リスニングで収集した情報を経営層をはじめ全社で共有しサービス改善などに役立てる

NTTコミュニケーションズ(株)

NTT コミュニケーションズ(株)は、同社が提供するサービスやオペレーションの改善につなげる目的で、24時間365日の体制でソーシャルリスニングに取り組んでいる。収集された情報を全社で共有し、スマートフォン向けIP電話アプリの「050 plus(プラス)」のサービス改善につなげるなどの成果を上げている。

お客さまの声をリアルタイムで把握しネガティブ評価の拡散を回避

 NTTコミュニケーションズ(株)は、ソーシャルリスニングを、営業担当者やコールセンターと並ぶ、顧客や見込客の生の声を収集する極めて重要な手段と位置付け、ここから得られた情報を、自社が提供するサービスや顧客対応業務のオペレーションの品質改善に役立てている。その背景には、サービスやオペレーションに改善すべき何らかの問題点があっても、そのネガティブな評価が、顧客や見込客から苦情や要望などのかたちで企業に持ち込まれるケースはむしろまれであるとの認識がある。
 さらに、ソーシャルメディアが普及した今日では、そのネガティブな評価がソーシャルメディアを通じて拡散され、顧客の連鎖的な離反を引き起こしたり、新規顧客の獲得における阻害要因になりかねないとの警戒感もある。特に同社では、インターネット接続やWebコンテンツなど、ネットユーザー向けのサービスを数多く扱っている。そのため、ネットユーザー同士が情報交換を行うソーシャルメディアを、顧客や見込客がサービスの利用意向などを決定する際の判断材料にしている可能性が高いと見て、重要視しているのだ。
 同社では、2011年11月にTwitterの公式アカウントを開設。2012年5月からソーシャルリスニングの導入に向けて、同社の代表的なサービス名称など特定のキーワードを含むつぶやきの投稿件数をモニタリングするなどの準備を進め、同年7月には対応すべきTwitter上のつぶやきを発見し、返信するアクティブサポートをスタート、8月にはソーシャルリスニングの取り組みを本格的に開始するに至った。当初は、一定以上の投稿件数があり、重点商材のひとつであるスマートフォン向けIP電話アプリの「050 plus(プラス)」をソーシャルリスニングの対象にしていたが、今年4月以降は、インターネット接続や一部法人向けサービスにも対象を拡大。検索に使用するキーワード数は約50個に及んでいる。

グループ会社に運用業務の一部を委託 24時間365日の運用体制を実現

 同社では、ソーシャルメディアをマーケティングに活用してもらうため、法人向けに多様なソリューションを提供している。そのうち、Twitter上のつぶやきなどをリアルタイムで分析できる「Buzz Finder(バズファインダー)」と、Twitterなどのユーザーと企業側のコミュニケーションを省力化、効率化できる「Social Engage(ソーシャルエンゲージ)」の2つのサービスを、同社自体のソーシャルメディア対応にも採用している。
 ソーシャルリスニングを担当しているのは、Webやソーシャルメディアの運営を担当する第一営業本部ダイレクトマーケティング部門第二営業担当。3人のメンバーのうち、2人がTwitterやFacebookなどの公式アカウントの運用を担当、1人がTwitterなどのつぶやきに企業の立場で対応するアクティブサポートとソーシャルリスニングをそれぞれ担当している。ただし、アクティブサポートとソーシャルリスニングについては、グループ会社であるNTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション(株)に運用業務の一部を委託。両社が、所定の役割分担に基づき、密接に連携しながら、24時間365日の運用を実現している。
 NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションでは、法人向けにアクティブサポートやソーシャルリスニングなどの運用代行サービスを提供しており、専従メンバーが常駐する「Social Listening Center(以下、SLC)」を運営している。NTTコミュニケーションズも、このサービスを利用。委託業務は、モニタリング業務やアクティブサポートなどである。
 ソーシャルリスニングの対象は、Twitterの日本語による投稿のすべてと国内の主要ブログサイトなど。15分ごとの解析を行っており、「炎上」の発生などをリアルタイムで監視。システム的に「炎上」の恐れが検知されると、SLCの担当者が状況を確認し、NTTコミュニケーションズと連絡を取りつつ、対応することになっている。
 また、アクティブサポートについては、SLCが日常的な投稿を行うが、高度な判断が必要な場合にはNTTコミュニケーションズにエスカレーションするフローとなっており、対象となる投稿は月間250~300件の水準である。

モニタリングで検索される情報は月間約1万5,000件

 検索された投稿については、SLCが、件数と、その内容がネガティブかポジティブかをシステム的に判定した内訳、キーワードと同時に使われる頻度の高いワードなどを日次リポートの形式で報告しており、NTTコミュニケーションズではこれを経営トップを含む関係各部署で共有。また特に、サービス改善のヒントになると考えられる投稿を週次でピックアップし、イントラネットを通じて全社的に共有し、主管部門が逐次対応するとともに、より高度な経営的な判断を必要とするものについては、経営層の月次会議で検討される仕組みとなっている。
 キーワードを増やした4月以降、モニタリングで検索されるTwitterの投稿やブログ記事は、月平均1万5,000件。SLCでは、こうした情報をシステム的にふるいにかけ、有益と思われる情報を6,000件程度に絞り込み、NTTコミュニケーションズの第一営業本部ダイレクトマーケティング部門第二営業担当で全社的に共有すべき情報をピックアップする流れとなっている。
 こうして実際に改善につながったケースや改善を検討中のケースは少なくない。「050 plus」の場合は、ソーシャルリスニングの結果を受けて、フリーダイヤルへの通話を可能にしたほか、サービスの申し込み手続きでの本人確認に必要となる電話番号にPHSの番号などを加えるといったきめ細かな改善を実行した。

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NTTコミュニケーションズでは、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションのSLCを活用して24時間365日、15分単位でバズをウオッチしている

定量調査では把握できない“真実”を見出せると高く評価

 ソーシャルリスニングによって収集されたデータについて、NTTコミュニケーションズでは、ユーザーの生活実感やストレートな感情が表現されることから、アンケートなどの定量調査では把握できない“真実”を見出すことができると評価し、定量的ではなく、もっぱら定性的な情報として活用している。また、コールセンターに寄せられる苦情や要望は、顧客や見込客の不満が高じた末の結果であることが多いが、ソーシャルリスニングでは、「あえてコールセンターに電話をして訴えるまでもない」と従来は顕在化しなかったレベルの不満も把握することができ、問題を早期に発見できるメリットもあるとしている。
 ただし、膨大な情報の中から、どのような情報を有益としてピックアップするかが、課題のひとつ。例えば月間1~2件といった頻度であっても、ある特定の内容が継続的に確認されるようならば、対応の必要性があると考えられる。同社では重要な情報を見逃すことがないように、今後、これにかかわる適切な判断基準を確立していく考え。また、こうした情報を発見しやすくするためにも、分析が不必要な投稿をあらかじめ除外できるよう、キーワードに条件設定を付加するなどの知見を蓄えていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年7月号の記事