テレビショッピングやカタログ通販で培ったノウハウを自社のネット通販に生かす

(株)ヤマト屋

婦人用ファッションバッグなどを製造する(株)ヤマト屋は、従来の取引先である百貨店や卸問屋に加え、テレビショッピングや大手のカタログ通販などに販路を拡大。こうした果敢な事業展開で培ったノウハウを生かし、自社通販をスタート。新規顧客の獲得と売上拡大を目指している。

顧客の声を生かしたモノづくり 独自の差別化戦略を推進

 全国の百貨店の店頭をはじめ、大手各社のテレビショッピングやカタログ通販で取り扱われている婦人用ファッションバッグを製造する(株)ヤマト屋。同社は7年ほど前に通販サイトを開設、通信販売に乗り出している。
 同社の創業は、現代表取締役社長の正田誠氏の曽祖父にあたる竹次郎氏が、1892年に浅草仲見世に和装小間物店を開業したことに始まる。戦後、バッグの製造を本格化させ、全国の百貨店に販路を広げ、業績を拡大。創業以来、昔ながらの顧客重視の経営姿勢を貫いてきた。
 主な製品は約100点あり、色・柄・サイズを含めると約300点。ハンドバッグ、ウエストバッグ、エコバッグなど、主力の婦人用ファッションバッグの価格帯は、海外一流ブランドなどよりやや低い中価格帯に設定しており、9,000円前後が中心。このほか、トラベルバッグや紳士用のビジネスバッグ、財布などの小物も取り扱っている。
 近年は、海外から安価な製品が流入し、国内の中小メーカーが苦戦を強いられている中で、同社は独自の差別化戦略を展開。①顧客の声を生かした機能性の高いデザイン、②徹底した品質管理、③耐久性が高いオリジナルの生地使用などを特長としている。
 顧客の声を集める①の体制を見ると、従業員20人の規模でありながら、顧客の相談や問い合わせを受け付けるフリーダイヤルは4回線を使用し、平日でも10件以上のコールが入る。また、各地の百貨店で同社製品の売り場を担当する8人の販売員や、正田氏自ら、顧客とコミュニケーションを図る機会を見つけては要望や意見を吸い上げ、「長財布も収納できるサイズのポケットがほしい」といったニーズを、3人の企画スタッフが製品の改良や新製品の開発につなげていく。
 製造は国内の縫製工場に委託している同社だが、②の品質管理では、例えば、製造時にミシンの針が折れて混入することを防ぐため、委託先の工場に同社の社名入り特注針を使用してもらい、針を1本ずつ管理することで混入を防止。一方で、破損などに関するクレームの原因を徹底究明するため、金具や持ち手の耐久性をテストする多様な検査機器を完備して、再発の防止に役立てている。中には同社が開発し、特許取得済みの機器もある。
 製品の多くは③の生地を使用しているが、これは、同社と卸問屋、工場の3者が共同で開発し、特許取得済みのポリカーボネイト素材。紫外線や水、高温・低温など、環境的な要因による劣化への耐久性が高い上に、軽くて柔らかいのが、特長という。
 現在、同社の年間売上高は約5億5,000万円(2013年8月期)。ただし、そのうち、自社で運営するネット通販の占める割合は、まだ数%程度。残る大半の売り上げは百貨店・問屋・通信販売会社となっている。

テレビショッピングの初日に1万個のバッグを完売

 そもそも同社が通販会社への卸や自社通販に目を向けた背景には、百貨店での安定的な売り場の確保が難しいという事情があった。かつて全国数十店舗に売り場を得て、業績を伸ばした同社だが、百貨店では販売戦略の転換などで、急な売場縮小や撤退を余儀なくされることも多い。そこで、新たな販路の開拓が大きな経営テーマとなっていたのだ。
 通販に着目した同社にとって、最初の大きな転機となったのが、ジュピターショップチャンネル(株)との取引開始である。2004年10月に正田氏がゲストとしてテレビショッピング番組に初出演し、従来からの看板商品であったテディベア柄のバッグなどを紹介。根強い人気のテディベアであるが、2002年に“生誕100周年”を迎え、再び注目が集まっていた時期とも重なり、用意した1万個を1日で完売する盛況ぶりだった。
 ジュピターショップチャンネルでは、その後も、テディベア関連商品に限らず、同社がジュピターショップチャンネル向けに開発したオリジナル商品を限定販売。ピーク時には、ジュピターショップチャンネル向けの開発商品だけで年間100種にも及んだという。また正田氏は、ゲスト出演したテレビショッピング番組で、持ち前の話術を生かし、独特のセールストークを披露。例えば、「大宮駅前の髙島屋にバスでお中元の品を手配しに行く」という具体的なシーンを設定し、「送り先の住所を記したメモ帳と財布、それにケータイなどを入れる、ちょうど良いサイズがコレ」とコンパクトな手下げバッグの利便性をアピールする手法で、販売に大きく貢献した。
 正田氏の番組出演を契機に、「老舗ヤマト屋」の注目度は急上昇。百貨店や通販専業大手からの引き合いが相次いだ。一方では同社側からも、通販会社に積極的にアプローチ。今日では(株)ディノス・セシール、(株)三越伊勢丹、(株)カタログハウスなどの通販カタログ数十誌で同社製品が販売されるようになっている。

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ヤマト屋の通販サイト(上)と、ジュピターショップチャンネルで大人気を呼び、同社に転機をもたらした、テディベアのシリーズ

自社通販サイトはリピート客が8割超

 しかし現在の問題は、こうしたテレビやカタログを媒体とする通販向けの販売が、年々、減少していることにある。同社ではその背景に、通販業界全体の競争が激化し、それぞれの媒体も厳しい競争を強いられていることがあると分析。7年ほど前から運営してきた自社の通販サイトを強化し、その売り上げのウエイトを大幅に高める方針を打ち出している。
 現在の通販の受注チャネルには、Webサイトの申し込みフォームのほか、ファクス、電話がある。営業日の15時までに注文があれば、当日発送。送料は購入金額が5,000円以上の場合は無料。購入経験のある会員が約3,300人で、同社が発行するメルマガの登録が、約1,700人。販売件数全体の8割以上がリピート客による購入といい、60代の女性が中心だ。こうした層は、同社の製品やモノづくりに対する姿勢を支持するファン層と考えてよいだろう。
 今後の課題は、新規顧客の取り込み。前述の正田氏の「シーン提案」に象徴されるように、同社製品を販売するには、商品画像やスペックを単純に伝えるだけではなく、使い勝手といった利用価値、品質、企業姿勢を訴求することがポイントだ。そこで今後はコンテンツを拡充させていく方針で、すでに、製品開発や品質管理などを担う社内の作業現場やスタッフを紹介する動画の企画制作が進んでいる。この動画をYouTubeで公開し、YouTubeを通じた情報の拡散を狙うと同時に、自社通販サイトからも閲覧できるようにする予定だ。また、テレビショッピングでも人気を博した正田氏の魅力をアピールする狙いで、正田氏が登場するブログも開設している。
 また、2013年11月には、新たに開発したポリカーボネイト素材の生地を使った製品を投入する計画。これまで取り扱ってきたものとはタイプの異なる重厚感や高級感が感じられる素材で、製品ラインナップの幅が一層広がりそうだ。こうした取り組みも顧客の要望に応えたものという。今後も、顧客の夢をかなえるモノづくりという従来のスタイルを守りながら、これまでの販路拡大で培ったノウハウを生かし、自社通販を活発化させていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年10月号の記事