介護の現場で利用してもらう多機能型の通信カラオケを開発し1万件の導入実績

(株)第一興商

業務用カラオケ事業などを手掛ける(株)第一興商は、2001年2月から、介護保険施設などで利用してもらうユニークな多機能型の通信カラオケを製造・販売。すでに全国で約1万件の導入実績があり、同社では、新しいカラオケ事業の柱と位置付けている。

従来にはなかった新しいコンセプト 営業担当者が施設を訪ねて実演

 (株)第一興商の前身となる保志商店は、現名誉会長の保志忠彦氏が1971年に創業し、音響機器販売を手掛けて事業を拡大。1976年に法人化すると同時に現社名に変更し、業務用カラオケ事業を中心に急成長してきた。現在、業務用カラオケ事業は、「DAM」のブランド名で、通信カラオケ機器の販売やリースをはじめ、コンテンツ配信を行っている。このほか、カラオケ・飲食店舗事業では、カラオケ店の「ビッグエコー」や飲食店を全国でチェーン展開。モバイル端末向け着メロ配信のWeb配信事業、音楽や映像ソフトを制作・販売する音楽ソフト事業なども手掛けている。全国各地に営業を担う29店の支店網と、24社の販売子会社があり、2012年3月期の売上高は連結で1,272億4,600万円となっている。
 同社では、シニア市場向けの事業として、介護保険施設などにおける高齢者の利用を目的とする多機能の通信カラオケ機器を製造・販売している。通信カラオケ機器をベースに、ハードやコンテンツを独自開発したもので、従来のカラオケ機器とは異なる性格の商品であることから、同社では、「生活総合機能改善機器」の呼称を用いている。東京本社の営業統括本部エルダー事業開発部が、17人体制で関連業務を担う。
 基本ユニットは商品本体と専用スピーカーで構成され、外観は通信カラオケ機器のようだが、介護現場の実態に即した幅広い用途があり、カラオケに限らず、機能訓練の体操やレクリエーションのゲームなどにも利用できる。特別養護老人ホームや老人保健施設といった介護保険施設などに、すでに全国で約1万件の導入実績がある。近年は市場の認知も進んだことから、導入件数が急増。2010年度には約1,000台だったが、2011年度には約2,000台と倍増。さらに2012年度も倍増するペースで伸びており、4,000台を上回ることが確実視されている。
 同社では、この多機能の通信カラオケ機器を「DKELDER SYSTEM FREE DAM(ディーケー・エルダー・システム・フリーダム」の商品名で販売。商品本体と専用スピーカーの基本ユニットの希望小売価格は150万円で、ネットワーク通信によるコンテンツ利用料金は、カラオケ、ゲームなど全ラインナップを利用できるコースが、定額制で月額1万6,500円となっている。
 同社は、全国各地にこの商品の販売に専従する営業担当者を配置。従来にはなかった新しいコンセプトの商品であることから、営業活動では、デモ機を営業先の介護保険施設などに持ち込み、担当者が高齢者を相手に体操やゲームを実演。施設側に介護の現場における実践的な利用方法を理解してもらうことで、大きな成果を上げている。

“生みの苦しみ”乗り越えハード改善とコンテンツ開発

 独自開発の通信カラオケ機器を介護保険施設などに販売するこのユニークな事業は、かねてよりシニア市場をターゲットに業務用カラオケ事業を軸とする新規事業の可能性を模索してきた同社が、試行錯誤の末にようやく軌道に乗せたものである。
 エルダー事業開発部の前身となるプロジェクトチームが発足したのは、介護保険制度が全国でスタートした2000年。少子高齢化時代の到来が、従来のカラオケ市場に新たな需要を生み出すと見込んだ同社には、シニア層を対象にカラオケ店の利用を促進する構想もあった。カラオケ店の利用客は夕方から夜間の時間帯などに集中し、平日の昼間は比較的、利用が少ないことから、この時間帯にシニア層に利用してもらえれば、施設の有効利用にもなる。しかしその構想は、既存のカラオケ店がそもそも立地条件や接客スタイルが昼間のシニアの利用を想定したものでなかったために、容易に実現できなかったという経緯がある。
 多機能の通信カラオケ機器を独自開発する方向性は、プロジェクトの発足当初から打ち出されていたもので、現在、販売されている「DK ELDERSYSTEM FREE DAM」の原型となる商品の発売は2001年のこと。医学の分野でも、歌を歌うことの心身の健康に及ぼす効用は、音楽療法などとして研究されてきており、介護の分野でもその有効性は以前から認められていた。しかし、介護保険制度がスタートして間もない介護現場からの反応はいまひとつ弱く、同社では、この時期からしばらくは、ハードの改良やコンテンツ開発など、“生みの苦しみ”を経験することになる。
 「DK ELDER SYSTEM FREE DAM」の大きなセールス・ポイントは、音楽や体操、ゲーム、映画作品などコンテンツの豊富なラインナップだ。施設担当者が日々の介護の現場で使いやすく、高齢者にとっても親しみやすいものとなっている。例えば、レクリエーションで高齢者に歌ってもらう楽曲のコンテンツには、一般のカラオケのような演奏だけではなく、歌詞が付いた歌声も入っている。これは、若い介護スタッフは高齢者が好む昔懐かしい歌謡曲を知らないことも多いため、こうしたジェネレーション・ギャップを埋めようと工夫されたものだ。歌謡曲や童謡など600曲を収録している。
 東北福祉大学と同社の共同研究によって開発された体操のプログラムは、転倒予防や尿失禁予防といった機能改善のほか、ストレッチや気分転換を目的に、映像や音楽で構成。モデルが体操をしている映像を見ながら、施設担当者と高齢者が一緒に取り組めるようになっている。
 コンテンツにはこのほか、ナレーション入りの全国都道府県ごとの記録映像や、集中力が長く続かない高齢者でも楽しめる30分未満の短編映画集などがある。
 このように配慮の行き届いた商品は、営業担当者が商品を利用する施設担当者の要望などを集めて、それらを基にひとつずつ改善を加えることによって開発されてきた。具体的な改善例としては、ストラップで首に提げて携帯できるリモコン端末などが挙げられる。
 また、2011年には、地域のシニアが集う憩いの場として、新業態の「DAM倶楽部」を開業。これを、同社の商品やコンテンツに対するシニアの声を集めるパイロット店として活用している。

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生活総合機能改善機器 「DK ELDER SYSTEM FREE DAM」(左)と、介護保険施設での利用風景(右)

カラオケ事業の新しい柱として3 万件の大台を目指す

 当初、事業拡大の足かせとなったのは、「第一興商=カラオケ」という先入観。しかし、妥協のない商品を開発し、活用の効果について学術的なエビデンスを示すといった地道な取り組みにより、同社のこの事業への“本気度”が認知されつつあることに伴い、業績は大きく上向いてきた。
 同社の業務用カラオケ事業では長らく、夜間営業の飲食店とカラオケボックスが主要な営業対象だったが、こうした限られた市場の競争環境は厳しさを増している。それだけに、介護保険施設など新しい市場への期待は大きい。今後は、介護保険施設だけでなく、高齢者の集まる自治体の公共施設などにも営業先を広げていく考え。同社は営業対象となる施設数を7万~10万と見込んでおり、当面は3万件の大台に乗せることを目指していく。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年3月号の記事