生活者のアイデアをもとに試作を行い人気投票で新感覚の醤油を商品化

正田醤油(株)

130年以上の歴史ある醤油メーカー、正田醤油(株)。同社では、2011年10月より生活者参加型の商品企画プロジェクトをスタート。ソーシャルメディアを利用して生活者とのコミュニケーションを推進し、それによって醤油ニーズの掘り起こしと正田醤油の認知度向上を実現することを目指した。

醤油ニーズの掘り起こしと自社の認知度向上を目指して生活者参加型の企画を立案

 わが国の代表的な調味料のひとつとして日本の食文化を支えている醤油。1873(明治6)年に群馬県にて創業した正田醤油(株)は、以来、時代の趨勢に流されることなく、伝統の技を大切にしながらも新しい技術を求める研究精神に則り、商品を提供し続けてきた。現在は、業務用商品およびOEM生産を中心としながらも、家庭用商品も手掛け、小売店および自前のオンライン・ショッピング・サイトを通じて商品を提供している。
 同社では、2011年10月より生活者参加型の商品開発、「みんなの醤油スタジアム」をスタートした。取り組みの背景には、一般家庭における醤油の消費量の減少と、家庭用商品の認知度の低さがあった。総務省統計局「家計調査報告」によると、1世帯当たりの年間消費量は減少傾向が続いており、日本人の醤油離れが進んでいる。一方、同社における売り上げの内訳を見ると、業務用商品が約8割を占めており、家庭用商品は約2割。50代・60代の女性には特に贈答用などに利用する根強いファンが多いのだが、20代・30代については、地元の群馬県でさえ、認知度が高いとは言えない。そのため、家庭用商品のバリエーションを増やしても、なかなか取扱店舗数を増やせないという悩みを抱えていたのだ。
 加えて、自社でWebサイトを運営しているものの、自社のノウハウだけでWebサイトを活用した認知度アップのための施策を企画・実施するのは難しいという現実に直面。そこで、コンサルティング会社の力を借りて初めて取り組んだのが、生活者参加型の商品開発だった。これを通じて生活者とのコミュニケーションを推進し、それによって醤油ニーズの掘り起こしと正田醤油の認知度向上を実現することを目指したのである。
 だしつゆなども手掛ける同社だが、醤油を看板に掲げていることから、生活者とともに開発する商品は醤油にフォーカス。Webサイト「みんなの醤油スタジアム」を開設して男女、年齢を問わず、幅広い層を対象に新しい醤油のアイデアを募集し、集まったアイデアをもとに試作を行い、10種類の候補を同サイトで公開して人気投票を実施。上位3品を商品化するという企画を立案した。

お客さま相談室が持つノウハウやキャラクターを活用して円滑なコミュニケーションを推進

 まず、2011年10月30日に、自前のWebサイト「みんなの醤油スタジアム」を開設。トップリーグ(S1)への昇格を夢見る醤油とサポーターが集うS2リーグのフィールドという設定で、競技場をイメージしたデザインを採用するとともに、スタジアム広報の「しょう子ちゃん」、育成担当コーチの「ショウニーニョ」といったキャラクターを設定し、歴史ある同社のイメージにとらわれることなく楽しさを演出した。
 同サイトの告知と新しい醤油のアイデア募集については、Facebook広告とmixiのバナー広告を活用。このほか、ニュースリリースを配信して新聞などのパブリシティに取り上げてもらった。応募に当たっては、ニックネームでの応募を可能とすることで生活者の心理的障壁を下げるよう工夫し、最終的に1,000件余りのアイデアを集めた。
 集まったアイデアは、本企画の運営を担うマーケティング部のスタッフ3名と開発部のスタッフが1件1件に目を通し、「斬新さ」と「美味しそう」であることなどを基準にアイデアを絞り込み、試作を開始。試行錯誤の模様を「みんなの醤油スタジアム」内の育成グラウンドやFacebookページ、mixi、YouTubeで公開し、応募者や閲覧者との継続的なコミュニケーションを図っていった。
 同社では、大勢の方に楽しんで参加してもらえるよう、コミュニケーションの取り方に細心の注意を払った。ここで役立ったのが、お客さま相談室で培った顧客対応ノウハウだった。また、同社と応募者・閲覧者との間にキャラクターを介在させたことで、これがクッションとなり、例えば応募者の意見を採用できないケースについても穏やかで円滑な対話を推進することができたという。
 キャラクターの設定はこうしたメリットをもたらす反面、運用面のハードルを高める要素にもなる。同社ではキャラクターを維持するために、あらかじめ詳細なプロファイルを設定。1キャラクターを1スタッフが担当することでキャラクターのぶれを防いだ。何らかの理由で別のスタッフがコメントを発信する場合は、口調や使う言葉、使う文字を揃えるなどして、発信者が異なることを感じさせないように努めたという。
 また、試作においては、先入観や固定観念を捨てて、まず、生活者の声を受け止めることを重視した。生活者のアイデアをそのまま生かすことが、売れる商品、新しい商品の開発につながるとは限らないとは言え、そこには多くのヒントが隠れている。生活者参加型の商品開発を実施するに当たっては、生活者のアイデアからヒントを読み取る目を養うことが不可欠なのである。

投票で商品化する醤油3種を決定 5月から自社サイトでの販売を開始

 同社では、年が明けた1月中旬に、商品化を競う10種類の醤油を発表。これらを実際に試食して投票する実食サポーターを、「みんなの醤油スタジアム」や各種ソーシャルメディアで告知して募集し、当選した500名に10種類の試作品を送り、おすすめの食べ方を試してもらった。人気投票は1月中旬から2月中旬にかけて実施。実食サポーターだけでなく、試食をしていない人にも直感で使ってみたいと思う醤油に投票してもらい、双方の得点に傾斜をつけて集計、その合計で順位を決定した。
 投票結果は、1位が「お餅に合う焦がしバター醤油」。そのほか反響の大きかった「とんかつに合うまろやかかえし醤油」と「そぼろに合うハラペーニョ醤油」を合わせた3品について、社内でパッケージや容量、希望小売価格、商品名を決定し、この5月の大型連休明けから自社のオンライン・ショッピング・サイトでの販売を開始したところ。「みんなの醤油スタジアム」、Facebook、mixiで販売開始を告知したほか、実食サポーターの応募者に向けたeメールマガジン、紙媒体のプレゼント企画などのパブリシティを活用して商品をPRしている。これと並行して、この秋冬には店頭に並ぶよう小売店に働き掛けていくという。
 今回、アイデアや実食サポーターへの応募者が多かった地域は東京と大阪といった大都市で、年代は20代から40代までと幅広かったことから、同社ではこれまでアプローチできていなかった層の認知度が高まったと見ている。これは、大きな効果と言えよう。
 同社では今後も「みんなの醤油スタジアム」を存続させ、生活者とのコミュニケーションを継続していく考え。そして、今秋には第二弾の企画をスタートさせる意向だ。

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商品化の候補となった10種類の試作品は小袋に入れて箱に詰め、実食サポーターに提供した(上)。トップリーグへの昇格を夢見る醤油とサポーターが集うという設定の「みんなの醤油スタジアム」(上)。3品をこの5月から、まず通販で販売(下)


月刊『アイ・エム・プレス』2012年6月号の記事