倉庫業の寺田倉庫(株)は、専用のWeb サイトと宅配サービスを活用した個人向けの新しい収納サービス「minikura(ミニクラ)」の提供を2012年9月に開始し、多様なプロモーション戦略を展開。ソーシャルリスニングによって、アプローチ手法の効果検証や生活者のインサイト分析に大きな効果を上げている。
Webと宅配を組み合わせた新サービス 受け入れ件数は13万件を突破
倉庫業の寺田倉庫(株)は1950年、東京都内で創業した。1970年代から首都圏を中心に個人向け収納サービスのトランクルームを展開しており、近年では専門的な技術を要求されるワインや美術品の保管サービスなども好調。また不動産の分野でも、都内品川区に所有する倉庫をオフィスやショールームとして活用するなど、ユニークな事業展開で注目を集めている。
2012年9月には、個人向けの新しい収納サービス「minikura(ミニクラ)」の提供を開始。これは家庭で収納に困っている衣類や書籍、趣味のコレクションなどを段ボールに詰めて発送すると、同社の倉庫で保管してくれるサービスで、申し込みや引き取りなどの手続きはすべてWebサイトから行う仕組みだ。
保管料は、箱単位で管理するベーシックなサービス「minikura HAKO(ハコ)」の場合、専用の段ボール1箱(最大20kg)に付き月額200円。同社のスタッフが保管する物品を1点ずつ撮影してWebサイトのマイページにアップし、画像データを見ながら物品を管理できるサービス「minikura MONO(モノ)」の場合は、1箱(最大20㎏、30点まで)に付き月額250円である。
段ボールを使った保管サービスは、倉庫業界では以前から多くの企業が手掛けてきたが、手続きに手間がかかり、料金体系も複雑になりがちで、あまり普及していなかった。そこでminikuraのプロジェクトチームは、Webと宅配を組み合わせてサービスを利用しやすくし、料金体系もシンプルにした。広報部門と連携してプロモーションを積極的に展開し、認知向上を図った結果、開始から半年後の2013年3月時点で3万箱の保管数を目標としていたものが、実績はこれをはるかに上回り、5月現在では11万箱に達しているという。
サービス開始直後は利用が伸びず インサイトの把握が課題に
このように利用が好調なminikuraも、昨年9月の開始直後から順風満帆だったわけではない。当初は雑誌や新聞に広告を出稿し、初回利用の無料キャンペーンも実施したものの利用が伸びず、プロモーション展開の見直しを迫られたのだ。
minikuraは、住宅事情から収納スペースの不足に悩む首都圏などの生活者をターゲットに、新しい収納のかたちを提案するサービス。しかし、所有物を倉庫に預けた経験のない生活者にとっては、預ける物や利用のメリットがなかなかイメージしづらい。そのため、一般的な広告による訴求では、生活者にサービスが“自分ごと”として認識されないまま、空回りしていたのだ。
そこで、利用シーンなどを具体的にイメージしてもらいやすいように、プロモーションの軸足を、マス広告から、メディアとのタイアップ広告やパブリシティへと転換することにした。
同時に、それぞれのプロモーション施策の効果などを測定し、生活者のインサイトを把握する狙いでソーシャルリスニングの実施を決め、1月に(株)ホットリンクが提供するソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」を導入。Twitterのほか、2ちゃんねる、ブログなどを分析対象として設定した。
見込客のセグメントごとに効果的なアプローチを開発
1月下旬に、アイティメディア(株)が運営するニュースサイトに『読書好きが本棚をminikuraで整理してみた』と題する記事広告を掲載。執筆者が実際にサービスを利用して、その手順や使い勝手についての感想を紹介する企画だったが、この掲載直後に、それまであまり活発ではなかったTwitterの投稿件数が1日当たり300件程度に急増し、新規の保管受け入れ数も、それまでの4倍程度の1日当たり約400箱に跳ね上がった。こうした反響を受けて同社では、サイズは小さめだが耐久性のある書籍専用の段ボール箱の提供を開始。一層の利用促進を図った。
その後、2月上旬には、LINE(株)が運営する「NAVERまとめ」に『断捨離ムリ…片付けられない女の最終手段』と題する記事広告を掲載。身の回りの不要品を捨てる“断捨離”に関心はあっても、なかなか実践できない生活者にminikuraの利用を提案する企画で、掲載直後にTwitterの投稿件数は500件を突破。都市型生活を送る女性層の新たな需要を喚起した。
また3月には、『日経TRENDY』『日経WOMAN』『日経ビジネス』の3誌に相次いでタイアップ広告を掲載。それぞれの読者層に対して新しい収納スタイルを提案した。
また、生活者の関心を高め、クチコミの拡散を狙うために、クリエイティブに工夫を凝らした広告の展開も行っている。例えば今年3月18日から24日には、不動産広告になぞらえたminikuraの広告が、JR渋谷駅山手線外回りホームをハーフジャックした。
これらのプロモーションの効果は、広報部門が解析。投稿件数から反響の大きさを定量的にモニタリングすると同時に、Twitterのプロフィール登録情報から顧客の属性情報を取り込み、どのような層が多く投稿し、サービスのどのような利用に関心が持たれているかを定性的に検証している。
サービス開始当初は主要ターゲットを20代女性とし、衣替えの季節に衣類を預けるといった利用シーンを想定していたが、このようにさまざまなプロモーションを展開してきた結果として、実際にはそれ以外にも、フィギュアなどのオタク系コレクションや書籍を預ける30代男性、捨てられない衣類などを預ける30代以上の女性、子どもの工作など思い出の品を預ける子育て中の女性の利用が目立っているという。
新聞記事になぞらえた「minikura」の交通広告(上)、渋谷駅のホームをハーフジャックした際の、不動産広告になぞらえたポスター(左下)など、クチコミ拡散を狙い、クリエイティブに工夫を凝らす
新たなニーズを探るには顧客データ分析と併せてソーシャルリスニングの実施が有効
プロモーション戦略が奏功し、利用が伸びていることを受けて、同社では4月からプロジェクトチームをミニクラ事業部に昇格させている。保管している物品をネットオークションなどに出品し、取り引きが成立すれば倉庫から直接発送できるようにする構想があるほか、新たに女性誌を発行する出版社とのコラボレーション企画も検討中という。
人々の話題に上るキャンペーンを仕掛けるためには、サービス開始時からこれまでに保管された、累計で50万点に及ぶ個品の情報を分析することによって、ユーザーのニーズや動向を把握することが不可欠。これと合わせて、ソーシャルリスニングの実施によって、人々の反応をリアルタイムで計測することが有効だと同社では考えている。
また、同社では、minikuraのWebサイトを拡充し、ユーザー同士が保管している物品を見せ合ったり、投稿を行ったりできるコミュニティ機能を整備する計画だ。ユーザー同士のコミュニケーションが活性化されれば、ここでのソーシャルリスニングによって新たな利用ニーズが見出され、minikura事業のさらなる成長にもつながるはずだと期待されている。