わかりやすくて安い、便利な生命保険でファミリー層を中心に顧客を獲得

ライフネット生命保険(株)

ライフネット生命保険(株)は、生活者にとってわかりやすく、かつ高品質な生命保険商品を提供するという理念の下、インターネットを販売チャネルとして、従来の生命保険会社とは異なる手法で定期死亡保険と終身医療保険のみを販売。会社設立以降、競合他社にはない商品力を強みとして急速に契約数を伸ばしている。

インターネットの活用とシンプルな商品設計でわかりやすく安価な生命保険を提供

 2008年4月、日本国内において実に74年ぶりに、独立系の生命保険会社が誕生した。ライフネット生命保険(株)である。同社は相互扶助という生命保険の原点に立ち返り、「どこよりも正直な経営を行い、どこよりもわかりやすく、シンプルで便利で安い商品・サービスを追求する」という理念の下に設立。同年5月よりインターネットによる生命保険の販売を開始した。
 取扱商品は、保険期間が10・20・30年と65歳まで・70歳までの5種類ある定期死亡保険と、終身保障の医療保険の2つ。死亡保険は、500万円から1億円まで選択でき、死亡または死亡に準ずる高度障害に陥った場合に保険金が支払われる。医療保険は、一泊以上の入院から保障。給付金額は、入院1日につき5,000円、1万円、1万5,000円の3種類を用意しており、10万円の手術給付金の有無とともに、家族構成などに応じて必要な金額を選択することができる。いずれも特約や配当金・解約返戻金のない、シンプルな設計が特徴。最低限必要な保障だけを提供するシンプルな商品をインターネットで販売することで、運営費など保険料に付加される手数料を限りなく低減し、業界最低水準といわれる安さを実現しているのだ。同社の商品は、従来の保険商品に対して多くの生活者が抱いていた「複雑でわかりにくい」「(保険料が)高い」というイメージを払拭したといえよう。
 また同社では、20~30代の子育て世代をメインターゲットに設定。平均所得が減少している中、育児費を必要とするファミリー層に必要な保障を割安な保険料で提供することで、既存の生命保険会社が満たすことのできなかったニーズに対応し、新たな市場を形成しようとしているのである。

申し込みはインターネットのみ コンタクトセンターで検討をサポート

 販売チャネルには、PCサイトとモバイルサイト(営業開始から約1年後の2009年6月に日本で初めてモバイル申し込みを実現)を利用している。両サイトは、同社の保険商品に対する考え方や企業理念(マニフェスト)、商品情報など、契約の検討に必要な情報のほか、契約者用のマイページ、社長ブログといったコンテンツで構成されている。もちろん、資料請求、保険料の見積もりもサイトで簡単に行える。これにより、PCからでもケータイからでも、24時間いつでも検討・申し込みが可能な、高い利便性を実現している。
 検討に当たっては、インターネットでの情報収集だけでなく、直接同社に話を聞きたいというお客さまもいる。こうしたお客さまのニーズにこたえるべく、同社では資料請求や問い合わせ用チャネルとして、本社内にコンタクトセンターを設置。フリーダイヤル電話とeメールで、各種問い合わせに対応している。フリーダイヤル電話の受付時間帯は、月曜から金曜日の9~22時と、土曜日の9~18時。日祝日および年末年始は休業となっている。ただし、コンタクトセンターでは問い合わせのみを受け付け、最終的な申し込み受け付けはインターネットから行ってもらうこととしている。現状の申し込み状況を見ると、大半がPCサイトからの申し込みであるが、モバイルサイトで検討から申し込みまで完結するケースも徐々に増えてきているという。契約後の住所や氏名など諸届けの変更や保険金の減額は、PCサイトのマイページから行うことができる。ただし、死亡保障を増額したい場合は、新たに契約する仕組みだ。

パブリシティなどのPRが功を奏し契約件数は右肩上がりで成長

 同社が考える情報提供も、これまでの保険会社とは一線を画している。一般的な保険会社においては、外交員が訪問したり、あるいは紙DMやeメールを送ったりすることでお客さまとのコミュニケーションを図っているが、これらを煩わしいと感じる生活者も多くいるとの考えから、必要最低限の情報提供を心掛けているのだ。
 そこで、サイトへの集客にも主にパブリシティを活用した。メディアは、マネー誌や経済誌、テレビなどさまざまで、開業から1年間で700を超えるメディアに取り上げられた。
 パブリシティと並んで効果的なPR方法としては、セミナーがある。社長の出口治明氏や副社長の岩瀬大輔氏が、大小さまざまなセミナーや勉強会に講師として招かれる機会を生かして、会社の知名度を高めつつ、商品の魅力をPRしているのだ。その回数は、年間100回以上に及ぶ。
 PRの効果は業績に表れている。営業開始以降、保有契約件数は右肩上がり。2009年度の第3四半期累計期間(2009年4~12月)における新契約件数は1万3,403件、前年同期比で4.8倍と大きく増加しており、2009年12月末現在の契約件数は1万7,962件に達している(図表)。

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 また、同社のメインターゲットは20~30代の子育て世代であるが、実際の契約者は40~50代を含む幅広い年齢層となっている。特筆すべきは、ほかの生命保険会社の社員など、いわば“保険のプロ”からの支持が多いことで、創業当時、まだ社名が知れ渡っていないころ、真っ先に契約してくれたのもそのような人々であったということだ。
 長引く不況の中、家計の支出を抑えようと生命保険の掛け金を見直す家庭が増えている。月々の保険料を下げたいと考えている生活者にとって、同社の商品は生活者自身が判断できる明瞭さが魅力なのだ。現に、2009年9月24日から27日にかけて実施した契約者アンケート(有効回答数993件、うち見直した人が355名)によると、見直しに当たり、53%の人が保障内容を「減らした」、25%の人が「増やした」、22%の人が「変わらない」と回答。また、見直した人の見直し前の平均月間保険料は1万4,550円で、見直し後は7,881円になったという結果が出ている。実に、46%もの月額保険料を削減しているのだ。こうした事実が、契約者の口コミ、ブログやTwitterへの書き込みで広がっていることが、設立間もない会社であることに対する不安の払拭に役立っており、新規契約の獲得を後押ししている面もあると、同社では見ている。

CRMのあり方を検討中

 いかに良い商品を提供していても、それを多くの人に知ってもらわなくては、提供することができない。同社では、現時点では自社の認知度向上に注力していく方針を掲げており、今後は、独立系の保険会社であることを生かして、既存の保険会社と差別化を図りながら、認知度を高めていきたいとしている。
 とはいえ、継続的にお客さまのニーズを満たす商品を提供し、契約を継続していただくには、契約者に向けたCRM施策も不可欠。特に、同社がメインターゲットとしている20~30代は高いLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が期待できることから、CRMは重要な取り組みと認識している。現在は、月間の契約状況や保険金の支払い状況をサイトで公開したり、2~3カ月に1回メールマガジンで情報を発信したりすることで、お客さまとの信頼関係構築を推進しているが、CRMのあり方や具体的な取り組みについては検討中とのこと。どのような施策が展開されるのか、今後の取り組みが注目されるところだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年3月号の記事