「喜ばれることに喜びを」をモットーにソフト/ハードの両面でさまざまな“おもてなし”施策を展開

巣鴨信用金庫

東京都豊島区巣鴨に本拠を置く巣鴨信用金庫では、地元の縁日に合わせて本店ホールを無料開放する「おもてなし処」など、ホスピタリティに富んだ各種施策を展開。今後も現場職員からの提案などをもとに、ホスピタリティを体現する取り組みの強化を図っていく意向だ。

とげぬき地蔵尊の縁日に本店3階ホールを開放し「おもてなし処」を運営

 1922年(大正11年)、大正バブル崩壊後、企業倒産・銀行の取り付けなどが相次ぐ厳しい時代の中で、相互扶助の精神のもとに地域の人々によって「有限責任信用組合巣鴨町金庫」として創立した巣鴨信用金庫。現在では東京23区をはじめとする東京都内のほか、埼玉県に店舗網を拡大し、それぞれの地域で地域密着型の営業活動を展開。2013年3月末現在の店舗数は43、融資残高は7,959億5,700万円、総預金残高は1兆6,301億円に及んでおり、地域経済に根付いた金融機関としての地位を確立している。
 同金庫では1997年、“金融機関”から“金融サービス業”への転換を図ることを標榜。以降、「喜ばれることに喜びを」をモットーにホスピタリティに基づく取り組みを続けてきた。昨今ではさらに“金融ホスピタリティ業”“ホスピタリティバンク”を目指すべく、その取り組みの強化を図っている。
 同金庫の“おもてなし”マインドを象徴する取り組みのひとつが、1992年5月にスタートした「おもてなし処」だ。
 「おもてなし処」の基本的な内容は、同金庫本店が所在する豊島区巣鴨のとげぬき地蔵尊の縁日に合わせて、毎月“4”の付く日(土日・祝日を除く)の午前10時から午後2時50分まで、本店3階のホールを開放。おせんべいとお茶を用意し、縁日を訪れるお客さまに無料で休憩してもらおうというもの。同金庫との取り引きの有無にかかわらず利用が可能であり、シニア層を中心とする多くの利用者に好評を博している。
 この取り組みは、縁日にとげぬき地蔵尊周辺で自由に利用できるトイレが少なく、困っていた参拝客に本店1階のトイレを開放したところ、トイレの利用の後、近くに設置しているソファで休憩する利用者が多かったことに端を発している。縁日の舞台である巣鴨地蔵通り商店街と同金庫本店の間には白山通り(国道17号線)があり、歩道橋を使って道路を横断することになるため、シニア層を中心とする利用者にはトイレ利用に伴って休憩が必要となっていたのだ。
 このような状況を把握した同金庫では、当時、金庫内の研修・会議のほか、外部貸し出しなども行っていたものの、空いている時間も多かった3階ホールを無料開放することとし、「おもてなし処」がスタートしたのだ。

2013年5月に累計利用者が100万人を突破

 「おもてなし処」のスタート時には、巣鴨地蔵通り商店街で同金庫の職員がチラシを配布するなどして告知。当初は1日150人程度の利用であったが、その後、クチコミなどで徐々に利用者が拡大し、昨今では1日の利用者は3,000人近くにも及んでいる。取り組みスタートから21年目に当たる2013年5月には、累計の利用者が100万人を突破した。なお、現在ではホールを開放し、おせんべいとお茶を用意するだけではなく、同金庫取引先の協力で毎回異なる店舗が「商店街の小さな出店(でみせ)」を出店し、来場者を楽しませる。さらに、月に1回は若手落語家などを招いて「お楽しみ演芸会」を実施しており、これらもシニア層を中心とする利用者に好評を博している。
 また、希望者に利用いただいている「お地蔵さん通帳」(お地蔵さんのイラスト付きの普通預金通帳)で提供している「お地蔵さんスタンプサービス」(来場ごとに捺されるスタンプ24個でオリジナルグッズを提供)も人気である。
 「おもてなし処」の運営は、同金庫業務部を中心に輪番制で本部内各部署が協力して担っており、毎回15名前後が誘導やお世話を分担している。特に本部内各部署のスタッフは、通常、お客さまと直接触れ合うことが少ない業務を担当しているケースも多いことから、それらのスタッフにとってはお客さまとの直接コミュニケーションを取る貴重な機会となっているとのことだ。
 「おもてなし処」は前述の通り、同金庫との取り引きの有無にかかわらず無料で利用が可能であり、用意するおせんべいとお茶のコストや運営にかかわる人件費なども、基本的にすべて“持ち出し”である。しかし、地域密着型の営業展開を行う同金庫では、お客さまとの直接のコミュニケーションで職員の“おもてなし”に対する感性が磨かれることや、前述の「お地蔵さんスタンプサービス」により、取引欄は一杯になっていなくてもスタンプ欄が一杯になったことを機に預金通帳の更新がなされるなど、お客さまと同金庫のやり取りが増えることを大きなメリットと考えており、今後もこの取り組みを継続していく意向である。

1401C11

1日3,000人近くが訪れる「おもてなし処」(上)では、お茶とおせんべい(右上)を無料配布。月1回の「お楽しみ演芸会」も人気を呼んでいる (右)

ソフト/ハードの両面でのホスピタリティ体現を目指す

 同金庫では「おもてなし処」だけでなく、日常的に、ホスピタリティに基づくさまざまな取り組みを行っている。
 例えば、各店舗では通常の金融機関より5分早い8時55分に開店する「Five minutes for you」を実施し、朝の忙しい時間、シャッターの前で開店を待つお客さまの不便を解消。さらに、「サービスデスクアフター3」と称し、平日の午後3時から午後6時(一部店舗では午後5時)まで、ATMコーナーで職員が通常の窓口と同様の対応を行うサービスを提供し、通常の営業時間内には来店しづらいお客さまへの対応を行っている。
 また、窓口テラーの業務日誌である「テラー日誌」では、主要な記載項目を、業務実績から“お客さまに喜ばれたこと”に変更。さらにテラー担当者に「ホスピタリティ口」という経費予算枠を設定し、例えば窓口でのお客さまとのコミュニケーションを通じて、ご子息が結婚したことがわかった場合、お客さまが各種手続きを行っている間に予算枠内でプレゼントを購入し、手続き完了時にサプライズプレゼントをするといった試みを行って、お客さまの感動と喜びにつなげている。
 これらの取り組みは、現場の職員からの提案をきっかけにスタートしたものが多い。経営層も職員からの提案が“お客さまに喜ばれること”であれば積極的に採用する姿勢を採っていることから、日常的にさまざまな提案が行われ、これが実現するケースも少なくないとのことだ。
 同金庫では「喜ばれることに喜びを」というモットーの下、イントラネット上にホスピタリティ・ブログを開設し、各店舗での“お客さまに喜ばれた取り組み”を相互紹介する施策などを展開。また、新卒学生の採用に当たっても、ホスピタリティを重要な基準としている。これらによって、目先の利益よりも“お客さまに喜ばれること”を優先する文化の浸透を図っている。
 なお、同金庫では現在の“おもてなし”にかかわる取り組みを必ずしも十分なものだとは考えておらず、さまざまな角度でさらなるブラッシュアップを図っていきたいと考えている。例えば、2012年12月に新築オープンした江古田支店では、来店したお客さまの居心地を高めるため、1階と2階が吹き抜けで外壁の全面ガラスから陽光が降り注ぐ“竹の庭”を設けるなど、従来の金融機関にはない店舗を実現している。今後もソフト/ハードの両面でホスピタリティを体現する取り組みの強化を進めていく方針である。


月刊『アイ・エム・プレス』2014年1月号の記事