通信ネットワーク最前線(第20回)

チューリッヒ・ライフ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド

1996年10月、日本初の通販専業の生命保険会社として日本国内への参入を果たしたチューリッヒ生命。 同社における生命保険マーケティングの現状と展望について話を聞いた。

日本初、通販専業の生命保険会社をスタート

 チューリッヒ・ライフ・インシュアランス・カンパニー・リミテッドは、スイスのチューリッヒに本社を置く世界有数の保険機構、チューリッヒ保険グループの中核メンバー。チューリッヒ保険グループは、1872年の創業以来、損害保険事業を展開。1922年には生命保険事業にも着手し、一歩一歩確実に事業を拡大してきた。一方でイギリス、ドイツ、アメリカをはじめとする世界各国に進出。現在では、世界38カ国で保険事業を展開するグローバルな企業グループとして確固たる地位を築いている。
 経済の低迷が続く中でも、日本の国民ひとり当たりが負担する年間保険料は4,000ドル弱と世界標準の約3倍に達している。世界の保険マーケットの約4割を占める日本の保険マーケットは海外の保険会社にとっては非常に魅力的。そこで、同グループは1986年、チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー日本支社を設立して日本市場への参入を果たし、損害保険事業をスタートした。続いて1996年8月、チューリッヒ・ライフ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド日本支社を設立して、同年10月より生命保険事業に参入。日本初の通販専業の生命保険会社として新たなスタートを切った。
 1996年に打ち出された日本版金融ビッグバンによる商品・価格の自由化、生・損保の相互乗り入れをはじめとする規制緩和が、損害保険をメインに扱ってきた同社にとって生命保険乗り入れの絶好の機会となったのである。世紀末から21世紀にかけて保険業界を取り巻く状況が大きく変化していく中でも、リスクを引き受けることが仕事であるという同社のスタンスは変わらない。同社がマーケティングの手段として通信販売を採用したのは、状況の変化に流されることなく、お客様の変化に柔軟に対応していくためには、ダイレクトマーケティングが最適だと考えたからだ。

効果的な告知活動で短期間に大量の契約を獲得

 同社では、日本のマーケット規模や人口構造の変化、規制緩和の進行などを的確にとらえ、世界各地で培ったノウハウと経験を活かして事業を展開している。
 生命保険業界は、どの国においても規制が厳しい業界であったため、商品内容や価格、サービスに至るすべてが横並びになる傾向があった。しかし、規制が緩和され、自由化が進むとともに、お客様は各社のブランド力や商品内容、価格、サービスを比較・検討して、自分にふさわしい保険を選ぶようになる。そこで同社が重視しているのが、Convenience (便利) とReliance(信頼性)。Convenienceは、「低単価」「必需品」「無添加」、Relianceは、「フリーアクセス」「フリールック」「安定供給」を意味している。このConvenienceとRelianceをもとに開発された商品が、「980円からのガン保険」、「1,980円からの入院保険」「852円からのスーパー定期保険」「女性保険」の合計4種類。これらはすべて、低単価で必要性の高い商品である。
 通信販売において、広告媒体や出稿時期の選択は重要な要素。同社では商品の告知に、新聞、雑誌、テレビ、ラジオといったマスメディアをフル活用している。このほか、競合商品を取り扱っていない通信販売会社のカタログにチラシを同封したり、レンタルビデオの「TSUTAYA」やクレジットカード会社との提携による告知活動を展開。また、P/Cネットも活用している(図表1参照)。
 顧客のニーズにマッチした商品企画と多角的な告知活動が実を結び、免許取得後、業界では最短の9カ月間で1万件の契約件数を獲得。1998年3月末における保有契約件数は4万件。年換算保険料は15億円に達した。この数字は、事業開始当初の計画の3倍強にあたるという。

【図表1】ダイレクトチャネルの開拓

全契約者を対象に「顧客満足度調査」を実施

 同社が実施している主なサービス内容は、①申込日から1カ月間のクーリングオフ、②午前8時から午後7時までのフリーダイヤルによる保全受付、③健全性・安定供給、④銀行振込による初回保険料の集金である。現在、国内の生命保険会社において1カ月間のクーリングオフを設けているのは同社のみ。保険は生活設計に関わる商品だけに、お客様には商品をよく理解した上で、最適な保険を買っていただくことが大切。同社では契約後、改めてお客様に本当に必要な保険だったのかを見極めていただくと同時に、同社を理解していただくために、この1カ月間を“お試し期間”と位置付けているのだ。
 また同社では、全契約者を対象に「顧客満足度調査」を実施している。契約後に送付する保険証券に、同社の対応やフルフィルメントサービスに関するアンケート用紙を同封。回答を記入の上、返送してもらい、全員にプレゼントを送る仕組みだ。回収率は25%と非常に高く、契約者の4人に1人が回答している計算になる。回答結果を見ると、同社の対応については、「思ったより早い」が67.5%、「少し遅い」が29.1%、「遅い」が3.5%。契約後のフルフィルメントサービスについては、「優れている」が33.1% 、「良い」が45.7%、「標準的」が20.4%、「標準以下」が0.7%、「不満足」が0.2%となっている。同社では、アンケートによって収集したお客様の声を貴重な財産と考え、業務の改善やサービス内容の拡充に反映させている。

同社の主力商品「ガン保険」を告知する新聞広告。“980円からのガン保険”のショッキングなキャッチフレーズが目をひく

同社の主力商品「ガン保険」を告知する新聞広告。“980円からのガン保険”のショッキングなキャッチフレーズが目をひく

アウトソーシングとインハウスを使い分け

 同社の通信販売は、広告で商品を告知して資料請求を募り、資料といっしょに申込書を送付。お客様に必要事項を記入していただき、郵送で申し込みを受け付けるという手順で行われる。
 資料請求の受け付けには専用の電話とFAX、ハガキを使用。電話は通販開始当初からフリーダイヤルを使用し、問い合わせも含めて、全国共通の0120-680-777番で受け付けている。受付時間帯は午前8時から午後7時までで、年中無休。コールが集中する広告出稿直後は、受付時間を午後11時まで延長するなどして、溢れ呼を最低限に抑えるよう努めている。
 同社では広告出稿後の問い合わせ、および資料請求受付から資料送付後のフォロー・コールまでは、テレマーケティング・エージェンシーにアウトソーシングしている。
 一方、本人への保険内容確認や保全など申し込み以降のフルフィルメント業務については、社内にコールセンターを設け、インハウスで対応。契約者からの問い合わせや保全の受け付けのために、契約者専用のフリーダイヤル番号を設けている。この契約者専用フリーダイヤル番号は、保険証券をはじめ、同社が契約者に向けて発行するすべての文書に記載し、告知を徹底している。
 フリーダイヤルの導入は、お客様の利便性を向上したばかりでなく、通話料金を気にせずにお客様に納得していただけるまで充分な時間をかけて商品説明ができるというメリットをもたらしている。

テレマーケティングへの取り組み

 保険は私たちの人生に関わるナイーヴな商品であり、また、ニーズが顕在化しにくい商品でもあると言われている。日々のお客様との会話の中には、保険のあり方やその販売方法について、改めて考えさせられる点も少なくない。そこで、電話をくださったお客様とコミュニケーションを深めるところから潜在ニーズをキャッチし、マーケティングのヒントを得ることが大切なのである。
 同社では、“テレマーケティング”の“テレ”をテレホンではなく、“通信や広告を活用して遠隔地のお客様に対してマーケティングを行うこと”ととらえている。テレマーケティングは営業やコミュニケーションの有効な手段である。しかしこれを、お客様とコンタクトをとるためにアウトバウンドをかけたり、インバウンドにより資料請求を受け付けるための単なるシステムと考えていては、保険を売ることはおろか、そのベースとなるお客様とのコミュニケーションすらままならない。お客様との良い関係を築くためには、たとえばインバウンドではフリーダイヤルの設置が不可欠であるし、アウトバウンドでは、インバウンド以上に丁寧で上品な応対が望まれる。同社では、商品知識やオペレーション技術のさらなる向上を目指し、今後ますますオペレータ教育に力を入れていく意向である。
 同社では1996年10月に生命保険事業に参入して以来、今日まで猛スピードで走ってきたため、業務フローにはまだまだ改善の余地があると考えている。そこでこれからは、テレマーケティングのレベルを確実にアップさせていくために、実際に業務を行いながら、焦らずコツコツと関連部門間での業務の連携方法や、オペレーション・スクリプトについてのノウハウを積み上げていきたいとしている。

21世紀に向けて

 今後同社では、顧客満足度の維持・向上を図るため、商品・サービスをさらに拡充していく構え。商品面では、1998年5月から「780円の学資保険」を新たに販売する予定。また、サービス面では、医療の専門家による保険相談と医療相談を兼ねた相談サービスや、申込日と保険施行開始日のずれをなくし、申込日から保険が施行されるような体制作りの一環として、クレジットカード対応を実施していきたいとしている。
 また、契約時に行っている顧客満足度調査を、今後は年1回のペースで実施していく計画。お客様が日頃同社に感じていることや、どんな商品に必要性を感じているのかを継続的に読み取り、日々の業務改善やサービス内容の充実に役立てていくのがその狙いだ。
 21世紀に向けて、インターネットをはじめとする通信技術はますます進歩するだろう。対面ではなく情報メディアによって保険を販売している同社にとって、今後これらの新たな情報テクノロジーがどのように使われていくかは、興味深いテーマのひとつ。ダイレクト・レスポンス・メディアとしてこれらをどのように採り入れ、活用していくのか。同社の今後の展開に期待したい。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年5月号の記事