地域商店会と電子マネー「nanaco」が初の連携

亀有リリオ商店会

2009年10月、JR亀有南口の「亀有リリオ商店会」では(株)アイワイ・カード・サービスと提携、「nanaco」の一部店舗での取り扱いを開始した。導入時にはスタンプラリー方式の「導入記念お楽しみ抽選会」のほか、「nanaco」による支払いを条件とする割引サービスなども実施。ポイント機能を持つ電子マネーによる地域振興の試みとして注目されている。

地域商店会が大手流通小売グループの電子マネーを導入

 JR亀有駅南口の「亀有リリオ商店会」では2009年10月、(株)アイワイ・カード・サービスと提携。(株)セブン&アイHLDGS.の電子マネー「nanaco」の一部店舗での取り扱いを開始した。
 亀有リリオ商店会は、東京都葛飾区亀有のJR亀有駅南口再開発事業に伴って、1996年4月に組織された任意組合。イトーヨーカドー亀有駅前店をキーテナントとするリリオ館、およびリリオ壱番館・弐番館・参番館に店舗を構える55店舗により構成されている。業種としては飲食業が中心であるが、小売業、サービス業、金融業のほか、内科、外科などのクリニックも加盟している。
 一方、「nanaco」は2007年4月にアイワイ・カード・サービスがサービス提供を開始した電子マネー。専用の非接触型ICカード「nanacoカード」のほか、“おサイフケータイ”でも利用することができる。グループのコンビニエンスストアであるセブン-イレブンの店頭レジ、およびセブン銀行のATMなどでチャージ可能で、主な取扱店舗はセブン-イレブン、イトーヨーカドー(食品売り場)のほか、ファミリーレストランのデニーズなど、同社グループの店舗が中心となっている。なお、「nanaco」にはポイント機能もあり、基本的に「nanaco」での支払い100円ごとに1ポイントが付与され、1ポイント=1円として「nanaco」電子マネーへの交換ができる。
 地域商店会と国内有数の大手流通小売グループの電子マネーという、一見、関連性の薄そうな組み合わせを取り持ったのは(社)東京都信用金庫協会。東京都内の信用金庫により構成される同協会では、地域経済への貢献をテーマとしており、その一環として電子マネーの導入による地域商店会の振興を企図。2009年4月にアイワイ・カード・サービスと、「nanaco」の導入によって地域商店会、ひいては地域経済の活性化に積極的に取り組むことで合意し、亀有リリオ商店会に提案、今回の提携が実現したのである。なお、同協会では、第一弾の提携先として同商店会に白羽の矢を立てた理由を、リリオ館のキーテナントがイトーヨーカドーであり、また、周辺にもセブン-イレブンやデニーズなど「nanaco」利用可能店舗が多く、「nanaco」ユーザーが多いためと語っている。

割引サービスの提供やスタンプラリー方式の「お楽しみ抽選会」の開催でスタートダッシュを図る

 亀有リリオ商店会の中で、「nanaco」を導入したのは、商店会会長の石岡子介氏が営む果物店「みのりや」のほか、煎餅店「三喜屋煎餅」、中華料理店「中華工房和」、ペットショップ「犬の気持ちPRECIOUS」、酒販店「酒匠T-STYLE.」の5店舗。いずれも利用のみ可能で、チャージや残高確認などは行っていない。なお、同商店会には居酒屋やスナックなど、あまり電子マネーになじまないと思われる業態の加盟店も多く、また、「つり銭を用意しなくてよい」という理由で導入が期待されたクリニックも、「患者の中心である高齢者では電子マネーの利用が難しいのではないか」という理由で導入を見送ったことなどから、スタート時点の導入店舗は当初見込みを下回る結果となった。
 導入に当たっては、東京都信用金庫協会の負担により、同協会に加盟する亀有信用金庫などで500円分チャージ済みの「nanacoカード」1,000枚の配布を行い、地域における会員の拡大を図った。なお、同協会では、「nanaco」の利用に必要な端末の加盟店への設置費用も負担するなど、今回の取り組みに関して全面的な支援を行っている。
 さらに、サービス開始時には、2009年10月1日~24日を導入記念サービス期間として、「nanaco」での支払いについて「みのりや」「三喜屋煎餅」「犬の気持ちPRECIOUS」では10%割引、「中華工房和」では次回利用可能な「餃子無料券」の進呈、「酒匠T-STYLE.」では次回利用可能な「10%割引券」の進呈というサービスを提供した。また、同期間内に「お楽しみ抽選会」も開催。スタンプラリー方式で、「nanaco」を導入した同商店会の5店舗とイトーヨーカドー亀有駅前店、セブン-イレブン葛飾亀有3丁目店、デニーズ亀有駅前店のうち、3店舗で「nanaco」での決済を行った人を対象に、抽選で「リリオ協賛店舗賞」として国産マスクメロン2玉10セット、「セブンアンドアイ賞」としてセブン&アイ共通商品券5,000円分5本、「イトーヨーカドー賞」としてセブンプレミアム(セブン&アイHLDGS.グループのプライベート・ブランド)商品詰め合わせ10セット、「デニーズ・ファミール賞」として各社ドリンク券2枚200本、「nanaco賞」として「nanaco」お楽しみグッズをプレゼントし、利用促進を図った。
 なお、その後については、利用可能店舗の店頭に「nanaco」の利用が可能である旨のステッカーを張ったり、のぼりを設置したりするなどして、恒常的な利用促進を図っている状況だ。

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店頭で「nanaco」が使えることをアピールするのぼり(上)とステッカー(下)

将来のニーズ拡大を見込んで取り組みを継続

 2009年10月の「nanaco」導入以来、商店会全体としては、顧客数が飛躍的に増加するなどの大きな効果は確認されていないが、例えば「中華工房和」などでは「nanaco」利用者の占める比率も比較的高く、厳密な検証はしていないものの、リピート客の獲得につながっているのではないかと分析している。なお、商店会会長の石岡氏は現状について、「導入に当たって即効性は期待していなかったので、特に落胆はしていない」と語っている。
 ただし、例えば石岡氏が経営する果物店の業界では、伝統的に現金仕入れ(仕入れの翌々日支払い)が基本となっているのに対して、「nanaco」の決済は月2回(15日ごと)とタイムラグがあることや、決済に手数料(3%)が設定されていることなど、当初はあまり意識していなかった経理面での影響もあるとのことで、これらについては今後、対応策を検討していく意向だ。
 なお、スタート時は5店舗での導入はテストとして位置付けられており、段階的に導入店舗の拡大を図っていくことが計画されていたが、これまでのところ、5店舗に続くところは現れていない。同商店会では無理に導入店舗を拡大せず、あくまでも、それぞれ「一国一城の主」である加盟店舗の経営者が、5店舗での利用状況などを参考に導入の是非を判断してもらえばよいと考えてきたのだ。
 ただし、商店会では「将来的には現在以上に電子マネーが普及し、小銭を持ち歩かない人が増加することは間違いない」と考えており、当面はこの取り組みを継続し、ノウハウを積み重ねていく意向だ。さらに利用促進についても、スタート時以外、大規模な施策は講じていないことから、今後、新たなキャンペーンを展開することなども検討していく。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年4月号の記事