ゴルフ用品専門店のゴルフ5では、顧客のスイングを科学的に計測し、その結果に応じた提案を行うためのシステムとして「3カメ計測」を導入。上部、横、後方の3台のカメラで撮影・計測し、弾道解析に基づいて顧客の悩みを解消するクラブの提案を行い、好評を博している。今後は計測結果を的確に読み取り、その結果に基づいて顧客のスイングやニーズに合致したクラブを提案する能力を一層向上することにより、同業他店との差別化をさらに進めていく意向だ。
科学的データに基づいて顧客にベストマッチするクラブを提案
ゴルフ5は、スキー用品をはじめとするさまざまなスポーツ用品の商品開発や販売を手掛ける(株)アルペンが1983年にスタートさせたゴルフ用品の専門店。「低価格・高品質・高度なアドバイス・豊富な品揃え・最大の顧客満足」という5つの理念の下、ゴルフの初心者から中級者、さらには上級者をも含めたあらゆる層のゴルファーのニーズに応えるため、幅広く、かつ奥行きのある品揃えを展開し、プライベートブランド(PB)クラブ「トブンダ」シリーズなど、良質な商品をリーズナブルな価格で提供。店舗網は2009年1月現在、北海道から九州まで日本全国で180店舗に及んでいる状況だ。
昨今のゴルフブームの中、老若男女さまざまな層でゴルファー人口が増加している。同社では前述の通り、初心者から中級者、上級者までに対応する品揃えを行っているが、「10人のゴルファーがいれば、スイングも悩みも10通りある」と言われるほど、顧客側の多様性が高い状況であることから、経験や勘に頼った型どおりのアドバイスだけでは、顧客一人ひとりにベストマッチするクラブを提案することはできない。このような状況に対して、顧客のスイングを科学的に計測し、その結果に応じた提案を行うためのシステムが、同社独自の「3カメ計測」である。
3カメ計測の基本的な仕組みは、顧客に試打席で試打してもらい、ヘッドの進入角、インパクト時のシャフトの傾き、ヘッドスピード、打ち出し角度、バックスピン量などを、上部、横、後方の3台のカメラで撮影・計測し、弾道解析に基づいて顧客の悩みを解消するクラブを選び、提案するというもの。スイング計測器自体はゴルフ用品業界では広く普及しているものであり、ほかの専門店チェーンなどでも導入されているが、一般的にはカメラは横と後方の2台のみであり、上部を含む3台のカメラを使っている点が同社ならではの特徴となっている。
3カメ計測システムはゴルフ5の180店舗のうち、8割を超える149店舗に導入されているが、今回のケーススタディでは10年近くにわたってこのシステムを運用している板橋本町店の例を紹介することとする。
TVCMにより認知度が向上
ゴルフ5板橋本町店における3カメ計測の基本的な流れは、以下の通りだ。第一段階として、顧客がその時点で実際に使用しているクラブを持参してもらい、クラブの長さ、バランス、硬さ、振動数、総重量などを計測。さらに顧客の悩み(飛距離、方向性、曲がり)や希望弾道(上げたい、下げたい)などを確認し、「クラブの健康診断表」を作成する。
第2段階では、そのクラブで3~5球程度の試打をしてもらい、その様子を撮影・計測する。その際、上部カメラでは主にスイングの軌道、横カメラでは弾道データ、後方カメラではインパクト時のライ角(ボールを打った瞬間の地面に対するシャフトの角度)を中心に計測結果と理想値を比較しながら、18パターンのスイングタイプに分け、ヘッドスピードに適した硬さ・重さのクラブを使用しているか、初速、打出角、バックスピン量は適正で最大飛距離をロスしていないかなどについて説明を行う。なお、この段階では使用しているクラブだけではなく、顧客が購入を検討しているクラブや、異なった特性を持つクラブなど、複数のクラブを試してもらうこともある。
第3段階は計測結果に応じたクラブ提案だ。ここでは、単に新たなクラブの購入を勧めるだけでなく、結果によっては、ヘッド交換やシャフト交換、調整加工などを提案することもある。また、既存クラブで適したものがない場合には、併設のオーダークラブ工房でのオーダークラブ制作を勧めることもあるとのことだ。さらにクラブの提案だけでなく、練習方法の相談にも乗っている。
「クラブの健康診断表」作成からクラブ提案までに要する時間は20分程度。1日当たりの利用人数は、平日では10~15人前後、土・日曜日では30~40人前後となっている。
同店のゴルフクラブ購入者においては、スイングが固まっていない初心者や、あらかじめ購入クラブを決定している指名買い顧客などを除いて大部分が3カメ計測を利用している。特にスイングとクラブのマッチングが結果を大きく左右するドライバーなどウッド類の購入者では、ほとんどが利用している状況だ。なお、当然のことながらスタッフも利用を推奨しているが、最近では、同社提供のゴルフ番組で放映しているTVCMなどで3カメ計測を認知している顧客も多く、3カメ計測の利用を目的に来店する顧客も存在するとのこと。また、3カメ計測を複数回利用するリピーターも増加しているとのことであり、その結果、スタッフの推奨によって利用するケースと顧客からの申し出によるケースがほぼ拮抗している状況にあるとのことだ。
なお、同店では3カメ計測システムを3台設置しているが、そのうち1台はレフティ(左打ち)用だ。ゴルファーの中でレフティが占める割合は約3%であり、その意味ではやや非効率とも考えられるが、同社ではレフティゴルファーのクラブ選びにおいても豊富な選択肢を提供したいという考えから、レフティ用クラブの品揃え充実化に取り組んでおり、その一環としてあえてレフティ用システムも設置しているとのことである。ちなみに、3カメ計測を導入している全国149店舗のうち、レフティ用システムの設置店舗は109店舗に及んでいる。
スタッフ自らも利用することによりデータの読み取り力の向上を図る
3カメ計測はゴルフ用品メーカーと共同で開発したシステムであり、1990年代に導入して以来、随時改良を行っている。その結果、スイングや弾道を表現する機能は相当に高いものとなっており、利用者の納得度はかなり高いとのことだ。ただし、前述したように上部にもカメラが設置されているという特徴はあるものの、スイング計測器自体はゴルフ用品業界では広く普及しているものであり、ほかの専門店チェーンなどでも導入されている。そこで同店が差別化のために意識しているのが、計測結果を的確に読み取り、その結果に基づいて顧客のスイングやニーズに合致したクラブを提案する能力の向上である。
3カメ計測の操作自体は比較的簡単なものであるが、計測結果の読み取りとそれに基づくクラブの推奨には一定のノウハウが必要だ。特に上級者ほど試打の際のフィーリングと計測結果のイメージが合致しないこともあり、そのような顧客に対しても計測結果を論理的に説明する能力が求められている。そのために同店では、新たなスタッフが加入した際には、ゴルフ経験者の場合で3週間程度の研修を実施。その後も恒常的に自ら3カメ計測を利用してもらうことなどにより、データの読み取り力の向上を図っている。今後もこのような取り組みを継続していくことで、店舗全体としてのカウンセリング能力を向上していく意向である。
“3カメ”でスイングデータを分析。(上3枚)診断結果はモニターですぐに確認できる(下)