化粧品メーカー大手の(株)コーセーでは、2013年4月、iPadを活用した顧客情報システム「K-PAD」の小売店への導入をスタート。店頭での接客力向上を図るとともに、一元管理された顧客情報に基づくマーケティングの強化につなげていく考えだ。
顧客情報システム「K-PAD」を通じて小売店の顧客情報を一元管理
化粧品メーカー大手の(株)コーセーは、2013年4月、iPadを活用した顧客情報システム「K-PAD」の、同社製品を取り扱う小売店への導入をスタートした。
同社では以前から小売店への顧客情報システムの導入に注力。1990年代には、同社の主要部門であり、強みとも言えるカウンセリング領域の商品を取り扱う化粧品専門店、百貨店を対象に、化粧品専門店には「SMART」、百貨店には「DARTS」というシステムを開発し、導入を進めてきた。しかし小売店がこれらのシステムを導入するためには一定のコストを負担する必要があり、また、据え置き型のシステムであるため、店舗規模によっては情報を閲覧しながらの接客は難しいことから、導入件数は思うように伸びなかった。
「K-PAD」の導入は、このような流れの中で2011年から企画がスタート。接客に使えるように、店舗スタッフが気軽に持ち運んで利用できるiPadの活用を前提とし、その上で小売店にとっていかにローコストで使用価値の高いシステムにするかを主眼に、開発が進められた。
さらに「K-PAD」では、各小売店の顧客情報を本社で一元管理するかたちとした。
これは、メーカーである同社が、これまで直接触れる機会の少なかったナマの顧客情報を収集・蓄積・分析することで、例えば想定ターゲットと実際の顧客層の合致度合いなどを検証し、マーケティング活動の精度を高めると同時に、各店舗の顧客属性などを把握することで、それぞれの店舗に対する提案などのリテールサポートを強化することを目的とするもの。一方、特にこれまで顧客情報管理を紙ベースの台帳で行っていた小売店にとっては、デジタル化により、スタッフの事務作業を大幅に軽減するものである。
2年間で百貨店・化粧品専門店・GMSなど1,000店舗への導入を目指す
「K-PAD」の実際の導入は2013年4月にスタート。「DARTS」未導入の百貨店、「SMART」未導入の化粧品専門店に加えて、これまで顧客情報システムの導入をほとんど行っていなかったGMS内店舗などを対象に導入が進められており、当面、2年間で1,000店舗への導入が目標。それらの店舗においてデータ収集・活用の成功事例を積み上げることで、さらに導入店舗を拡大していきたい考えだ。なお、「DARTS」を導入している百貨店や「SMART」を導入している化粧品専門店については、当面、それらを継続利用してもらい、順次、「K-PAD」への移行を行うことで、将来的には「K-PAD」をベースとした顧客情報管理体制を確立していく方針である。
「K-PAD」で管理できる情報は、顧客の年齢や購入履歴、コミュニケーション履歴など。さらに「K-PAD」とともに小売店への導入を進めている肌診断機を通じて得られる顧客の肌状態に関する情報も加えることで、効果的な接客・カウンセリングが行えるようにしている。そのほか棚卸機能や商品発注機能、ダイレクトメール用の宛名出力機能なども備えており、店舗運営の効率アップや店舗レベルでのプロモーション強化に活用することも可能だ。
さらにiPadならではの機能として、ほかのアプリの活用を図ることもできる。例えば接客に、同社が開発・提供しているさまざまなアプリを使うことも可能であり、接客のバリエーションが広がることが期待できる。
iPadを活用した顧客情報システム「K-PAD」は、百貨店、専門店、GMS内の店舗で接客に活用されている
365日対応の専用ヘルプデスクなどにより店頭における活用を支援
このように「K-PAD」は充実した機能を有しているが、実際の店舗スタッフが使いこなせなくては“宝の持ち腐れ”にもなりかねない。そこでその導入に当たって同社では、各エリアを担当する支店単位で、導入店のスタッフを対象に、「K-PAD」の操作に関する集合研修を実施。さらに各店を担当する営業スタッフが現場でのサポートを行うほか、365日対応の専用ヘルプデスクも用意して、店頭における活用をサポートしている。
なお、「K-PAD」は導入スタートから約半年という状況であるが、すでに実際に導入した店舗からの声をもとに、情報入力の手間を軽減する工夫を施すなどの改良が加えられており、今後も必要に応じてバージョンアップを図っていく方針だ。
また、特にiPadについては、今後、OSのバージョンアップなども予想されることから、十分な情報収集を行い、必要な対応を迅速に行うことで、システムの稼働を維持していく意向である。
お客さまとの距離を近づけるツールとしての活用も視野に
「K-PAD」導入についての本格的な評価はこれからという段階であるが、少なくとも導入店からは「使いやすい」「業務効率化につながった」という好意的な声が寄せられており、今後はこれら店舗での活用成功事例などをテコとして導入店の拡大を進めていく意向だ。そしてこれと歩調を合わせて、同システムを通じて一元化される顧客情報のマーケティング面での活用ノウハウの蓄積も進めていきたい考えである。
さらに将来的には、お客さまとの距離を近づけるためのツールとしても活用していく方針だ。
近年、化粧品マーケットでは、以前のように決まった店舗で特定ブランドの化粧品のフルラインナップをそろえるユーザーは珍しくなっている。アイテムごとにお気に入りのメーカーや商品を選択しているユーザーが多く、また、同じメーカーにこだわっているユーザーであっても、カウンセリングの必要性の有無などを考慮して、さまざまな業態の店舗を使い分けている場合が多い。その中で、例えばある店舗での購買履歴情報からは特定カテゴリーの商品しか購入していないと判断されるお客さまが、複数店舗での情報を一元化すると、実は同社商品をフルラインナップでそろえていることも考えられる。
「K-PAD」で顧客情報を管理するお客さまは、言うまでもなく各店舗のお客さまであるが、同時にメーカーとしての同社のお客さまでもある。しかし、前述のようなケースでは、同社にとっての“お得意さま”を“お得意さま”として処遇できないといった事態も考えられる。
そこで同社では今後、店舗へのお客さまの送客を目的とした顧客情報の積極的な活用を目指す。例えば、eメールの配信やダイレクトメールの送付などを通じて、お客さまと直接、コミュニケーションを図っていくという。また、同社の“ファンづくり”に向け、並行してWebサイトなどとの連動によるO2O戦略の展開なども行うことで、メーカーとしてのリテールサポート機能のさらなる強化につなげていきたい考えである。