オリンパス イメージング(株)では、2007年3月から同社製デジタルカメラのユーザーを対象としたコミュニティーサイト「フォトパス」を運営している。同サイトは、写真やコメントの投稿を通して、同社製品の特性を企業側からではなくユーザー側から語ってもらうことが目的。約100万人を有するという同サイトの概要と、UGCの収集・活用方法を取材した。
カメラメーカーらしいコミュニティー作り
オリンパスイメージング(株)は、オリンパスグループの中でデジタルカメラやICレコーダーなどを製造・販売する企業である。
同社では2007年3月、同社のデジタルカメラ・ユーザーが自ら撮影した写真を投稿することができるコミュニティーサイト「フォトパス」を開設。約7,000人の会員が計約7万枚の写真を投稿しており、1日平均約1万件のアクセス、1アクセス当たり平均17、8ページビューの閲覧がある。
同社が「フォトパス」の運営に乗り出した背景には、以下の2点がある。まず1点目は、近年、ユーザーはメーカーが発信する情報より、第三者が発信する情報に敏感な傾向があるため、お客様の声をコミュニケーションに活用しようと考えたことだ。また2点目としては、価格比較サイトが人気を博していることを受けて、これらのサイトともポジティブに連携することで、単なる価格比較にとどまることなく、ユーザーが撮影した写真を通して、製品本来の魅力である品質や機能性を語ってもらおうと判断したことが挙げられる。
同サイトはオリンパス製品サイトのメニューバーにもリンクされているほか、同社製デジタルカメラの製品紹介ページからもユーザーが撮影した写真を見るためのコミュニティーサイトとしてリンクが張られている。加えて旅をテーマにした外部のコミュニティーサイトにもリンクを張るなど、サイトへの入り口を拡大するとともに違和感のないかたちでの流入を図ることで、同サイトのアクセス数を増やすことに注力している。これによってサイトの媒体価値も上がり、他社サイトとの提携においても優位な立場を維持できるという。
コンセプトは“見つける”“つながる”“楽しむ”
「フォトパス」はインターネット環境があれば誰でも閲覧が可能であり、気に入った写真は、非商用、非改変を条件に、自由にダウンロードすることもできる。ただし、写真の投稿、コメントの書き込みを行うには、同社製品のユーザー会員組織「ズイコークラブ」への会員登録が必要になる。
同クラブは同社製品ユーザー全体を対象にした会員組織であり、現在約100万人の会員を有しているが、同社では従前からの会員に同サイトの利用を呼び掛けると同時に、新規入会者には同会への入会登録と合わせて同サイトの紹介を行っている。
「フォトパス」は“見つける”“つながる”“楽しむ”というコンセプトのもと、さまざまな工夫を凝らしている。まず同サイトに会員登録をすると、サイト内に「My Page」をもつことができ、自己紹介や自分の投稿画像の管理、コメントの閲覧、写真講座や、フォトグリーティング(カードやフォトゲームのデザインに写真を添付してメッセージを送る)などのコンテンツが利用できるほか、気に入った写真には投票やコメントの書き込みを行うことで、ユーザー同士の輪を広げることもできる。また、希望するユーザーは自身のブログに連動させることも可能。つまり、同サイトが“つながる”基点としての役割を果たしているわけだ。
また“見つける”では、「風景」「動物」「人物」「花」「感情」など、13カテゴリーから構成される項目別、および「日の出」「懐かしい風景」「富士山」「笑い顔」など、48テーマ別に投稿された写真を検索できるようになっている。一方、“楽しむ”では、1週間単位でカテゴリーごとの人気ランキングが発表され、ランキング上位の写真にはバーチャルメダルが授与される。
サイトへの投稿促進方法としては、月2回のメールマガジンで投稿テーマなどを告知しているほか、利用者にはオンラインショッピング利用時に商品代金の一部として使用できるポイントを付与している。
同サイトを運営するに当たって、同社が一番気に掛けているのが投稿作品のチェックだ。医療関連機器も取り扱っているだけに社会的責任も大きく、不適切な写真やコメントは排除することを心掛けている。そのため、すべての作品とコメントを目視によって確認し、公序良俗、著作権などの問題はないかを審査してから、サイトに公開する手順を踏む。投稿するには同社製品のユーザー登録が必要なことなどから、投稿された写真やコメントは作品とまじめに向き合っているものがほとんどで、掲載不可となるものはまれだという。
「フォトパス」内の“テーマ別投稿ライブラリ”。閲覧とダウンロードはインターネット環境があれば誰でも楽しめる。アマチュア作品ながらクオリティーの高い作品が満載
コミュニティーサイトを直接顧客の声を聴く場作りに生かす
「フォトパス」はコミュニティーサイトでありながら、自社製品の特性を違和感なくアピールする仕掛けとしても機能している。例えば、「ブルーのある風景」というテーマを設定して投稿を募り、同社製レンズの特性のひとつである鮮やかな青色の発光感をもつ“オリンパスブルー”をユーザーの撮影した写真を通して表現するといった具合。プロの写真ではなく、ユーザーの写真というリアルな感覚が、レンズに対する素直な共感を呼ぶ。ほかにも「水のある風景」というテーマでは、同社製品の優れた防水機能をアピールする意図が根底にある。
会員主体のコミュニティーサイトではあるが、同社製品の特性を違和感なくアピールできるテーマ設定を行うことにより、同社では製品特性への理解を深めたり、購入への動機付けを促進したりすることに成功している。また、同社では、グループ・インタビューなど、同サイト登録会員から直接、本音を聞く機会を重視している。このような場で聞くユーザーの声にはWeb上では見えてこない、次の製品開発につながるヒントが潜んでいるという。「フォトパス」はUGCを活用したコミュニティーサイトではあるが、最後は対面によるコミュニケーションの場が重要であり、UGCはリアルでの出会いの場を演出するきっかけといえそうだ。
「フォトパス」の立ち上げから丸1年が過ぎたことで、ユーザーとの関係性も深まり、サイト内のコンテンツも充実してきた。こうした中、今後はUGCの各種コミュニケーションメディアへの2次利用という展開も考えられる。しかし、同社は「フォトパス」とビジネスとの直接的な連動には慎重な姿勢を採っている。これは同サイトが同社製品ユーザーの善意で成り立っているため、あくまでもユーザーに喜んでもらうことを念頭に運営することがコミュニティーの健全な育成につながると考えているからだ。逆にいうと、コミュニティー育成の中にこそ、次のビジネスのキーとなるものが潜んでいると見ている。
同社は、UGCのビジネスへの活用はまだ発展途上にあると認識しており、まずはUGCの活用に真摯に取り組み、UGCに対する企業の確かな哲学を培うことが先決であるとしている。