「個」から「チーム」へ自動車販売の現場ニーズに対応し全国系列店2,000拠点に導入

本田技研工業(株)

本田技研工業(株)は、販売の現場を支援する目的で、タブレット端末を活用した顧客情報管理システムを2012年4月から運用している。出先からでもアクセスでき、営業活動の全体状況を俯瞰的に把握できる。すでに全国約2,000拠点で導入されており、サービス品質向上や現場の活性化につながっている。

据え置き型PC でアクセスする従来システムは使い勝手に制約

 オートバイや自動車製造の本田技研工業(株)は、かねてから全国のホンダ車のユーザーを網羅する顧客管理システムを構築しており、ホンダ系列の自動車販売店に対して提供してきた。しかし利用デバイスが据え置き型の専用PC端末に限定され、使い勝手に制約があることから、機動性に富むタブレット端末向けサービスを2012年4月に開始した。
 従来のPC端末向けシステムである「e-Dealer(イーディーラー)」は、約2,200拠点を全国展開する系列販売店「Honda Cars(ホンダカーズ)」の営業活動全般を支援するため、同社が独自に構築。ホンダ車ユーザーをはじめ、来店客など成約に至らなかった人も含めたすべての顧客情報を販売店側が登録し、データベース化するグループを挙げた取り組みで、営業活動の履歴をはじめ、車両情報、自動車保険の加入情報などを顧客情報にひも付けて一元管理している。
 「e-Dealer」の利用範囲は、商談や納車後のアフターフォローでお客さま対応の前面に立つ販売担当者に限らず、売り場で接客するフロア・コンシェルジュ、修理や点検のサービス・スタッフ、販売活動の管理者など広範にわたる。これらのデータは、販売動向のモニタリングや統計的な解析にも活用されている。
 なおホンダ車の保有が加入条件となる会員カード事業「Honda C-card(ホンダシーカード)」では、ポイント還元によるFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)など各種サービスを提供。激烈を極める国内自動車市場で、同社は「e-Dealer」と「Honda C-card」を中心にCRM戦略を展開し、ユーザーとの関係づくりに一定の効果を上げてきた。
 こうしたCRM戦略を採る同社が、タブレット端末向け顧客情報管理システムを導入した背景には、近年、販売現場における接客や営業のスタイルが大きく変化しており、顧客情報の利用に対する現場ニーズも多様化しているという事情がある。
 従来の販売は、1人のお客さまに特定の販売スタッフが対応し、「個」対「個」の関係をベースとするスタイルだったが、業務効率がより重視されるようになった近年は、1人のお客さまに複数の販売スタッフが組織的に対応する「個」対「チーム」のスタイルに変化。各自が同時期に多くのお客さまに日常的に対応するため、顧客情報にアクセスする頻度やニーズが高まった。ところが据え置き型PCの従来サービスでは、売り場のフロア・コンシェルジュがお客さまの元をいったん離れ、端末のあるバックヤードに引っ込まなければならず、また外出先の販売担当者に至っては、ケータイに連絡のあったお客さまに対応するため、いったん販売店に戻らなければならないケースも頻発していた。

システム改修が3カ月で完了 従来システムのデータベースを活用

 昨年より運用を開始したタブレット端末向けシステムである「顧客ナビ」は、同社日本営業本部営業企画室を中心に、導入の準備が進められた。専用端末にiPadを採用し、専用アプリを使用。「e-Dealer」の既存データベースを活用する設計とし、各販売店が膨大な労力を投じて整備した“情報資産”を有効活用。システム改修は3カ月ほどで完了した。
 機能面を見ると、販売活動の実態に即し、一人ひとりのスタッフが、担当する顧客全員の状況を把握しながら、今、重点的にアプローチすべき顧客セグメントの情報を参照しやすくなっている。中でも①「納車後1年以内ユーザー」、②「車検前1年以内ユーザー」、③「販売ステージ」(商談進行中の顧客)という3つの顧客セグメントの管理機能を充実させ、アプリ立ち上げ後のトップ画面では①②③の人数を自動的にカウントし、一覧表示する。
 まず、①の「納車後1年以内ユーザー」の人数カウンターは、トップ画面の最も目に付く左上に配置。将来的な買い替えも視野に入れ、関係の基礎を築くこの期間は、定期点検などの手厚いフォローで顧客満足度を高める必要がある。そこで、この期間の顧客を、さらに「初V入庫」「納車後3接触」「初6V入庫」「初12V入庫」に区分して表示している。
 例えば「初6V入庫」は、間もなく納車後6カ月後点検を受けるか受けたばかりのユーザーを指し、「先月」「今月」「来月」というように月別の時系列カウントを表示。ここで「来月」をタップして選択すると、対象顧客のリストが表示される。そのうちの1人をタップすれば、住所や連絡先など顧客情報、車両の詳細情報を参照できる。
 ③の「販売ステージ」は、「新顧客」「見込」「ホット」の3区分で人数カウンターをトップ画面に表示。例えば「ホット」は、成約のタイミングが間近に迫り、お客さまが“ホット”になっている状況を意味する。ただし商談中の顧客が3区分のいずれに該当するかの定義付けは各販売店に委ね、担当者が自分の判断でそれぞれの顧客の区分を設定する。こうしたサービス利用上の自由度を持たせることで、現場の実態を反映できるようにし、使い勝手を良くしているのだ。
 なお、情報セキュリティ面の対策として、端末に個人情報データを持たせない仕様とし、万一の紛失時に遠隔操作で操作を無効にできるなどiPadのデフォルト機能も利用できるようになっている。
 この「顧客ナビ」は、販売店側に通信費やシステム運用費などの利用料を負担してもらうかたちで貸与している。グループ会社を中心に運営されている事務局では、申し込みがあると、端末にアプリをインストールし、すぐ利用可能な状態で送付。利用方法の問い合わせ対応などのサポートも提供している。

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「顧客ナビ」では、今、アクションを取るべき顧客セグメントを一覧で参照できる

複数のアプリを提供しiPad で販売現場を活性化

 なお同社では「顧客ナビ」の導入前から、販売の現場を支援する観点からiPadに着目し、電子カタログや見積作成機能など複数のアプリを提供してきた。これらiPad対応のサービス群は、「Honda Sales Station(ホンダ・セールスステーション)」と呼ばれている。今回、これに顧客情報管理の「顧客ナビ」が加わったかたちだ。「Honda Sales Station」は2013年8月末現在、全体の約9割に当たる約2,000拠点で導入され、稼働中の端末は約1万2,000台に上っている。
 「Honda Sales Station」のバックアップを得て、外勤者もiPadを片手に大概の業務をこなせるようになった。出先で急に顧客から呼ばれても、顧客情報を参照して対応可能。GPS対応のナビ機能で、顧客データを地図上にプロットして営業ルートを検討することもできる。電子カタログでは、タップの操作で画面上の車体を水平方向に360度回転させて角度によるフォルムの違いを確認でき、プロモーション・ムービーを再生して商談の雰囲気を盛り上げることもできる。概算見積機能で、予算感をその場で提示。正式な見積書は販売店に戻ってから作成するが、こうした“宿題”は「顧客ナビ」に登録するので、うっかりの失念もなくなる。
 同社営業企画室には、「ストレスを感じることなく商談に打ち込めるようになった」という現場担当者からの声が多く寄せられているという。各拠点内の情報共有を効率化したことによって、軽自動車「N-One」の商談2回目までの成約率が、非導入店の80%に対し、導入店では85%になったというデータもある。同社は今後も、現場が求める新アプリ投入など、営業や接客へのタブレット活用を促進していくことにしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年11月号の記事