生保業界では大手を中心に、営業活動の支援を目的としたタブレット導入が相次いでいる。明治安田生命保険(相)では2013年9月から、独自仕様の専用タブレット端末3万台を導入し、本格運用を開始。タブレット端末としては大きめの12.1インチの液晶画面や高速モバイル通信機能を採用するなど使い勝手を重視している。
生保業界で以前から広く利用されてきた業務システム
生保大手の明治安田生命保険(相)は2013年9月から、独自仕様のタブレット端末「マイスターモバイル」の本格運用をスタート。全国で活躍する約3万人の営業担当者「MYライフプランアドバイザー」(以下、アドバイザー)に、1台ずつ端末を提供した。
生保業界では以前から、営業担当者向けの業務システムが広く利用されてきた。その機能は多岐にわたるが、基本的な機能は、営業担当者が契約を検討するお客さまと商談をする際に必要になる保障額のシミュレーションや商品プランの作成などである。家族構成や年収、住宅が持ち家か賃貸かといった条件から、教育費、ローン返済額、老後のための貯蓄など必要な生活資金を積み上げ、世帯の稼ぎ手が亡くなった時点で必要な保障額を試算。シミュレーション結果を受け、月々の保険料など提案プランを作成するわけだ。
ここ数年は、営業担当者がシステムにアクセスする際に使うデバイスを、ノートパソコンからタブレット端末に切り替えるケースが相次いでいる。外出先での利用を想定し、携帯しやすさが重視されているためだ。
同社では、アドバイザーを支援する業務システムの運用を1997年に開始。当初はノートパソコン端末を採用、その後はノートパソコンの機種入れ替えのタイミングで機能を拡充する“モデルチェンジ”を繰り返してきた。そして3回目のモデルチェンジとなる今回、初めて、タブレット端末を採用することになった。
こうした業務システムは、営業成績や業務効率に大きく影響するとの認識から、使用する端末や提供する機能などの仕様の決定は、営業現場の要望や経営的な判断を反映しながら慎重に進めてきた。
顧客情報への出先からのアクセスを可能に
1997年当時から懸案となっていたのは、インターネット回線にアクセスするモバイル通信機能の付加や、契約情報など個人情報の管理手法の確立である。当時はまだ、国内の通信インフラが未整備であったこともあり、最初のモデルでは、モバイル通信機能の採用は見送り、アドバイザーが外出前にあらかじめ契約情報を端末に保存し、営業先でオフラインの状態で端末を使用する運用とした。その後、1回目のモデルチェンジでも、この運用スタイルを踏襲。しかし2005年に個人情報保護法が全面施行され、端末の紛失や盗難による個人情報流出の懸念から、端末に契約情報を保存する運用を事実上、中止。これを受け、2回目となる2008年のモデルチェンジでは、契約情報を端末に保存しない仕様に変更。モバイル通信が可能な外部機器やサービスを使えば、契約情報にアクセスできるようにしたが、アドバイザー側で通信環境を整える必要があったため、実際の利用は限定的だった。この結果、端末はもっぱら営業拠点内で使用されるようになり、訪問先で端末を使って営業するという理想像からの後退を余儀なくされていた。
そこで今回のマイスターモバイルには、(株)NTTドコモの高速モバイル通信「Xi(クロッシィ)」に対応する通信機能を標準装備し、通信設定や操作を簡素化。また通信機能を生かして、契約情報を参照したり、新たに登録したりする機能を充実させ、長年の懸案事項を解決したのである。
モニターやキーボードを接続しデスクワークでも使用
今回のモデルチェンジは、端末の機種選定も大きなポイントだった。デバイスには、軽量で携帯性に優れ、なおかつデスクワーク時にもモニターやキーボードなど周辺機器と接続し、従来のノートパソコンと遜色なく使用できることを求めた。また従来の開発が、Windows系OSの規格で進められてきたことから、これを踏襲。タブレット端末ならではの画面のタッチ操作などに対応できる「Windows 8 Pro」の採用を決めた。
独自仕様のデバイスの生産は、富士通(株)に委託。液晶画面のサイズは見やすさに配慮し、現在、一般に普及しているタブレット端末よりも大きな12.1インチとした。これは、直近モデルのノートパソコン画面と同サイズ。セキュリティ対策は厳重で、起動時の認証にはIDとパスワードに加えてUSBメモリースティックの挿入を要する。バッテリーは通常の使用であれば1度の充電で1日もつ。
一方のソフトウエア開発は、同社情報システム部を中心に、システム系のグループ会社と連携し、約1年半をかけて行った。保障額のシミュレーションやプラン作成など基本的な機能に加え、契約情報をモバイル通信によって管理する機能を充実させ、これまでお客さまに記入を求めていた書類の一部ペーパーレス化を実現。手続きの際に必要となる契約者本人による署名は、お客さまが付属の専用ペンで画面にサインしたデータを「電子サイン」として取り込む仕組みとしている。必要な情報をすべて入力しなければ処理が完了しないので、手続きの抜け漏れもなくなる。また、これまでアドバイザーは営業活動の内容を、ノートに手書きすることによってマネージャーなどと共有していたが、マイスターモバイルでは、専用フォーマットに活動報告を入力して、関係者と共有することができる。
アドバイザーが携帯する端末に、2013年からタブレットを採用。契約情報はモバイル通信によって管理する。電子サイン機能なども搭載した
利用データを分析することで有効な現場の支援策を立案
こうした機能を備えたマイスターモバイルは、全国1,200の営業拠点への配布が、10月中に完了する予定。これと並行して、各地から選抜したスタッフに操作方法などをレクチャーする集合研修を実施し、その参加者に、各地域のアドバイザーへの操作方法の指導を担ってもらっている。ちなみに首都圏のアドバイザー500人には6月から先行して利用を始めてもらっており、利用したアドバイザーからは、「従来のように契約情報にアクセスするために営業拠点に立ち寄る必要がなくなり、業務が効率化した」といった評価の声が聞かれているという。
競争の激化する生保業界において、同社は、アフターフォローを充実させ、契約者との信頼関係づくりを強化していく営業戦略を打ち出している。そのため、今回のマイスターモバイル導入に当たっても、営業成績や業務効率に及ぼす効果をトラッキングすると同時に、定期的にアンケート調査を行い、顧客満足度などの推移を注視していく方針。
また、マイスターモバイルの利用データを分析し、効果的な営業支援策を投入していく構想もある。これまでは新たな支援策を企画・投入しても、その効果を客観的に把握・評価することが難しかったが、端末の利用データを活用すれば、統計的な効果検証や分析が可能だ。既契約者の高齢化が進む中、こうしたお客さまにどのようなアフターフォローを提供すべきかといった新たな課題解決の糸口を見出す意味でも、マイスターモバイルへの期待が高まっている。