせや意見・要望を受け付けている。「お客様相談室」開設以前は、広報部広報課にお客様対応窓口を設けて代表番号で受け付けていたが、実際に受け付けを開始したところ、クレームだけでなく商品や購入に関する問い合わせが多く寄せられたことから、お客様対応専門の窓口を設ける必要性を感じ、開設に至った。開設当時はQAセンターと呼ばれており、組織上は企画本部に置かれていた。このQAには、リコー製品の品質を保証する意味のクオリティ・アシュアランス、お客様からの質問に答える窓口のクエスチョン&アンサー、また、迅速な対応を心がけるクイック・アクシンの3つの意味が込められている。
 その後同社では、1984年にお客様が負担する通話料の軽減を目的に、全国の8支店それぞれに受付専用の電話番号を設置。支店・本社間を専用線で結び、お客様の通話料負担を支店までに軽減した。しかし、支店と本社を結ぶ専用線を各1回線しか用意しなかったため、回線がふさがっていると、本社ではオペレータが待機しているにもかかわらず、支店に着信した時点でコールが放棄されてしまい、電話が通じにくいという状況に陥った。そこで同社では、1990年にフリーダイヤルを導入。本社でダイレクトに受け付けることにより、電話がつながりにくいという状況を改善。同時にお客様の通話料負担をなくし、お客様の地域に関わらず全国同じ条件で均一のサービスを提供できる環境を整え た。ちなみに同社が負担する通話料は、フリーダイヤルの割引サービスを利用することで軽減を図っている。さらに、その翌年の1991年にはCTIを導入し、独自のコールセンター・システム「アンサーシステム」を構築した。
 また近年では、パソコンとつないでプリンターとして使用できるコピー機が登場するなど、製品が多機能化しており、これにともない「お客様相談室」に寄せられる問い合わせの内容も多様化しつつある。そこで同社では、1995年よりパソコンに関する問い合わせ受付を開始。受付内容だけでなく、お客様のニーズに合わせて受付窓口も拡充するべく、1997年にはEメールでの問い合わせ受付を開始した。さらに、1999年には「アンサーシステム」のパワーアップを図り、「新アンサーシステム」を稼動させるなど、お客様のニーズや時代に合わせて体制を整備してきた。

顧客満足度を高める「新アンサーシステム」

 「お客様相談室」の役割は、お客様の声を収集し、関連部門等へフィードバックして製品企画やサービスの改善に役立て、最終的には顧客満足を獲得することである。その実現に欠かせないのが「新アンサーシステム」だ。「アンサーシステム」とは、お客様とテレコミュニケータの会話の一部始終を録音する多重録音システム、CTI、ACD、情報検索システムなどの「電話対応支援機能」、修理を担うグループ会社や消耗品の受注を担う販売会社の対応者への自動ダイヤル、およびFAX自動送信、クレーム解決管理といった「対応指示支援機能」、そしてお客様とのやり取りを録音した音声情報を添付したクレーム情報の公開、CS改善依頼、自然話検索システムなどの「情報発信・改善促進機能」を備えたコールセンター・システム(図表1)。「新アンサーシステム」は、これにNTTのナンバー・ディスプレイサービスを利用して電話番号情報からお客様を特定し、前回対応したオペレータに直接つなぐ「前回担当者ルーティング」を付加したものであり、前回対応したテレコミュニケータが離席中の場合には、同じグループの別のテレコミュニケータにつながる仕組みになっている(図表2)。これにより、お客様に同じことを繰り返してご説明いただくといったオペレーションの無駄を省き、スムーズなオペレーションによる顧客満足度の向上に努めている。

【図表1】アンサーシステム構成図 【図表2】新アンサーシステム

コールの約90%はテレコミュニケータが処理

 「お客様相談室」の告知媒体には、新聞広告、製品に同梱している取扱説明書、およびホームページを利用している(資料1)。
 受付時間帯は、平日の午前9時から午後7時と土曜日の午前9時から午後5時まで、日・祝日は休業となっている。受け付けに当たるのは、テレコミュニケータ47名とサポーター29名の計76名のスタッフ。テレコミュニケータは全員がテレマーケティング・サービス・エージェンシーや人材派遣会社からの派遣社員、サポーターは27名の同社社員と2名の派遣社員で構成されている。
 テレコミュニケータは製品ごとにグルーピングされており、IVRで振り分けられたコールは担当グループのテレコミュニケータにつながる仕組みになっている。テレコミュニケータはお客様の用件を聞き、手元の端末から必要な情報を検索しながら回答。受付内容を入力し、クレームは支店、および消耗品の受注を行う販売会社、修理依頼を受け付けるリコーテクノシステムズにも設けられているお客様相談室へ電話とFAXで対応を依頼する。後日、販売会社等から対応結果の報告を受け、その内容をデータベースに登録している。また、テレコミュニケータでは十分な回答が難しい専門性の高い問い合わせについては、サポーターが対応に当たる。「お客様相談室」に寄せられるコールの約90%はテレコミュニケータが処理しているという。
 「お客様相談室」では、テレコミュニケータにある程度の権限を委譲し、判断を委ねている。これにより、「上司と相談します」といった曖昧で弱気な対応を避けることが可能となり、自信をもった態度につながっているという。

【資料1】(株)リコーホームページに掲載されているお問い合わせ窓口の告知画面 【資料1】(株)リコーホームページに掲載されているお問い合わせ窓口の告知画面

FAXアンケートで顧客満足度を調査

 「お客様相談室」に1カ月間に寄せられる問い合わせ件数は、電話が約2万件、Eメールが約800件、FAXはごくわずかとなっている。内容別に見ると、「操作方法に関する問い合わせ」が最も多く、以下「症状に関する問い合わせ」、 「スペックに関する問い合わせ」と続く。1コール当たりの平均通話時間は6~7分。技術の進歩とともに製品が複雑化しているため、通話時間が長くなる傾向にある。コールが集中する時間帯は、午前11時と午後2時前後。
 「お客様相談室」のサービス・レベルは、電話接続率を85%以上、即答率を90%以上、Eメール回答納期を2営業日以内、保留時間を20秒以内、お客様満足度を90ポイント以上に設定している。お客様満足度については、ある一定期間を定め、その期間中に問い合わせをいただいたお客様へのオペレーションが終了した後、FAXでアンケートを送付するという方法で調査している。

お客様の声を関連部門等へフィードバック

 お客様から寄せられた問い合わせ内容はすべて録音し、データベース化している。「お客様相談室」では、これらの情報を新製品の企画・開発やドキュメント・デザイン・サービスの改善に反映させるべく、数々の取り組みを行っている。
 まず、毎月1回、製品やサービスに関するクレームや要望の中で最も重要と思われる課題をまとめた報告書「いま、市場では‥」(資料2)を発行。すべての役員、および企画、設計、生産に携わる事業部や販売サービス、宣伝等の 関連部門に配布している。これ以外にも、改善すべき内容については、該当する事業部、および関連部門へ随時CS改善依頼書を送付するかたちで対応。CS改善依頼書には音声情報を添付することが可能となっており、各部門のスタッフは、文字だけでは伝わりにくいお客様の微妙なニュアンスを感じ取ることもできる。また、経営部門、国内外の販売総責任者で構成されるCS委員会では、改善のスピード・アップを図るとともに、VSC(Very Serious Claim)管理制度を設け、本来、あってはならないとされるクレームに対応している。VSC管理制度とは、お客様からの大きなクレームを「お客様相談室」から販売本部長へ報告。VSCとして登録することが決定すると、グループ会社の社長に、同様のクレームを2度と起こさないための仕組み作りを依頼。ひとつひとつに指定番号を付けて管理し、その内容を全社で共有するというもの。
 実際にお客様と接する現場には、「問い合わせ便利帳」を配布。これは、具体的な個別対応例を示したもので、半期に1度発行される。さらに、1999年4月からは役員訪問を正式に制度化。常務クラスの役員がお客様を訪問して直接話を聞くことで、お客様の利用状況やクレームの原因を肌で感じることが目的だ。「お客様相談室」では、経営にかかわる役員が現場を知ることで、以前にも増して「いま、市場では‥」をはじめとするクレーム情報に対する役員の理解が深まったと評価している。
 また「お客様相談室」では、顧客満足度調査の結果と録音した会話をテレコミュニケータにフィードバックして、テレコミュニケータひとりひとりのスキル向上にも役立てている。

【資料2】「いま、市場では‥」1999年10月号の表紙。毎号250部発行されている

【資料2】「いま、市場では‥」1999年10月号の表紙。毎号250部発行されている

音声技術の活用を模索

 「お客様相談室」には、かねてよりお客様の待ち時間を短縮するという課題がある。この課題解決の鍵は“音声技術”にあるとの考えに基づき、「お客様相談室」では、音声認識技術を活用してテレコミュニケータの声をもとに対応に必要な情報を瞬時に検索・表示、お客様をお待たせすることなくスムーズなオペレーションが展開できる環境を模索しているところだ。また、もうひとつの課題として、昨年から稼動している「新アンサーシステム」の「前回担当者ルーティング」のヒット率向上が挙げられる。現在の仕組みでは、同じお客様からの電話であっても、前回使用した電話番号以外からかけた場合には、必ずしも同じテレコミュニケータにつながらない。そこで「お客様相談室」では、毎回、同じテレコミュニケータに電話がつながるよう、声紋認識技術を活用してお客様を特定することができないか模索中である。
 また、サービス・レベルを向上させ、顧客満足を獲得できるオペレーションを実現するために、基幹となる顧客データベースは欠かすことのできない要素と言える。現在、同社の顧客データベースは複数に分かれており、複数のリコー製品を利用しているユーザーの情報が複数のデータベースにそれぞれ不完全な状態で登録されているといった問題がある。さらに、総務部がまとめてコピー機を購入して、各部署へ設置した場合などには、末端のユーザー情報が必ずしも登録されているとは限らない。製品にはすべてユーザー登録ハガキを同梱しているが、これも必ずしもすべてが返信されるとは限らないのが現状だ。同社ではこのような事態を重く見て、あらゆるユーザーの情報を統合的に網羅した核となる顧客データベースの構築を急いでいる。
 一方、サービス面では、時間外の対応方法を検討していく意向。デジタル・カメラやCD-Rなどのパーソナル商品の取扱開始により、夜間の問い合わせ受付へのニーズが高まっていることがその理由だ。今のことろ、受付時間外はEメール、もしくはFAXで受け付けるか、留守番電話にメッセージを録音してもらい、翌日に対応。また、ホームページ上に頻繁に寄せられる質問を公開して、時間外の情報提供を実施している。
 「お客様相談室」では、今後、顧客満足の獲得に向けて、システム面、サービス面ともに、さらなる改善に取り組んでいきたいとしている。

(株)リコー本社(東京・青山)にある「お客様相談室」の様子

(株)リコー本社(東京・青山)にある「お客様相談室」の様子


月刊『アイ・エム・プレス』2000年2月号の記事