通信機能を備えた計測機器とリンクさせ会員制健康管理Webサービスを展開

(株)タニタヘルスリンク

(株)タニタの100%出資により2007年3月に設立された(株)タニタヘルスリンクでは、タニタの体組成計をはじめとする通信機能を備えた各種計測機器を活用して、会員制の健康管理Web サービスを展開。会員を対象とするユーザー座談会などを貴重なVOC 収集のチャネルとしている。

通信機能を備えた計測機器を活用した健康管理のためのWebサービスを提供

 近年、レシピ本『体脂肪計タニタの社員食堂』の大ヒットをきっかけにオープンした「丸の内タニタ食堂」の展開などで注目を集める、家庭用・業務用健康計測機器メーカー大手の(株)タニタの100%出資により、2007年3月に設立された(株)タニタヘルスリンク。同社では、タニタが製造・販売する体組成計をはじめとする各種計測機器を活用した、健康管理のためのWebサービスを提供している。
 Webサービスの基本的な内容は、通信機能を備えた体組成計などの計測機器で計測した体重、体脂肪率、消費カロリーほかのデータをWebサイト上に転送・記録することによって健康管理に役立ててもらうというもの。
 サービスメニューは大きく2種類ある。ひとつは、Webサイトへの直接入力のほか、体組成計の中でも中上位機種に搭載されている通信機能を活用した自動転送、モバイルサイトやブログを使った簡単入力などができ、ブログやSNSサイト上でグラフ管理ができる無料版の「ヘルスプラネット」。もうひとつは、USB通信または専用レシーバーを介した自動転送ができる体組成計に対応して、手軽にWebサイトに体重などのデータを転送し、「健康グラフ管理」によるセルフ管理のほか、管理栄養士や健康運動指導士などのサポートを受けるといったオプション・サービスも利用可能な有料版の「からだカルテ」だ。「からだカルテ」にはさらに、USB通信を用いる「リレーキータイプ」の「ダイエットメニュー」(月額料金800円)、「スタンダードメニュー」(同1,000円)、「ライトメニュー」(同580円)、「糖尿病対策メニュー」(同8,400円)、専用レシーバーを介した自動転送を活用する「レシーバータイプ」(同1,980円:4ユーザーID)が用意されている。

計測機器の高機能化を背景にWebサービスへの取り組みをスタート

 メーカーを母体とする同社が、Webサービスへの取り組みをスタートした背景としては、体組成計をはじめとする計測機器の高機能化が挙げられる。
 そもそも体組成計は、「体重計」として製造・販売されていた機器に体脂肪率、筋肉量、内臓脂肪、基礎代謝量などを計測する機能が付加されたことにより、“単に体重をはかるだけではない”という意味を込めて使用されるようになった機器名称である。その高機能化の進展のスピードは極めて速く、近年では標準的な機種でも10項目前後の健康指標を計測することが可能となっているがために、生活者にその機能が十分理解されているとは言えない部分もある。高機能化した機器のベネフィットを十分に活用してもらうためには、生活者に機器の機能や計測値が示す意味などの情報を何らかの手段で伝える必要があったのだ。
 また、体組成計などの買い替えサイクルは比較的長いため、顧客接点が少ない。そこで、より生活者ニーズに基づいた商品を供給するためにも顧客接点の充実化を図る必要があった。このような事情から企画されたのが、会員性の健康管理Webサービスなのである。
 サービスの設計に当たっては、継続して利用していただくことが重要であるという観点から、「正しく」「楽しく」「簡単に」をコンセプトとした。成果が上がる正しい情報管理を、楽しみながら、かつ簡単に行えることに腐心してサービスを組み立てていったのだ。そして、2007年3月のサービスリリース時にはマスメディアを対象とした大々的な発表会を実施。そしてリリース後の2年間については、インターネット上のバナー広告、雑誌広告などでサービスを告知。一定の認知が進んだ2010年ごろからは、ネット上の検索連動型広告などによる訴求を行ってきた。さらに当初は有料版の「からだカルテ」のみの展開であったが、会員登録のハードルを下げることを企図し、2010年8月に無料版の健康管理プラットフォーム・サービス「ヘルスプラネット」をスタートした結果、当初の計画より若干遅れてはいるものの、順調に会員数を拡大しつつある(会員数は非公表)。会員の属性については、男女比では男性7:女性3、年代では30代を筆頭に40代、50代、20代が続くといった状況だ。

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「からだカルテ」では、計測データのグラフ表示などセルフ管理のための機能が充実しているほか、専門家のサポートが受けられるオプションも用意されている

会員を対象としたユーザー座談会がVOC収集の貴重なチャネルに

 同社が提供する会員制の健康管理Webサービスはそれ自体が営利事業であると同時に、タニタの計測機器で計測したデータを簡単に蓄積できる仕組みを提供することにより、計測したデータの価値とクオリティを進化させていくことを目指すものであるが、一方で、サービス提供を通じて、さまざまな顧客情報や知見を獲得するチャネルにもなっている。
 例えば、サービス利用においては、ケータイ、スマートフォンを介在してデータ通信を行うモデルも設定しているが、このモデルを利用したケースでは、専用レシーバーを介した自動転送ができる体組成計を利用するモデルと比較して、利用が継続される割合が低い。同社ではこの点について、「体組成計が置かれる場所が、屋内でも数少ない、ケータイやスマートフォンを携帯しない場所である浴室の脱衣所、つまり“水回り”である場合が多いからではないか」と分析している。このような情報が知見として蓄積され、親会社であるタニタにおける商品開発・改善などの参考データともなっているのだ。
 さらに、会員性の健康管理Webサービスの提供を企画する目的のひとつでもあった顧客接点の充実という部分では、Webサイトを通じたコミュニケーションのほか、会員を対象としたリアルなユーザー座談会なども随時実施している。
 同社において顧客の声(VOC)と直接触れるチャネルとしては、従来はコールセンターが中心であり、そこで収集されるVOCでは、苦情やお叱りなど、“積極的なネガティブ”なものが大部分を占めるという特性があった。しかし、会員を対象としたユーザー座談会では、属性以外にも、「タニタの商品を複数利用してサービスを継続利用している会員」「サービス利用が途切れがちな会員」「サービス利用をやめてしまった会員」などのスクリーニングを実施。さまざまなステータスの会員に参加をお願いできることから、コールセンター経由では収集しにくかった“ポジティブ”や“消極的なネガティブ”といった性格のVOCを収集する貴重なチャネルとなっている。
 また、サービス利用会員においては、当然のことながら「タニタ」というブランドへの信頼感、親近感も醸成されており、すでに比較的買い替えサイクルが短い歩数計などについては、タニタの商品のリピート購入や他社からのブランドスイッチの比率が高まるという成果も確認されている。メイン商品である体組成計については、前述の通り、買い替えサイクルが長いため、具体的にはこれからという段階だが、今後の成果が期待されている。
 今後については、電子書籍などの分野で、デバイスがサービスの中に組み込まれるかたちで低価格化する中で、ビジネスモデル自体のあり方を見直していくことがテーマとなっている。現状では、特に体組成計の上位機種については比較的高額で販売されているが、今後は、サービスの一部として組み込む形態なども検討していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年1月号の記事