AGA(男性型脱毛症)治療薬「プロペシア」を販売するMSD(株)では、AGAに関する情報を継続的に発信するWebサイト「AGA-news」を運営。同サイトとマス広告などを組み合わせたキャンペーンを展開し、AGAに関する啓蒙を行うとともに、医療機関の受診を促進している。
AGAに関する情報を継続的に発信するWebサイト「AGA-news」を運営
万有製薬(株)とシェリング・プラウ(株)の統合により、2010年10月に誕生したMSD(株)。グローバル・ヘルスケア企業Merck & Co., Inc., WhitehouseStation, N.J., U.S.A.の一員として、「循環器系疾患」「糖尿病・メタボリック」「骨疾患・呼吸器系疾患・免疫系疾患・皮膚疾患」「肝炎・感染症」など、幅広い疾患領域にわたる医薬品の提供を行う同社では、AGA(Androgenetic Alopecia=男性型脱毛症)の治療薬である「プロペシア」の普及をサポートする目的で、AGAに関する情報を継続的に発信するWebサイト「AGA-news」を運営している。
同社の前身である万有製薬が「プロペシア」を発売したのは2005年12月。この医薬品はいわば“飲む脱毛抑止剤”であり、抜け毛や薄毛に悩む男性を救う可能性を有する“新薬”であったが、当時、そのような医薬品があると認識している人はほぼ皆無であった。通常、一般消費財などの分野でこのような画期的な新製品を普及させるためには、まず、認知度を高める必要があるのだが、医療用医薬品の場合、薬事法の規制から、一般生活者を対象に広告などによる訴求を行うことはできない。そこで同社では、まず、AGAが医療機関で医薬品を用いて治療することができる疾患であることを訴求することによって、AGA治療のために医療機関を受診する人を増やしていくことを目指し、人気芸人・爆笑問題を起用したTVCMの放映などと並行して、2006年2月、「AGA-news」の運営をスタートしたのだ。
当初、「AGA-news」のコンテンツは、AGAに関する基本的な情報のほか、AGAについて相談できる医療機関の検索ページが中心であった。開設から約1年半が経過した頃に実施したアンケート調査では、情報に敏感ないわゆるイノベーター、アーリーアダプター層にはAGA治療に関する認知がある程度進んでいるという結果だったことから、マジョリティ層への訴求を進めるために、コンテンツの拡充を推進。現在では「患者さんの治療体験記」「お医者さん自身の治療体験記」「AGAはやわかりQ&A」「AGA診療に対する受診満足度調査結果」など豊富なコンテンツを取り揃え、AGA治療に関心を持ったサイト訪問者のニーズに応えている。
TVCMを中心にマスメディアでの訴求を展開
世の中に抜け毛や薄毛に悩む男性は数多いが、“AGA”というワードを認識している人はまだまだ少ない。同社が「AGA-news」の運営を開始した2006年2月当時には、その状況はさらに顕著であった。そこで同社では、マス広告を用いてまず“AGA”というワード、また、AGAが医療機関で医薬品を用いて治療することができる疾患であることを訴求し、興味を持った人に「AGA-news」を訪れてもらうという手法を採用。現状でも基本的にはその手法を継続している。
マス広告の中心は、TVCMである。近年では生活者のTV離れによるTVCMの効率低下が指摘されることも多いが、それでも認知力においては他のメディアを圧倒している。同社の分析でも、コストの絶対値は高いものの、認知度向上への貢献度という観点では最も効率が良いという結果になっているとのことだ。そのほか、マス広告については、ラジオCM、新聞広告、交通広告などを実施。特にラジオ・交通広告については、通勤時の男性に対するリマインダー効果を意識したものとなっている。さらに、各種インターネット広告や対応医療機関でのPOPなども実施しており、これらを組み合わせることにより、多層的な展開を進めている状況だ。
出稿時期については、予算効率の観点から年に3~4回、1クール2~3週間のキャンペーンを展開するかたち。メディア別では、情報が浸透するステップなどを考慮してTV・ラジオCM、新聞広告を先行して実施し、後追いで交通広告、インターネット広告を展開している。
効果測定については、インターネット広告については個々にCPC(Cost Per Click:クリック単価)などを検証しているが、マス広告については個別の貢献度を測ることは難しいという認識から、厳密な検証は行っていない。ただし、特に最近では、キャンペーン実施後、「AGA-news」への訪問ユーザー数やPV数がほぼ想定通り上昇しているとのことであり、期待したコスト・パフォーマンスは実現できているようだ。
「AGA-news」のトップページ
医療機関に設置されている小冊子(左)とポスター(右)
ソーシャルメディアを定期的にウオッチ
ソーシャルメディアへの対応については、現状では定期的なウオッチングを行い、ソーシャルメディア上でのAGA関連情報の普及・浸透状況を確認することが中心となっており、積極的な関与は行っていない。
抜け毛や薄毛などの“悩み”に関する情報は、匿名性の高いインターネット上で広がりやすい情報であり、実際にAGAやその治療に関する情報がソーシャルメディアを通じて拡散していることも確認されている。従って、同社がAGA関連情報を交換できるコミュニティサイトなどの“場”を提供すれば、その動きをさらに加速できることは確実と言えるが、そこでネックとなるのが薬事法の規制である。同社が用意した“場”で生活者の自由な書き込みを許した場合、商品名や薬効などを含む書き込みを完全に排除することは難しく、それが薬事法に抵触してしまう可能性が高いのだ。従って、同社では当面、現状の対応を継続していく意向であるが、その中でも、可能な範囲においてAGA関連の情報発信者の動向をトラッキングするなど、ウオッチの精度を高めていく方針である。
今後は“受診”というアクションにつなげていくための訴求をさらに強化
「AGA-news」の訪問ユーザー数は、通常時で1日3,000~4,000人程度、マスメディアを活用したキャンペーン時ではその3~5倍程度となっている。
また、同社の調査によれば、「プロペシア」発売時にほぼ皆無であった「AGAを医療機関で医薬品によって治療できる」という認識を持つ人は、2011年2月時点で、抜け毛や薄毛などを気にしている人の70%近くにまで増加しており、さらに、「AGA-news」訪問経験者では、非経験者と比較して受診率が4~5倍となっているという。このことから、「AGA-news」を軸としたAGAに関する啓蒙活動が一定の効果を上げていることは確実であり、今後も基本的にはこれまで同様の施策を継続していく意向である。
ただし、現状において、「AGAを医療機関で医薬品によって治療できる」ことの認知度はすでに70%近くに達していることから、今後は治療できることを認知している人を“受診”というアクションにつなげていくための訴求に、さらに力を入れていく。また、現状では30~40代男性を主なコミュニケーション・ターゲットとしているが、これを20代男性にも拡大し、早めの対応を訴求することで、受診者の裾野を広げていく考えである。