1987年創業の化粧品メーカー(株)イプサでは、顧客一人ひとりの肌の状態に合った化粧品の提供のために、業界でもいち早く肌測定器「イプサライザー」を導入。以来、一貫してこの機器による肌測定をベースとしたカウンセリング販売を行っている。近年では多くの化粧品メーカーが肌測定器を活用しているが、同社ではクルー(美容部員)の教育を強化し、コミュニケーション能力を高めることで、カウンセリング力を向上し、差別化を図っていく方針である。
顧客一人ひとりの肌の状態に合った化粧品を提供するために
(株)イプサは1987年に創業した化粧品メーカー。社名は、「自ら」「・・・自身の」「自発的な」などを意味するラテン語に由来している。販売の舞台は国内外の百貨店であり、2009年1月現在、国内77店舗、海外55店舗を拠点に販売活動を行っている。
取扱商品は、主力の化粧水「メタボライザー」をはじめとするスキンケア(ベイシックライン、エイジングケアライン)を中心に、ベイスメイクアップ、ポイントメイクアップ、ボディケアなど。アイテム数は約350に及んでいる。販売方法は“クルー”と呼ばれる自社の美容部員によるカウンセリング販売が主であり、20代後半~30代の都市部在住OL・主婦などを中心に多くのファンを獲得している。
同社が営業を開始した1987年当時にも、百貨店の多くの化粧品コーナーではカウンセリング販売が行われていたが、その内容の多くは、その時の流行品やメーカーごとの推奨品を勧めるというもの。また、コーナーに来訪した顧客は、美容部員の推奨に応じて購入を強いられる雰囲気があったことは否めない。
しかし、肌の状態は一人ひとり違うものであり、それぞれに適した化粧品があるはず。また、化粧品を最大限活用してもらうために顧客一人ひとりに納得して購入して欲しい。同社ではそのような考えの下、「独自の美しさを引き出すためのレシピをいっしょに創る=Co-Creation of MY OWN RECIPE」というコンセプトを打ち出し、顧客一人ひとりの肌の状態に合った化粧品の提供に着手した。その実現のために導入した機器が肌測定器「イプサライザー」である。今でこそ多くの化粧品メーカーが販売活動において肌測定器を活用しているが、百貨店におけるカウンセリング販売で本格的に肌測定器を導入したのは同社が最初のケースであった。
創業以来6回のバージョンアップを実施
イプサの全店舗に設置されているイプサライザーには、肌状態を確認し、それぞれに合った化粧品を選ぶための各種機能(コース)が搭載されている。
基本となっているのは、「自立活性力測定コース」。肌の水分保持力と皮脂分泌力などを測定することで、現在の肌状態を確認することができる。そのほか、肌表面の不要な角層を分析することで、肌のターンオーバー(生まれ変わり)が順調に行われているかを確認する「ターンオーバー測定」や、透明感の阻害要因を探る「透明感測定」、未来のシミ・ソバカス予備軍を確認する「メラニンスコープ」、肌のハリ・弾力を確認する「ハリ・弾力測定」といった肌状態の確認コースがあり、それらの結果と問診結果を組み合わせて分析する「肌バランス測定」により、現在の肌のバランスを知ることが可能だ。
そのほかの機能としては、ファウンデイションとコントロールベイスを選ぶ「素肌色測定コース」、肌色にふさわしいフェイスカラーを選ぶ「化粧肌色測定コース」、リップスティックのおすすめカラーを選ぶ「化粧肌色測定コース(リップ)」、ネイルのおすすめカラーを選ぶ「化粧肌色測定コース(ネイル)」、目元の最適バランスがわかる「フォーアイズコース」などがある。
なお、イプサライザーについては、同社の商品展開や肌色の変化などに対応して、随時改良・ソフトウエアの変更を実施。1987年の創業から現在までの間に6回のバージョンアップを行っている。1店舗当たりの導入台数は店舗規模に応じて決めており、平均2~3台は設置している状況だ。
イプサライザーによる測定を目的に来店する顧客も
来店顧客に対しては特定の商品を指名して購入するリピーターなどを除き、クルーからイプサライザーの利用を推奨しているが、最近では美容雑誌のタイアップ広告や化粧品口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」などでイプサライザーを認知し、測定を目的に来店する顧客も増えている。特に若年層では、化粧品の選択において客観的データを重視する傾向が強まっているとのことだ。
測定自体の所要時間は3分程度であるが、結果の解説、最適な化粧品の紹介などを含めると、トータルなカウンセリング時間は30分程度である。このため、来店が集中する夕方から閉店前の時間帯では、すべての顧客に対応できないことから、最初にカウンセリング希望か指名買いかを確認したり、予約を受け付けたりすることで解消を図っているものの、課題のひとつになっているとのことだ。
それぞれの顧客の測定結果については、各店舗で「ゲストガイド」として保管。会員登録をしたお客さまについては時系列的な変化も記録しており、次回のカウンセリングに活用している。ゲストガイドは基本的に1年間来店がないと破棄することにしているが、大型店舗では1万人を超えるメンバーのゲストガイドを保管しているとのことだ。
また、測定結果に基づく最適な肌のお手入れ方法は、「レシピカード」として顧客に手渡している。ちなみに、測定を経て「レシピカード」を提供した顧客の再来店率は、指名買いで測定を実施していない顧客と比較して格段に高いとのことである。
測定時間は3分間。肌状態の分析や最適なメークアップの提案など、幅広く使える
カウンセリング力向上が恒常的課題
イプサライザーによる測定をベースとする同社のカウンセリング販売における恒常的な課題としては、クルーのカウンセリング力向上が挙げられている。
前述のように、現在では多くの化粧品メーカーが販売活動において肌測定器を活用しており、イプサライザーには先駆者的存在として一定のアドバンテージはあるものの、基本的な機能が同質化していく傾向にあることは避けられない。その中で測定結果とコミュニケーションの中で得られる顧客の希望やニーズを組み合わせ、いかに納得してもらえる提案ができるかが重要であるというわけだ。
同社ではその最大の解決策は、マニュアルの充実化ではなく、クルーの教育であると考えている。重要なのはいかに顧客と密なコミュニケーションを図れるかであり、その実現のためには画一的なマニュアルはあまり役立たないからだ。同社ではこれまでも、教育カリキュラムに「聞き出す力」を向上させるためのトレーニングを導入。また、心理学的アプローチの要素を組み入れるなど、クルーのコミュニケーション能力アップに取り組んでいるが、今後もこの方向性を継続し、「FOR YOU(あなたのために)」というマインドを持つ、接客のプロの育成に努めていく意向だ。
また、イプサライザー自体については、今後も商品展開などに応じて、3年に1回程度のペースでバージョンアップを図っていく。同時に操作性向上やさらなるコンパクト化なども行っていく意向であり、今後も共同開発メーカーとともに研究を進めていく方針である。