自動音声認識システムを日常的なオペレーター教育に活用

AIGエジソン生命保険(株)

AIGエジソン生命保険(株)では、コールセンターに自動音声認識システムを導入。オペレーターの発話を即時にテキスト化する仕組みの中で、特定ワードに対応するポップアップやNGワードに反応するアラームなどにより、オペレーター自らの“気付き”の機会を提供するほか、コンプライアンスの強化や、モニタリングによる指導の効率化、説得力向上にも生かしている。

“取り次ぎ窓口”から業務を完結できるコンタクトセンターへ

 AIGエジソン生命保険(株)は、1998年2月に設立され、同年4月に営業を開始した生命保険会社。その後、2002年10月にセゾン生命との合併により事業統合を実施。さらに2003年8月に米国に本拠を置く世界的な保険会社であるAIG,Inc.が全株式を取得、翌2004年1月に現社名への変更を行い、現在に至っている。
 取扱商品には、終身保険や定期保険などの死亡保障商品、傷害保険などの医療保障商品、個人年金保険や養老保険などの資産形成商品といった個人向け商品のほか、法人向け商品もラインアップ。同社では一部で通信販売も実施しているが、営業活動の中心は3,500名以上に及ぶ営業社員であり、「営業部・営業課・営業所・エイジェンシーオフィス」といった名称で全国各地に展開している営業店舗をベースに、対面型の営業活動を行っている。
 その中でコールセンターは、従来“営業社員への取り次ぎ窓口”という位置付けであったが、現在同社が進めている全社的な業務改革プロジェクト「プロジェクト・フェニックス」の一環として、以前は営業社員を通じて行っていた、契約の保全や各種照会への対応などのサービスを、電話やインターネットなどさまざまな手段で提供し、その場で手続きを完結できるコンタクトセンターへの変革を果たすべく、さまざまな施策に取り組んでいる。
 同社コールセンターは2004年9月に、「カスタマーサービスセンター」(長崎市)として開設された。同社が長崎市を選択した理由は、コールセンターの設置に対して公的助成があったことに加え、近隣に大学なども多く、また、Uターンなどで長崎市内での就職を希望する人も多いことから、高レベルの人材の確保が期待できることにあった。実際に、外資系企業である同社に不可欠な、語学力が高い人材が数多く集まっており、また、観光都市である“長崎”という土地柄からか、コールセンター業務で求められるホスピタリティに富んだ人材も多いとのことである。

顧客サービス本部の一組織として運営

 カスタマーサービスセンターは、従来、オペレーション部門に属していたが、2009年7月に顧客サービス本部が新設されたことに伴って同本部に移管されている。
 スタッフは2010年6月現在、166名を数える。内部組織は実際のコール対応業務を担当するカスタマーサービスセンター(CSC)のほか、企画・採用・トレーニングなどを担当するコールセンターサポートグループ、および書類発送や書類不備のメンテナンスなどを担当するコールセンター業務グループにより構成されている。CSCは124名体制で、マネージャーの下、4名のテクニカルサポートアドバイザー(TSA)が3~4名程度のチームリーダーを管轄。各チームリーダーが8名程度のオペレーターを管理・指導するかたちとなっている。
 業務時間は平日の9時~18時。コール数は1日平均で、顧客からの問い合わせ対応などのインバウンドが1,200~1,400件、契約の継続勧奨や入金依頼、未払い防止を目的とする保険金などのフォローコールや手続きのお願いといったアウトバウンドが300件前後となっている。そのほか、専門チームとして設置しているフィールドサポートデスク(FSD)における営業社員からの問い合わせへの対応が1日平均600件ほどを数える。なお、アウトバウンドについては一部アウトソーシングも行っている。

「ワークアウト」をベースとした業務改善プログラムを導入

 オペレーターの採用については、人物本位で選考を実施。特に「目に見えないお客様との対応」を行う業務であることから、応対時の印象などを重視した面接を行った後、基礎レベルの学力や知識、頭の回転の速さなどを確認する筆記テストを経た上で採用を行っている。なお、オペレーターはほぼ100%が女性。センターが所在するビル内に保育所があることなどから、子育て中の主婦も多い。また、特に大卒以上の条件を設けてはいないが、地元の国立大学である長崎大学の出身者が2割近くに及んでいる。
 雇用形態については、約2割が長崎採用の正社員である「長崎基幹職」、約8割が契約社員である「エリア社員」として雇用されている。勤務実績によってエリア社員を長崎基幹職に登用するキャリアプランも用意されており、長崎基幹職については、すでにマネージャーにまで昇格している例があるとのことだ。
 採用後の教育については、まず33日間の初期研修を実施。従来は一定期間の座学の後、OJTに移行するかたちであったが、同社ではセゾン生命との合併により事業統合が行われた経緯から、商品体系が2種類存在することを理由に、現在では効率を考えて数日間の座学とOJTを複数回繰り返すという方式を採っている。
 その後のフォローアップについては、毎日10分程度実施している“朝会”で、実際の顧客対応事例などをベースに必要なノウハウや知識を紹介。また、毎週、業務知識テストを実施するなどして、知識習得に対する意欲の向上を図っている。
 そのほか、日常的な教育に大きく貢献しているのが、2009年5月に導入した自動音声認識システムである。このシステムは実際の顧客対応の音声の中で、オペレーターの発話部分をリアルタイムでテキスト化するというものだが、特定のワードが発話されると自動的に応対における留意点や必須伝達事項がポップアップされたり、「絶対に」などのNGワードが発話されるとアラームが表示されたりする機能も装備している。これによりオペレーターが業務を遂行しながら、応対品質を高めていくための“気付き”を得られるようになっている。また、チームリーダーやTSAによるモニタリングをベースにした教育においても、テキストを確認できることから、音声を直接モニタリングする場合と比較して効率が大幅に向上しているほか、不適切な応対などがあれば、すぐにオペレーターにテキストを見せながら指導することができるため、指導の説得力も増しているとのことである。
 さらに同センターでは、2010年6月から同社の前株主であったGE(ゼネラル・エレクトリック)が導入・実施したことで知られる「ワークアウト」をベースとしたボトムアップ型の業務改善プログラムを導入。受け身になりがちなコールセンター業務において、センタースタッフが自発的に業務改善課題を発見し、改善していく体質を身に付けていくための研修を行っており、研修受講後はそれぞれの業務において、具体的な改善の取り組みに着手している。
 また最近では、呼損率の改善を取り上げるなど、各チームからさまざまな階層のメンバーでワークアウトを実施し、メンバー合意の下、課題解決に取り組んでいるとのことだ。今後もこれらの取り組みを進めていくことで、コールセンターの総合的な品質の向上につなげていきたい考えである。

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カスタマーサービスセンターのオペレーション風景


月刊『アイ・エム・プレス』2010年8月号の記事