インターネット証券のマネックス証券(株)では2008年秋、青森県八戸市に八戸コンタクトセンターを開設。開設に伴い、地元の八戸大学で金融ビジネスに関する寄付講座を開講し、株式投資・証券取引に関する興味度や理解度の向上を通じて、同社センターへの就職の動機付けを図った。
顧客とのコミュニケーションを充実化するための重要セクション
マネックス証券(株)は、1999年4月に設立された旧マネックス証券(株)と、同年9月に口座開設申込受付を開始した日興ビーンズ証券(株)が、2004年8月の共同持株会社・マネックス・ビーンズ・ホールディングス(株)〔現・マネックスグループ(株)〕設立を経て、2005年5月に合併するかたちで設立されたインターネット証券専業企業。2010年5月には、オリックス証券(株)との合併も果たしており、さらにその業容を拡大している。
Web上で非対面型の営業を展開する同社において、コールセンターの位置付けは顧客とのコミュニケーションを充実化するための重要なセクションであり、「お客さまとのコンタクト拠点である」という意味から、コンタクトセンターと呼ばれている。
2010年6月現在の体制は、日本橋コンタクトセンター(東京都中央区、以下、日本橋センター)30席と八戸コンタクトセンター(青森県八戸市、以下、八戸センター)50席の2センター・80席体制。八戸センターは2008年秋に日本橋センターの業務の一部を移管するかたちで新設されたセンターであり、将来的には大部分の業務を同センターに集約して、日本橋センターは緊急時のバックアップセンターとして機能させることを計画している。なお、両センターは顧客対応全般を担当する営業本部の下で、マーケティング部や口座管理部などと並列する組織として位置付けられている。
業務時間は基本的に平日の8時~18時。業務のほとんどはインバウンドであり、1日平均1,200~1,500件の電話と100~150件のeメールに対応。問い合わせ内容や取引商品によって八戸と日本橋の両センターで分担の上、対応している。なお、組織的には、両センターのセンター長の下、シニアスーパーバイザー(SSV)、スーパーバイザー(SV)が、それぞれ6名前後のコミュニケーターを管轄するかたちを採っている。
コミュニケーション品質の向上を目指して地方拠点を開設
現在、同社コンタクトセンターの中核をなしている八戸センターは、前述の通り2008年秋に開設された。日本橋センターにおいてはコミュニケーターの大半が女性派遣社員であり、教育・研修に力を入れても、配偶者の転勤などにより退職してしまうケースが多かった。これを受けて、正社員としての雇用をベースに長期的な教育・研修を施すことで、コミュニケーターの知識やスキルを向上し、コンタクトセンターにおける顧客とのコミュニケーション品質の向上を図ることが地方でのセンター開設の狙い。
同社では、コールセンター開設に関する公的な助成制度があったことに加え、周辺に大学が複数存在するなどの条件から、高い採用競争力をもたらすことを期待して八戸市を選定した。
八戸センターの開設に当たっては、八戸市および近隣地域居住者を対象に人材を募集。数多くの応募者の中から、業務に必要な知識やスキルは長く働いてもらうことにより身に付くという考えの下、勤労意欲の多寡や継続勤務ができそうかなどの観点で選考を実施。初年度は10数名を、基本的には転勤のない“地域限定社員”として採用した。
初年度については、八戸センターにおける教育・研修体制が整っていなかったことから、日本橋センターで6カ月の初期研修を実施。内容は同社の業務内容や取扱商品などに関する座学が約2カ月間、その後、OJTを通じて実際の業務の習熟を図るというもので、その間に証券業務に必要な証券外務員資格を取得することとした。なお、2年目以降については、同様の初期研修を八戸センターで完了できる体制が整っている。
初期研修を修了し、いわゆる“独り立ち”を果たした後は、SSV、SVによるモニタリングなど、日常的なOJTを実施するほか、土・日曜日に実施される外部研修への参加なども勧奨。継続的なフォローアップによりスキルの向上を図っており、基本的には1年半程度で大半の商品について対応できる、“マルチスキル型”のコミュニケーターになることを目指している。
なお八戸センターでは、東京本社との物理的距離があることから、多くのコールセンター以上に他部署との交流が困難であるが、同社では八戸センターで月1回実施している全体会に経営層が参加したり、定期的にTV会議を実施したりする施策により、営業本部の全体方針の徹底、ひいては全社的一体感の醸成に努めているとのことである。
八戸大学で寄付講座を開講
同社が、地域への貢献とともに、八戸センターでの良質な人材の採用を目指して実施した取り組みが、地元の八戸大学における寄付講座の開講だ。
マネックス証券は日本におけるインターネット証券会社の草分け的存在の1社であり、全国的には高い知名度を誇っているが、センター開設当初、八戸市における知名度は必ずしも高いものではなかった。また、いわゆる地方都市である八戸市では、首都圏や関西圏などと比較して株式投資・証券取引に関する興味度や理解度も相対的に低く、同社センターへの就職の動機付けという部分でやや不足が感じられる状況にあった。このような状況の打開策のひとつとして企画・実施されたのが、八戸大学における寄付講座の開講である。
具体的には、2008年度および2009年度の上半期、同大学ビジネス学部に「ビジネス特論」と題した金融ビジネスに関する講座を同社名を冠して開講。同社代表取締役社長CEOの松本大氏のほか、チーフエコノミストなどの同社社員が講師を務め、10数コマに及ぶ実践的な講義を実施した。2008年度については同大学の学生のみを対象としたが、2009年度にはオープンカレッジとして社会人にも門戸を開放。2008年度では50~60名前後、2009年度では約100名が受講した。
このような取り組みにより、受講生が同社に興味を持つようになり、人材募集に応じるという成果が現れており、実際に各年度で受講経験者数名ずつを採用するという結果につながった。なお2010年度については、前述の通り、2010年5月にオリックス証券との合併があったことなどから中断したが、2011年度以降は同様の取り組みの再開を検討している。
八戸センターの課題は、センター所在地が八戸市の中心地からやや離れていることなどが挙げられているが、「コンタクトセンター」の中核を担う八戸センターの幅広い人材育成のため、今後も採用と研修に注力していく考えである。