セブン&アイHLDGS.グループの(株)セブン・カードサービスでは、電子マネー「nanaco」事業において、セブン-イレブン、イトーヨーカドーなどの加盟店店頭を中心に各種施策を展開。新規会員獲得に加えて、全国約1,500万人にも及ぶ既存会員の利用促進に取り組んでいる。
セブン&アイHLDGS.グループの電子マネー
「nanaco」は、セブン-イレブン、イトーヨーカドー、そごう・西武などを擁する日本最大の流通グループであるセブン&アイHLDGS.グループのカード会社、(株)セブン・カードサービスが発行する電子マネーだ。
クレジットカード「アイワイカード」事業などを手掛ける同社が、「セブン-イレブン」約1,500店でnanacoの発行を開始したのは2007年4月。翌5月にはセブン-イレブン全店約1万1,730店でのサービスを開始し、同年10月には早くも発行件数500万件を突破した。
翌2008年3月には「イトーヨーカドー」、同6月にはファミリーレストラン「デニーズ」、2009年3月にはレストラン「ファミール」「ファミールコート」「パスタランテ」、ラーメン店「芝のラーメン屋さん」、さらには2010年10月にはそごう・西武の食品売場と、グループ内の多くの店舗での利用を可能とするほか、2009年6月にはヤマト運輸(株)の直営店窓口での取り扱いを開始するなど、グループ外の加盟店も拡大しつつある。なお、nanaco事業は、ビジネスモデルとしては会員のnanaco利用に応じて加盟店運営企業から手数料を徴収する手数料型ビジネスであるが、便利な決済手段の提供によってグループの本業である流通サービス事業をサポートするという役割も担っている。
日本全国で約1,500万人の会員を獲得
nanacoの利用形態には、専用のICカード「nanacoカード」と「nanacoモバイル」(モバイルFeliCaチップを内蔵したモバイル端末)の2種類がある。nanacoカードについては発行手数料300円(税込)が掛かるが、セブン-イレブン、イトーヨーカドーなどの店頭で誰でも申し込むことができる。一方、nanacoモバイルについてはnanacoモバイルアプリをダウンロードして会員登録することにより無料で利用を開始できるが、入会条件を16歳以上としている。2011年7月末現在、会員数は約1,500万人。うち約85%がnanacoカード会員、約15%がモバイル会員だ。属性的には、性別では男性会員が若干多く、年代別では30代、40代、50代以上がほぼ均等に分布。会員の居住エリアでは、関東、九州、関西、北海道を中心に全国に分布している。
会員はセブン-イレブン、イトーヨーカドーなどの店頭、(株)セブン銀行のATMなどから現金で、またはアイワイカードを通じてチャージを行うことにより、各加盟店での利用が可能となる。利用時には基本的に100円の利用につき「nanacoポイント」1ポイントが付与され、1ポイントを電子マネー1円分に交換することができる。nanacoポイントは、グループの通販サイト「セブンネットショッピング」で利用したり、提携先であるヤフー(株)の「Yahoo!ポイント」と交換したりすることも可能だ。
なお、電子マネーでは、会員制を採用せずに、属性情報の登録なしで利用を開始できるものもあるが、nanacoでは属性情報の登録を必須としている。これは、会員に安心して利用してもらうことを目的とするものであり、例えばnanacoカードを紛失した場合でも、24時間・365日対応の「お問合せセンター」に連絡して手続きを行えば、再発行したカードに紛失したカードのチャージ金額残高を引き継ぐことができる。
店頭訴求を中心に各種施策を実施
nanacoは老若男女誰でも利用可能な電子マネーであり、しかも、全国に数多くの店舗を有するセブン-イレブンやイトーヨーカドーなどで発行しているため、利用開始までのハードルは非常に低い。このハードルの低さが発行開始から4年強で1,500万人近くの会員を集める結果につながっているのだが、一方で、ハードルの低さゆえに会員の帰属意識が低く、同社のもうひとつの事業であるクレジットカード事業と比較して、会員が不活性化するペースが早いという傾向も見られる。
同社では、このような傾向に対して、基本的には新規会員獲得を継続していくことで対応している。具体的には、年2~3回、新規会員獲得キャンペーンを実施。一定期間、通常300円のnanacoカード発行手数料を無料としたり、特定商品の購入を対象に通常ポイントにプラスしてボーナスポイントを提供したりすることをフックに入会促進を図っている。なお、ボーナスポイントの提供については、新規会員のみならず、既存会員を含むすべての会員を対象とするものとなっているので、結果としてはこの新規会員獲得キャンペーンが既存会員の利用促進キャンペーンとしても機能している状況である。
nanacoでは、セブン-イレブンやイトーヨーカドーなど日常的なショッピングの場が利用の中心となっているため、転居など特殊な事情を除いては、会員がそれらの店舗の利用を完全に中止してしまうケースは少ないものと想定される。従って、同社では、nanacoの利用促進においては店頭での訴求が最も有効であると認識しており、今後も加盟店運営企業やその納入メーカーとの連携によるボーナスポイントの発行などをベースとした取り組みを継続していく意向である。
電子マネー事業では、決済金額情報しか把握できず、また、直接的なタッチポイントが少ない。従って、会員とのダイレクト・コミュニケーションによる利用促進については、会員の利用履歴の把握が可能であり、さらに請求書の送付など定期的・継続的なコミュニケーション機会があるクレジットカード事業と比較して、難易度が高いと感じている。しかし、例えば登録無料のメールマガジン『nanacoニュース』を、PC版では月2回、モバイル版では毎週水曜日に配信し、表示URLのクリック率や訴求商品の利用状況を検証するなど、試行錯誤を繰り返しながら、効果的な施策を模索している。
nanacoポイントの失効防止で会員の利用意欲を向上
nanacoポイントについては、有効期限をポイント付与日の翌年度末としており、毎年3月末に有効期限を迎えるポイントが発生する。同社としては、ポイントを有効に活用してもらうことが会員のnanaco利用意欲を高め、結果として利用促進につながるという認識から、できる限りポイントの失効を防止したいと考えており、例えば、イトーヨーカドーでは常時、セブン-イレブンでは1~3月、nanaco利用者のレシートに有効期限を迎えるポイント数を表記するほか、店頭のPOPなどでポイント利用を喚起。さらにeメールアドレス登録者には、プロモーションのためのeメールを送信するといった施策を行っているが、このような施策は今後も継続・強化していく意向である。
今後については、さらに加盟店を拡大することなどで電子マネーとしての利便性を高めていくほか、新規会員獲得キャンペーンの端境期には、既存会員の利用促進にフォーカスしたキャンペーンを行うことなどにより、多角的に利用促進を図っていきたい考えである。
nanacoで買うとボーナスポイントが付与されることを知らせる店頭POPの例