入浴剤で知られる(株)バスクリンでは2009年、女性向けの薬用育毛剤ブランド「髪姫(はつひめ)」を立ち上げ、通販事業に本格参入した。100年以上に及ぶ生薬研究に基づく独自性の高い商品は、ターゲットとした50~60代女性に徐々に浸透しており、順調に売り上げを伸ばしている。
ユーザーへのサービスからスタートした通信販売を本格事業化
2006年7月に(株)ツムラから分社するかたちで創業。さらに2008年7月にツムラグループから独立した(株)バスクリンは、2009年、女性向けの薬用育毛剤ブランド「髪姫(はつひめ)」を立ち上げ、以降、同ブランドを中心とする通信販売に取り組んでいる。
同社が通販事業に着手したのは2008年ごろ。同社のメイン商材である入浴剤について「近くに取り扱っている販売店がない」というユーザーの声があったことから、サービスの一環としてECサイトを立ち上げたのが始まりであり、当初の取扱アイテムは、入浴剤などの店頭販売商品のみであった。
しかし、当該サイトで一定の注文があったことから、主力の代理店経由の販売を補完する新事業として通販に本格参入することを企画。その際、店頭販売商品については単価の低さから送料がネックとなり、事業として成立させることは難しいと判断し、新たな商材を探求した結果、送料を吸収できる単価設定が可能であり、同時にツムラ時代からの漢方研究の成果が生かせる商材として、「モウガ」ブランドで実績のあった育毛剤に注目し、薬用育毛剤「髪姫」を開発・販売するに至った。その後、2010年10月に関連商品として「薬用シャンプー」「薬用トリートメント」、さらに2011年10月には「髪姫」ブランドの「白髪用ヘアカラートリートメント」(3色)を発売し、現在に至っている。
また、2011年12月にはスキンケアブランド「美漢精」を立ち上げ、その第一弾の商品として「プレミアムビューティオイル」を発売した。
薬用育毛剤「髪姫」は、同社の漢方研究の成果を生かして開発された
50~60代女性をターゲットに新聞広告を中心とした展開を進める
同社の通販事業における中心媒体は新聞広告である。主要ターゲットが50~60代の女性であることから、この層における知名度や好感度の高い女優、浅野温子さん、紺野美佐子さんをイメージキャラクターとして起用。主に全国紙の全15段広告を中心に出稿し、「髪姫」の「生薬体感ミニボトル」(30㎖、1,050円)を訴求、注文顧客に対して商品とともに独自に制作した『生薬育毛読本』などを送付することで、育毛サイクル上、6カ月以上の継続購入が望ましいことを紹介し、「髪姫」の本商品(120㎖、7,980円)の購入を促進している。最近ではそのほかに、試験的にラジオショッピングの実施や新聞折り込みチラシなどの展開も開始。さらに事業開始時から運営しているECサイト「BATHCLIN(バスクリン)通販ショップ」についても2011年9月にリニューアルを行って動線を整理し、ユーザビリティ向上による利用促進を図っている。また、既存ユーザー向けには、隔月刊の会員誌として『新芽』を発行。商品同梱などのかたちで配布することで、コミュニケーションの拡充、継続利用の促進につなげている。
独自性の高い育毛剤を中心に据えた展開を徹底
商品政策としては、女性向けの薬用育毛剤ブランド「髪姫」を中心に据えた展開を徹底している。
薬用育毛剤「髪姫」はツムラ時代からの100年以上に及ぶ生薬研究に基づいて、同社のつくば研究所が中心となって開発した独自性の高い育毛剤だ。「ショウキョウ」「センブリ」「高麗ニンジン」「ホコウエイ根」「ボタンピ」といった生薬成分はもちろんのこと、成分を抽出するためのアルコールも植物由来のものを使用。香料や着色料などを含めて、人工的に作られた合成成分は一切配合していない。また、例えばショウガの根茎を乾燥させて作る「ショウキョウ」について、独自の生薬加工技術によって、育毛活性成分であるショーガオールの含有量を市場品の平均値の3倍以上とするなど、同社の生薬に関するアドバンテージを最大限に活用している。さらに、容器の素材によっては育毛剤の成分が容器に吸着してしまったり、紫外線によって成分が消失してしまうこともあるため、中身だけでなく容器も特別に開発するなど、徹底したこだわりにより、高い品質を実現している。
一方、商品開発にこだわっているだけに、ラインナップの拡充は容易ではなく、「髪姫」ブランドの現状の商品構成は、前述の通り2010年10月に関連商品として発売を開始した「薬用シャンプー」(580㎖、3,980円)、「薬用トリートメント」(250g、3,980円)、2011年10月に発売した「髪姫 白髪用ヘアカラートリートメント」(210g、3,500円)を加えた4アイテムにとどまっている。そこで同社では、生活者のアンチエイジング需要に広く応えることを目的として、スキンケアブランド「美漢精」を立ち上げ、2011年12月より同ブランドから「プレミアムビューティオイル」(30㎖、6,500円)を新発売した。今後は、「髪姫」ブランドと並行して「美漢精」ブランドの商品も拡充していく予定だ。
2011年12月には通販ブランドに、スキンケアブランド「美漢精」を追加。第一弾として8年をかけて開発した「プレミアムビューティオイル」を新発売した
新商品投入による売上規模の拡大を目指す
同社においてはあくまでも代理店を経由した販売が主力であり、通販はそれを補完する事業という位置付けであることから、通販事業の運営はダイレクトマーケティング部の少人数のスタッフによって担われている。
同社の通販事業では、ユーザーの中心がインターネットへの関与度が比較的低い50~60代の女性であることから、受注の約8割が電話によるものとなっており、「BATHCLIN通販ショップ」の利用は1割程度にとどまっているとのことである(その他は、ハガキ・ファクスなど)。
また、代金回収については、クレジットカード払いと代引き、および自動口座振替の利用が可能である。
「髪姫」を中心とする通販の売り上げは事業開始以来、順調に伸びており、今年度(2012年3月期)についても、東日本大震災の影響はあったものの、「白髪用ヘアカラートリートメント」や「美漢精」ブランドの「プレミアムビューティオイル」の投入などにより前年度を上回る売り上げを実現できる見込みだ。損益でも、2010年度では単年度黒字を実現できていることから、今後もこれまで同様、ツムラ時代からの生薬研究に基づく商品力の高さと、「バスクリン」という企業に対する信頼性の高さを生かした展開を進めていく方針である。
今後の課題としては、商品ラインナップの拡充が挙げられている。前述の通り、商品開発にこだわっているだけにその実現は容易ではないが、年に1アイテム程度の新商品の投入を目指し、売上規模の拡大を図っていきたい考えである。