長い歴史の中で培った独自性の高い商品の特徴をダイレクトに訴求

森下仁丹(株)

1893年の創業以来、ヘルスケア製品、医療機器・医薬品などの製造・販売を手掛ける森下仁丹(株)では、1993年から健康食品の通信販売に着手。独自性の高い商品の特徴を生活者にダイレクトに訴求できる販売チャネルとして通販のメリットを最大限に活用し、高い成果を獲得している。

まず「商品ありき」で最適な販売チャネルを模索

 1893(明治26)年に創業。以降、長年にわたって、多くの顧客に愛され続ける「銀粒仁丹」や「仁丹体温計」をはじめとするヘルスケア製品、オーラルケア製品、医療機器・医薬品の製造・販売を手掛ける森下仁丹(株)。同社では1993年から健康食品の通信販売に取り組んでいる。
 同社の通販の歴史は、乳酸菌健康食品「ビフィーナ」の開発に端を発している。同商品は、同社が社名にも冠する「仁丹」製造の長い歴史の中で培ってきたコーティング技術を汎用性のあるものとして結実させ、特許も取得しているカプセル技術を最大限に活用したものであり、ダブルプロテクトカプセルの高い耐酸性によって、主要成分であるビフィズス菌と2種類の乳酸菌(アシドフィルス菌、フェーカリス菌)が、胃酸に負けずに腸に届くことを大きな特徴としている。その商品力は非常に高く、エビデンスやバックデータも整っているのだが、開発当時、同社の既存の流通チャネルである店舗小売ルートでは、その特徴を十分に伝え切れるかどうかが危惧された。そこで同社では、生活者と直接的にやり取りすることで商品の特徴を十分に伝達できる通販を、販売チャネルとして選択したのだ。つまり同社では、通販という「販売チャネルありき」で商材を選択・開発したのではなく、まず「商品ありき」で最適な販売チャネルを模索した結果、通販にたどり着いたのである。
 通販に参入して以来変わらず、取扱商品の中心は「ビフィーナ」シリーズ。そのほかにはDHA、ラクトフェリン、グルコサミンなどのサプリメントや青汁などがあり、現在、合計で約50アイテムを取り扱っている。ただし、マス媒体などで訴求しているのは基本的に「ビフィーナ」シリーズのみであり、同商品を購入したユーザーにほかの商品を推奨するクロスセルを行うかたちが主流となっている。
 価格については、独自のカプセル技術による商品力の高さによって類似商品とは一線を画す差別化が実現していることから、他社が取り扱う乳酸菌をベースとするサプリメントと比較すると高めだが問題ないとしている。例えば主力の「ビフィーナS〈スーパー〉」では、2カ月分を目安とする60包で7,140円(税込。初回特別価格は5,712円)だ。それでも「ビフィーナ」シリーズは15年連続で「乳酸菌健康食品市場売り上げNo.1」にランキングされており、同社は今後も、他社製品と価格面での競争を行っていく考えはないという。

情報誌・DMの送付に加えてアウトバウンド・コールも実施

 利用媒体については、当初、新聞広告を中心にスタート。その後、徐々に新聞折り込みチラシ、ラジオ、TVの利用を開始。現状ではこれらの媒体を組み合わせた展開を図っている。インターネットについては、2000年ごろから活用を開始。現在、通販専用サイトとして「仁丹堂」を運営しているが、現状では受注チャネルとしての意味合いが強く、新規顧客獲得チャネルとしては、前述のマス媒体が中心となっている。
 ターゲットとしているのは50代以上のいわゆるシニア世代であり、実際の顧客層においてもこれらの世代が中心となっている。
 クリエイティブについては、前述の通り「ビフィーナ」シリーズを中心に、その商品特性をいかに伝えるかに主眼を置いている。なお、従来は「10包・500円」などに設定したトライアル商品を訴求し、その利用者に本商品の利用を勧めるという手法を採っていたが、「ビフィーナ」の商品特性上、継続して利用することで本来の効果を実感してもらえること、また、トライアル商品によりいくら顧客リストが増加しても、本商品の利用につながらなければ結局は収益につながらないことから、2009年以降は、当初から本商品を訴求するかたちとしている。
 これによって間口を狭くする一方で、既存顧客のリピートを促進するCRM施策を強化。価格が20%OFFとなる「定期お届けサービス」の利用を勧めるほか、独自編集の情報誌『仁丹堂』を毎月送付。また、ターゲットをセグメントしたDMを送付したり、アウトバウンド・コールも実施している。特にアウトバウンド・コールについては、「ビフィーナ」シリーズをはじめとする同社商品の技術力の高さをわかりやすく伝えるという点で効果を上げているとのことである。ちなみにコールセンター業務は、2009年に設立した100%出資子会社である(株)森下仁丹ヘルスコミュニケーションズにアウトソーシングしている。
 そのほか、長期間にわたり継続利用している優良顧客を対象に、会員組織「百年倶楽部」を運営。コンサートをはじめとするイベントへの招待を行うなど、付加サービスを充実させることで、顧客の離脱防止を図っている。

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通販サイト「仁丹堂」では、商品の良さ、独自性を知ってもらうための詳細な商品説明に力を入れている

ターゲットの細分化などにより通販事業単体で年間売上高50億円を目指す

 「ビフィーナ」シリーズについては、発売当初より通販に主軸を置いた展開を貫いており、今後もこの方針に変わりはない。ただし、同商品の評判の高さから「ぜひ取り扱いたい」という小売業からの要望があるため、これに対応して、通販と同様の説明機能が期待できるドラッグストアなどに対しては、一部卸売りも行っている。
 「森下仁丹」というブランドが与える影響については、例えば社名ロゴを大きく扱うなど、企業イメージを強く打ち出したクリエイティブではレスポンスが高い傾向にあることなどから、基本的にポジティブな効果が発揮されていると認識しており、今後も伝統のある企業としての高い信頼性を生かした取り組みを進めていく意向である。
 通販事業を含むヘルスケア事業の年間売上高は、同社全体の売上高の5割以上を占める56 億円前後に達している。特に主力の「ビフィーナ」シリーズについてはここ数年、売上高が前年比2ケタ増のペースで推移するなど、好調を保っているとのことだ。同社ではその要因を、“ザルの目をふさぐ”CRM施策の効果の表れと見ている。この継続的な展開により、顧客の離脱率の低下が実現したことで収益率も向上しており、今後も同様の施策を続けていく意向である。
 今後の課題としては、いかにこれまで以上に多くの人に同社の商品を知ってもらうかが挙げられている。例えば、広告のクリエイティブにおいては、これまで特にターゲットを絞らず、すべての層を対象に同社商品の技術力や商品力の高さを伝えてきたが、今後は利用媒体ごとのターゲットを意識し、その層に見合ったクリエイティブを工夫することなどで、コミュニケーション力の強化を図っていく。そして、こうした取り組みを通じて売り上げの拡大を図り、近い将来には通販事業単体で50億円規模の売り上げを実現したい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年2月号の記事