アマチュアならではの大胆な発想によるインパクトの強いCM作品を有効活用

(株)TBSラジオ&コミュニケーションズ

(株)TBSラジオ&コミュニケーションズでは、若年層リスナーの獲得を主な目的に、(株)エニグモが提供する「filmo」を通じて、プロ野球ナイター中継「エキサイトベースボール」の動画CMを募集。優秀作品を街頭大型ビジョンのほか、東京ドームや横浜スタジアムなどで放映した。アマチュアならではの大胆な発想により、当たり外れはあるもののインパクトのある作品が数多く集まり、今後のプロモーション施策を検討する上での気付きになったとのことだ。

若年層リスナーの獲得が恒常的テーマ

 2000年3月に(株)東京放送(TBS)から分社するかたちで設立された(株)TBSラジオ&コミュニケーションズ。同社は2001年10月に東京放送から放送免許を承継し、AMラジオ放送を中心とした事業を展開している。
 ラジオ放送の中でも、特にAMラジオ放送はリスナーの平均年齢が高く、若年層の新しいリスナーの獲得が業界を挙げての課題となっている。聴取率調査(ビデオリサーチ首都圏聴取=2カ月に1回実施)で、2001年8月の調査開始以来42期、まる7年連続でトップを達成しているTBSラジオでも事情は同様であり、若年層をどのような方法でAMラジオの世界に引き込むかが恒常的なテーマとなっている。その手法のひとつとして2007年に採用したのが、(株)エニグモが提供する「filmo」を通じた動画CMの募集とその活用だ。
 「filmo」はインターネット上で一般の生活者から企業の動画CMを募集するサービス。CMのテーマや目的、撮影規定、動画秒数などを提示するとともに、使用可能素材(ロゴ)・音源などをダウンロードできる仕組みを提供し、制作・応募された作品の中から選考、投票により制作者へ賞金や制作費を支払うシステムだ。
 そもそも同社のプロモーション施策では、新聞広告、ラッピングバスやタクシーへのステッカー貼付などの交通広告、ノベルティグッズの配布、街頭大型ビジョンでのCM放映などが中心であり、インターネットを活用したプロモーションはあまり積極的に行っていなかった。その理由としては、例えばバナー広告などはローテーションで露出するかたちが採られるために、インターネット閲覧のタイミングによっては掲載を確認できないことなどから、ほかのプロモーション施策と比較して社内の理解や共感が得られにくいという事情があったが、若年層におけるインターネットの浸透度合いを考えると、いつまでも避けて通ることはできない。また、ラジオは習慣化しやすいメディアであることからインターネットとの共通性もあり、実際に同社が提供するポッドキャスティングも好評を博している。さらに、街頭大型ビジョンでのCM放映で動画のインパクトは認識していた。このような状況の中で、インターネットを活用した新しいプロモーション施策として、「filmo」を通じた動画CMの募集とその活用が採用されたのである。

インパクトの強い作品はプロ野球選手からも好評

 動画CM募集の対象番組としては、同社の看板番組のひとつで、広告売り上げも多いことから、ある程度のプロモーション・コストがかけられるプロ野球ナイター中継「エキサイトベースボール」が選ばれた。募集の際に提示した目的は「エキサイトベースボール」のリスナーを増やすこと。テーマとしては、何かをしながら聴けるというラジオの特徴をアピールするという観点の「○○しながらエキサイトベースボール」を設定した。
 募集は2007年3月末から5月初旬にかけて実施。応募は100件以上に及び、その中から金賞、銀賞、銅賞各1名を選考した。応募作品のレベルは玉石混交という状況であったが、アマチュアならではの大胆さでインパクトのある作品も多かった。例えば金賞を受賞した「毛繕いしながらエキサイトベースボール」は、毛繕いをしている猫の表情が、ナイター中継の逆転サヨナラホームランの実況に伴い凍り付いてしまうというユニークな内容。街頭大型ビジョンのほか、実際にナイターが行われている東京ドームや横浜スタジアムのビジョンでも放映したところ、プロ野球選手からも好評を博し、当初1カ月のみの予定だった放映期間を3カ月に延長したほどであったとのことだ。
 また、エレベーター内などTBS社屋内各所に設置されているビジョンでも放映したところ、社内でも好評であったことから、2008年も継続して同様の試みを実施することを決定。前年は社内スタッフのみであった審査員に、野球解説者の青島健太氏、「エキサイトベースボール」の女子マネージャーと位置付けられているタレントの磯山さやか氏を加えるほかは、ほぼ同様の形式を踏襲した。その結果、前回同様多数の応募があり、金賞作品を同番組の宣伝に活用することがすでに決まっている状況である。

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猫 静止画

東京ドーム(左上)やファッションビル「新宿アルタ」(右上)の大型ビジョンで放映された「毛繕いしながらエキサイトベースボール」(左下)。思わぬ展開に固まる猫の表情が大ウケした

アマチュアならではの“発想”が新たな気付きに

 同社では、この試みが最終的な目的である「エキサイトベースボール」のリスナー増加にどの程度寄与しているかについて、厳密な意味での効果測定は行っていないが、認知度が高まっていることは報告されているという。しかし、「filmo」自体のファンも存在し、また、「filmo」と同じくエニグモによる「プレスブログ」(ブロガーに企業が発信する商品・イベント情報などを配信。その内容をブログで紹介したブロガーにプレスとしての掲載料を支払うサービス)の素材として金賞作品を利用したことなどから、ブログのネタになるケースもあるなど、インターネット上での波及効果も認められることから、少なくとも「エキサイトベースボール」の認知度向上に貢献していると判断している。
 また、アマチュアならではの目の付けどころが、新たな気付きになっているという側面もある。前述のように同社では、以前からプロモーション施策のひとつとして街頭大型ビジョンでのCM放映を行っている。その制作はプロフェッショナルであるグループ内の制作プロダクションなどが担当しており、限られた予算の中で綿密な打ち合わせを経て行われるため、ビジュアルとしてのまとまりや完成度が最重視されていた。しかし、今回の試みでは、アマチュアが“面白がって”制作しており、必ずしも結果を求めていないため、大胆な発想による「三振かホームランか」という作品が数多く寄せられた。中にはインパクトはあるものの、まったく意味がわからないという作品もあったようだが、少なくとも外部からの新たな視点は、今後のプロモーション施策を検討する上で大きな参考になったとのことである。
 なお、「filmo」を通じた動画CMの募集では、当然のことながら、制作費や賞金などを含めたサービス利用料金がかかっている。しかし、「エキサイトベースボール」の宣伝予算全体に占める比率は低く、十分なコスト・パフォーマンスを感じているとのことであり、また、動画サイトの普及などにより、インターネット上の動画の比重が高まりつつあることから、今後もアレンジを加えながら同様の試みを継続していく意向だ。さらに今後は、「エキサイトベースボール」以外の番組やAMラジオ放送そのもののプロモーションにおける類似施策の実施も検討していく方針である。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年9月号の記事