ディー・エイチ・エル・ジャパン(株)では、顧客情報を生かして、利用頻度の少ない顧客や見込客を対象にDMによるコミュニケーションを展開している。強いこだわりから生み出された“もらってうれしい、感動の紙DM”は、米国DMA国際エコー賞を受賞するなど、その取り組みへの評価は高い。
データベースを生かして顧客維持の最大化と休眠顧客の掘り起こしを図る
世界最大規模の総合ロジスティクス・プロバイダーとして知られるDHL。1972年から日本でサービスを開始して以来、拠点の拡大を図り、現在ではゲートウェイ3カ所、サービスセンター39カ所、ビジネスセンター1カ所、エクスプレスセンター84カ所の計127拠点を擁する。2008年の取り扱い件数は1,090万件、取り扱い重量は7,000万kg、顧客数は4万9,000に及ぶ。
ディー・エイチ・エル・ジャパン(株)では、2003年から年間売り上げとポテンシャルに基づき、顧客を①ロイヤルカスタマー(高額利用・継続利用の優良顧客)、②リレーションシップセールス(訪問営業部門の顧客)、③テレセールス(電話営業部門の顧客)、④マルチチャネル(不定期利用・小額利用・スポット利用の顧客)の4つのセグメントに分類。さらに、問い合わせはあったもののアカウントを開設していない顧客をノンユーザー(見込客)として、これを加えた5つのセグメントを対象に、貢献利益に応じたCRMプログラムを展開している。具体的には、ロイヤルカスタマーやリレーションシップセールスの顧客には、営業担当者によるコミュニケーションを推進し、さらなる利用を促進。一方、マルチチャネルの顧客やノンユーザーには、ダイレクトメール(以下DM)によるコミュニケーションを推進し、新規顧客の獲得、顧客の維持、休眠顧客の掘り起こしを図っている。
データベースの運用、およびDMの企画・制作・発送管理は、営業本部ダイレクト営業部が担う。同部では、日々発送するレギュラーDMとして、アカウント開設を目的としたウェルカムキットや、10カ月間にわたり利用のない休眠顧客を対象にアカウントの失効をお知らせするDMを活用している。2008年度は、同社の資産である既存の顧客情報を活用することを主眼とし、既存顧客維持に注力。また、2007年度に問い合わせをいただいたものの、アカウント開設に至っていないノンユーザーを顧客化する取り組みも強化した。
「季節のご挨拶DM」ではセールス色を排除し、自然なかたちでコンタクト
2008年11月にスタートした「季節のご挨拶DM」は、2008年に1回でも25kg以上の荷物輸送を行った顧客を対象に、3カ月ごとに送られる全4回のシリーズDMである。利用頻度の少ない顧客に、必要な時にDHLを思い出していただくために、自然なかたちでコンタクトを取り、顧客の心の片隅にDHLの存在をとどめおくことを目的としている。
これは、2007年の米国ダイレクトマーケティング協会(DMA)国際エコー賞で銅賞を受賞した同社のDMにならって企画されており、季節の挨拶とともにDHLのニュースを伝える内容となっている。DMの素材には、荷物をイメージさせる段ボールを使用。215mm×90mmのポストカード仕様にし、宛名面には季節のご挨拶とニュースを、通信面には顧客の目から見たDHLがある風景として“クーリエ(集配員)がいる街”のイラストを印刷した。初回発送の11月には、東京・大手町を自転車で集配荷するクーリエを描き、2月に発送したDMでは、香港(ホンコン)にセントラルアジアハブを開設したことにちなみ、香港の夜景とクーリエを描いた。メッセージにセールス色はなく、友人から届いた季節のカードのように、さりげなく机上に飾ることができる雰囲気を持っている。各回8,000通を発送しており、その後の利用数で効果を測定。同社では、1年間の延べ通数に対して5~7%の利用を見込んでいる。次回の発送は5月の予定。
バリアブル印刷技術を使用した中部地域限定のDMを制作
「DHLとSmart shiftキャンペーン」は、3月1日から4月30日までを実施期間とする中部国際空港を利用する顧客が対象のキャンペーンである。登録後、所定の回数(1~5回)を利用するとDHLの飛行機型のリールストラップをプレゼントするという企画だ。景気低迷により、各地の空港から撤退する事業者もある中、DHLは撤退せずにサービスを提供し続けることをアピールすると同時に、中部地区のビジネスを応援することを狙いとしている。発送数は約2,000通で、約8,000~1万通を発送する通常のキャンペーンよりは少ない。
DMの構成は、封筒、レター、リーフレットからなり、それぞれに細かい工夫が施されている。例えばリーフレットは、表面で「キャンペーンの説明」「顧客ごとのアカウント番号」「プレゼントをもらうための所定回数」を周知。裏面は登録用紙になっており、そのままファックスするだけで登録が完了する。アカウントも印字しておくことで、受付作業の軽減を図ると同時に、精度の高い効果測定もできるようにした。今回のキャンペーンは、対象顧客を「地域優先」で抽出したため利用実績に“ばらつき”があり、所定回数も“まちまち”という問題があったが、同社初のバリアブル印刷技術を用いて解決。今後も新しい取り組みにチャレンジしていくことで、効果の高いDMの開発につなげていく意向だ。3月末時点の登録数は5%と滑り出しはまずまずの様子だ。
紙DMヘのこだわり
DHLでは、年間5万通のDMを発信しており、これまでに多くの経験とノウハウを培ってきたが、同社が課題として挙げているのはターゲットの選定である。細部にまで凝ったDMを作っても、ニーズのない顧客に送っては効果がない。しかし、請求データから顧客のニーズを知ることは難しいため、現在、クーリエやコンタクトセンターが収集する情報の中から新規見込客獲得のための方法を読み取ろうと模索している。もうひとつの課題はコストの問題である。今日の経済状況下においては、以前にも増して投資対効果をシビアにみる動きが加速している。
費用面からみると、eDMは魅力的である。以前同社では、eDMを活用していたが、eDMを利用する企業が多いことからほかのものに紛れてしまい、お客さまの目に留まらなくなることを懸念し、現在は活用方法を再考するため利用を取りやめている。同社ではインターネットが普及している今だからこそ、紙DMの持つクリエイティブの可能性に期待しており、今後も紙DMにこだわり続けたいとしている。
「季節のご挨拶DM」(上)。「DHLとSmart shiftキャンペーン」(下)