化粧品メーカー大手の(株)コーセーでは、メイクアップブランド「ESPRIQUE」の発売に合わせて、スマホで撮影した自分の顔に、同ブランドのさまざまなアイテムを使ってメイクを試せるシミュレーション・アプリ「Girls Make」の提供を開始。約12万人のユーザーを獲得し、同ブランドの販売促進に役立てている。
スマホの本格的普及に先駆けてスマホ・マーケティングの展開をスタート
化粧品メーカー大手の(株)コーセーでは、2011年4月から、主要ブランドのひとつである「ESPRIQUE(エスプリーク)」の販売促進の一環として、スマホを活用したマーケティングを展開している。
「ESPRIQUE」は、同社が2011年3月、30代前半の女性をメイン・ターゲットに発売したメイクアップブランドだ。この世代の女性は、可処分所得が高く、美容意識も高いが、仕事も遊びもと忙しい。そこで、このブランドでは、“美しい仕上がりには妥協しない、でも手早く仕上げたい”というニーズに応え、ひとつのアイテムにつき、ひとつの動作で“簡単・キレイ”に仕上がる「ワンストローク ビューティ」というコンセプトを提案。このコンセプトに基づいてアイカラー、チーク、口紅などを提供している。イメージキャラクターはこの世代の女性に“安室ちゃん”として人気の高いアーティストの安室奈美恵さん。TVCMなどでも彼女を前面に押し出した訴求を行っている。主要販売チャネルはドラッグストアだが、販売員のコンサルティングを伴う販売を基本としており、同社の商品群の中では中価格帯でありながら付加価値性の高いプレステージ・ブランドとして位置付けられている。
化粧品の販売促進においては、TVCMをはじめとするマス広告の威力は絶大であるが、コストの問題から際限なく出稿量を増やせるわけではない。同社ではこのような認識から近年、PC向け、携帯電話向けのWebサイトなどを通じた情報発信に力を入れてきたが、さらに最近ではiPhoneをはじめとするスマホが台頭。同ブランドを発売した2011年3月は、メイン・ターゲットとする30代前半の女性に普及し始めた時期であったこともあり、いち早くスマホを活用したマーケティングへの取り組みを開始することとしたのだ。
スマホで撮影した顔に「ESPRIQUE」の各アイテムを使ってメイクができるシミュレーション・アプリ
同社のスマホ・マーケティングの企画は、新ブランド発売の約半年前からスタート。ユーザーの関与度を高め、店頭への誘導効果を発揮することを目指して開発が進められた。その結果、iPhone、iPad向けのアプリとして完成し、2011年3月から提供開始されたのが「Girls Make」である。なお、「Girls Make」については2012年4月よりAndroid版の提供も開始しており、現状ではスマホ・ユーザーであれば通信会社を問わずに利用できる環境が整えられている。
「Girls Make」のメイン機能は、スマホのカメラで撮影した自分や友人の顔に、「ESPRIQUE」のさまざまなアイテムを使ってメイクを施し、シミュレーションを行う機能。例えばTVCMなどで“安室ちゃん”が施しているメイクパターンをすぐに試せると、人気を博している。
この機能によって目指しているのは、当然のことながら、シミュレーションで使ってみて気に入ったアイテムを購入してもらうことだ。従って、シミュレーションと実際の商品使用において、色味や質感、艶感などが異なったのでは意味がないばかりか、かえって顧客離反を招くことにもなりかねない。そこで、実際の制作に当たっては、このような微妙な色彩表現に強い協力会社を起用。試行錯誤を繰り返しながら、実使用時と極めて近いレベルの表現を実現した。
「Girls Make」ではさらに、ユーザーのコミュニケーションを活性化することも意識しており、スマホのBluetooth通信機能により自分がメイクしてほしい顔写真を友人などに送信し、受け取ったユーザーが好きなようにメイクするといった機能も用意されている。これは、例えば“女子会”などでお互いにメイクを施すといったシーンを想定した機能であり、日常的なコミュニケーションの中で「ESPRIQUE」というブランドへの親近感を醸成することを目指したものと言えるだろう。
アプリの訴求に関しては、大々的なマス広告などは行わなかったが、インターネット上のIT系メディアなどを対象として積極的にプレスリリースを配信した。その結果、あるメディアの男性記者が実際にアプリを試した様子をサイトに掲載したところ話題になり、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで広がっていったことなどから、徐々にアプリのダウンロード数が拡大。2012年9月現在では、iPhoneおよびiPad版を約10万人、Android版を約2万人がダウンロードしており、美容系アプリの中では人気アプリのひとつとして数えられるまでになっている。なお最近でも、特に後発のAndroid版を中心にダウンロード数は月間2,000~3,000件を数えているとのことであり、今後も新色の追加などによってマンネリ化を防ぐことで、ユーザーの維持・拡大を図っていきたい考えである。
「ESPRIQUE」は付加価値性の高いプレステージ・ブランドと位置付けられている( 上)。画面上で各種メイクを試せる『Girls Make』(下)
“マス広告だけでは届かない”層とのコミュニケーションを意識してスマホやソーシャルメディアを活用
「Girls Make」のマーケティング効果については、現状では定量的な検証は行っていないが、例えばファッション誌の出版社主催の展示会などでアプリに関するアンケートを行ったところ、「面白い」「実際のメイクを落とすことなくさまざまなメイクを試すことができるので役に立つ」といった声が数多く聞かれたことから、定性的には一定の効果を実現できているものと認識している。また、アプリ・ユーザーには新アイテム・新色発売時などを中心に年4~5回、“お知らせメール”を配信していることから、マス広告以外のコミュニケーション・ルートとしての役割も果たしているものと評価している。
ユーザー数については、2012年度末(2013年3月)時点で20万ユーザーの実現を目指している。今後もマス広告による訴求は考えていないが、各種イベントへの協賛が予定されており、こうした機会を通じて訴求を強化していく意向である。
今後の展開としては、同アプリがユーザー参加型のアプリであることを生かし、同アプリを活用したイベントを企画することで、「ネットからリアルへ」という動きを加速し、ブランドへの親近感を実購買につなげていきたい考えだ。また、「Girls Make」の展開で得た知見やノウハウは、同社全体の資産としてさまざまな場面で活用していく方針であり、今後、発売を予定している新ブランドでも同様の企画を展開することを検討している。
さらに将来的には“マス広告だけでは届かない”層が拡大することが見込まれることから、スマホやソーシャルメディアといった新しいツール、メディアを活用したコミュニケーション手法の最新動向を常に把握し、話題性も意識しながら、時代の“半歩先”を行くかたちでの積極的なトライアルを続けていく意向である。