アジア展開を経営の大きな柱に

イオン(株)

1985年にマレーシアに海外1号店を出店し、アジア展開をスタートしたイオン。同社では2011年度からの中期3カ年計画でアジアへのシフトを表明。2011年度に中国本社、2012年度にASEAN本社を設立する計画を示すなど、アジアでの展開を急加速している。

中期3カ年計画で「アジア」シフトを表明

 1926(大正15)年9月に(株)岡田屋呉服店として設立、1970年、ローカル企業であるフタギ、シロとの提携でジャスコ(株)が誕生し、2001年8月、現社名へ変更したイオン(株)。2008年8月に純粋持株会社となった同社を中心とするイオンのアジア展開の歴史は1980年代にスタートした。具体的には1984年にマレーシアにジャヤ・ジャスコストアーズ、タイにサイアム・ジャスコ、翌1985年、香港にジャスコストアーズを相次いで設立し、同年、マレーシアに海外1号店をオープンしたことがその出発点である。
 当時、すでにGMSのジャスコを中心に日本国内で総合小売業を幅広く展開していた同社では、時期を見てグローバル展開を図る必要性を感じていた。アジア展開の直接のきっかけとなったのは、日本や韓国の経済成長を見習おうという「ルックイースト政策」で知られるマレーシアのマハティール首相(当時)が、当時、日本商工会議所会頭であった五島昇氏に「日本の近代的な小売業をぜひ、マレーシアに紹介してほしい」と依頼し、五島氏が親交のあった岡田卓也氏(現同社名誉会長相談役。当時は代表取締役社長)に話を持ち掛けたことであった。つまり、同社のアジア展開は必ずしもビジネス的な観点から始まったものではなく、当初は国際貢献の一環という意味合いが強かったのだが、現在ではその位置付けは大きく変化している。
 それを顕著に表しているのが、2011年度からの中期3カ年計画だ。同計画では、グループのリソースを「首都圏」「シニア」と同時に「アジア」に大きくシフトし、特にアジアには3年間で過去最高の約2,000億円を投資する計画を発表。そして、2011年度に中国・北京に中国本社、2012年にマレーシア・クアラルンプールにASEAN本社を設立し、両社に商品調達や物流、総務などの本社機能を一元化、権限も委譲することでアジア事業を加速する方針を示している。今やアジア展開は、同社にとって経営の大きな柱になりつつあるのだ。
 以下、同社が現在最も注力しているマーケットのひとつである中国での事業展開にフォーカスしていくこととする。

狭域商圏の市街地型立地からスタート

 同社は1987年に香港に中国1号店を出店しているが、中国本土での展開を開始したのは、マレーシアへの進出から11年後に当たる1996年。広東省広州市での店舗開設が最初であった。その後、広東省のほか、山東省、北京・天津市で相次いで店舗展開を行い、2011年4月現在の中国における店舗数は、香港を含めて38店舗に及んでいる。
 これらの店舗は地域別に4つの子会社が運営している。うち2社は、現地の政府系企業との合弁、2社は“独資”(同社100%資本)となっているが、これは中国展開のスタート時において外資規制が厳しく、独資での展開が認められていなかったことによるものである。同社としては経営上のフリーハンドを確保するという観点から、基本的には独資での展開を志向している。
 中国展開において日本国内とは異なる対応が必要となる点については、まず立地の選定が挙げられている。同社は、日本においては1980年代半ばから郊外型を中心とする出店を進めてきた。これは、高度経済成長期からモータリゼーションが急速に進展し、来店手段の中心が自動車となったことを背景とするものである。一方中国では、自動車の世帯普及率が、現状、全土ベースでは10%程度であり、首都・北京でも戸籍ベースで40~50%、出稼ぎによる在住者などを含めるとその半数以下にとどまっている。従って、来店手段の大半は徒歩や自転車であり、郊外型店舗は成立しにくい環境にある。そこで、例えば中国本土1号店となった天河城店は市街地の9階建てのショッピングビルの地下1階への出店とし、徒歩や自転車での来店客が利用しやすい環境を実現している。
 この天河城店の場合、開業から2年後に近隣に地下鉄の駅が開業したことにより客数・売上高が急増。ほかにも1998年にオープンした青島の店舗のように、開業当初は周辺エリアは閑散としていたが、その後、都市開発が進むとともに、同店が街の中心的な存在となったという例もある。発展途上にある中国においては、都市開発の先を見込した対応が成功につながるケースが多いようだ。
 マーチャンダイジングも日本同様にはいかない。日本では品揃えの大半が自主マーチャンダイズによるものであるが、中国では食品以外は販売会社に売り場を提供してマージンを得る委託販売形式に頼らざるを得ない状況にあるため、店舗として一貫したコンセプトに基づく売り場づくりを行うことが難しい。この点については商環境の違いとして受け入れつつも、今後、何らかのかたちで改善を図っていきたいとしている。

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GMS、専門店、サービス業などイオンの総合力を集結した「イオン北京国際商城ショッピングセンター」

ターゲットは増加を続けるミドルアッパー層

 同社では中国における主要ターゲットを、ミドルアッパーと呼ばれる、中間所得層のうち比較的上位に位置する層に設定している。これらの層は都市在住で世帯年収が年間7万~8万元程度、日本円に換算すると110万円程度の層である。物価水準からすると十分な購買力を持ち、かつ経済発展に伴って年々増加している魅力的な層であることから、当面、これらの層をターゲットとした戦略を進めていく意向である。
 その戦略の中心となるのが、ブランドの確立である。成熟途上にある中国の生活者は、日本と比べるとブランドに対する信頼が厚く、ブランドに頼った購買を行う傾向が強い。そこで、信頼される店舗運営や顧客コミュニケーションを通じてイオンのブランドを確立し、同社店舗で買い物をすることがステータスであると感じてほしいと考えているのだ。この戦略は功を奏しつつあり、すでに広州や青島の店舗などでは、発行している「購物卡」(カード式商品券)がステータスのある贈答品として認知されているといった状況も生まれているとのことである。
 そのほか、地域に根付くという観点から、店舗運営を現地のスタッフに任せる取り組みも進められている。前述の通り、現在、同社は中国で38店舗を展開しているが、スタッフの大半は現地採用であり、各店舗の店長も2店舗を除き、中国人スタッフである。今後もこの方向性を維持し、“地域に密着した店舗”としての存在感をさらに増していく方針だ。
 また、これまでの同社の中国展開は、GMSが中心だったが、2008年にオープンした「イオン北京国際商城ショッピングセンター(SC)」には、GMSのほか、グループの物販専門店・サービス事業者が出店。さらに地元企業も出店するなど、モータリゼーションの進展に対応した本格的な郊外型SCを実現している。今後は、グループの総合力を生かしたこのようなかたちの展開を進めることで、地域の“豊かな生活”への貢献を、より一層進めていきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年7月号の記事