首都圏・近畿圏・広島エリアで32店舗の会員制総合フィットネスクラブの運営を手掛ける(株)東急スポーツオアシス。同社では2007年4月、従来からの既存会員による紹介制度を発展させるかたちで、「ジム友」をスタートさせた。「ジム友」では、紹介者が最も望んでいる被紹介者の入会時特典の充実に加え、紹介者の特典も拡充。特に施設利用時における具体的なメリットを提供することで、紹介者の施設利用促進にもつなげている。
“既存会員による紹介”は新規会員獲得のための重要施策のひとつ
東急不動産グループの一員として、首都圏エリア、近畿圏エリア、広島エリアで会員制総合フィットネスクラブの運営を手掛ける(株)東急スポーツオアシス。2008年11月現在、施設数は32店舗に上っており、合計会員数は9万人近くに達している。フィットネスクラブ業界では近年、低価格化が進行しているが、同社ではこのような風潮とは一線を画し、各エリアのマーケット特性に合わせた店舗展開を推進しており、例えば2008年10月、東京・恵比寿にオープンした「OASIS RAFEEL 恵比寿」は同社の新ブランドとして、ホスピタリティあふれるサービス、充実の施設を備えたフィットネス、スパとヒーリング施設、ホテルクラスのボディートリートメントを取り揃え、最先端の癒しと爽快感を提供している。
また、単に施設を提供するだけではなく、充実したサポートを提供している点も同社の特徴だ。例えば、クラブ利用の習慣化のために重要な入会直後には、スタッフが90日間ナビゲーターとして新会員をマンツーマンサポートするプログラム「フィットネスサポート90DAYS」を提供。まず体成分測定器で新会員の体の成分の状態をチェックし、その後も定期的に測定を行うことで体の変化の状況を会員と共有し、目的達成に向けたアドバイスとエクササイズを提案することにより、新会員の効率的なクラブ利用を促進している。また、食事面の相談にも対応するなど、会員の生活全般における健康維持・増進を総合的にサポートしており、会員から好評を博している。
フィットネスクラブでは、既存会員が一定のペースで退会していくことは不可避であり、安定した経営を実現するためには、継続的に新規会員を獲得していくことが必要となる。同社でも店舗ごとにバラつきはあるものの、月間の退会率は平均4%前後に及んでおり、1年間でほぼ半数の会員が入れ替わっている状況だ。従って、新規会員獲得が恒常的な重要課題となっており、その中で“既存会員による紹介”は、新聞折り込みチラシ、街頭での販促物(ポケットティッシュ、うちわなど)配布、駅看板・ポスター掲示、Webサイトと並ぶ、重要な施策のひとつとなっている。
2007年4月から「ジム友」制度をスタート
そもそもフィットネスクラブでは、会員が施設の利用によって生じた体型や体調の変化を、感激とともに家族や友人・知人に伝達することによって、伝達された人が興味を感じて入会に至るということが少なくない。同社でも従来からそのようなケースが多く、また、会員からも家族や友人・知人を紹介したいという声が寄せられたことなどから、2003年ごろには紹介制度の体系化への取り組みを開始した。当初は、被紹介者が入会した場合、紹介者にオリジナル・タオルなどの謝礼品を進呈していたが、複数の新会員を紹介した会員から「同じものを何回ももらっても仕方がない」というような声が多かったことから、紹介1件ごとにポイントを付与し、貯まったポイントに応じて還元を行うポイント制に移行。さらに2007年4月には、紹介者の意見などから、「紹介者が最も望んでいるのは被紹介者の入会時特典の充実である」という認識に達し、「ジム友」制度をスタートさせた。
「ジム友」制度では、店頭での受付に加えて同社のWebサイト(PC、携帯電話)に被紹介者を登録すると、被紹介者に紹介メールが届き、この紹介メールを店頭で提示すると入会時に特典が受けられる。そして、被紹介者が入会すると紹介した会員にプレゼント引き換え用のeメールが送信され、そのeメールを店頭で提示すると「ご紹介プレゼント」が進呈される仕組みだ。
提供される特典は、キャンペーンの実施状況などにより異なる。現在、2008年10月20日から12月19日までを対象期間として実施している「水いらずキャンペーン」では、紹介者・被紹介者の双方に、家族や友人・知人などが利用できる施設無料利用券2枚を進呈しているほか、紹介者にはミネラルウォーター12本(施設で一定期間保管)とギフトカード1,000円相当(3種類から選択可能)の進呈、被紹介者には店頭入会料金から5,250円割引きという特典を提供している。特にミネラルウォーターの進呈という特典は、具体的な物品を店頭で手渡しすることによるPR効果や、自動チェックインの導入などにより減少傾向にある、会員とスタッフとのコミュニケーション機会の創出という目的もあったとのことだ。
「ジム友」制度は既存会員全員を対象としているが、実績としては入会から3カ月以内の会員によるものが多いとのこと。同社ではこの点について、「入会直後はフィットネスクラブに対する意識が高く、同時にひとりでクラブに通うことに不安を感じてもいるからではないか」と分析している。なお、紹介回数については大半が1回のみであるが、15%程度の会員は繰り返し紹介をしてくれているとのことである。
会員紹介制度「ジム友」キャンペーンを展開する同社のWebサイト
アナウンス効果の大小も優良度の物差し
同社の収入の大半は会費収入である。従って当然のことながら、月会費の高いコースの会員は優良顧客として認識されている。また、イベント参加、オプションサービス利用に積極的な会員も、客単価という観点から優良度が高いと判断されている。そうした中で近年では、優良度の物差しとして「自らが体感したフィットネスの効果をどれだけ周囲にアナウンスしてくれるか」という要素の重要性が増しつつある。
その理由としては、前述のようにフィットネスクラブでは、既存会員が一定のペースで退会していくことは不可避であり、継続的に新規会員を獲得していくことが必要となっていることが挙げられる。特に最近では、入会時の検討要素の中で口コミの比重が高まっており、それに付随して入会のきっかけの中でも既存会員による紹介の比率が増加。同社の場合、通常時でも全入会者の18%前後、紹介キャンペーン実施時では23%前後が、既存会員の紹介によるものとなっており、その施設運営全体に与える影響度はすでに無視できないものとなっている。
このような状況の中で、同社では既存会員による紹介をより活性化していく方針を定め、さまざまな施策を検討している。
まず、スタートから2年目を迎えた「ジム友」制度については、当初からのコンセプトである被紹介者の入会時特典の充実に加え、紹介者の特典の拡充にも取り組んでいく。特に、現在展開しているキャンペーンにおける“ミネラルウォーターの進呈”のような、施設利用時における具体的なメリットの提供を行っていく方針だ。また、紹介手続きをできるだけ簡便にするため、例えば、施設内に「おサイフケータイ」をかざすだけで、同社のWebサイトにアクセスできるタッチポイントを設けるなど、インフラの整備も手掛けていく。さらに、2009年1月からはメールマガジンの配信も開始する予定であり、このメールマガジンにおいても、「ジム友」制度への誘導を図ることを計画している。そのほか、将来的にCGMにより口コミを活性化することも検討しており、すでに2008年夏には、会員の個人ブログからの同社サイトへのアクセス実態の検証などに着手している状況である。