加盟店舗拡大と認知度アップで地域密着型サイトを目指す

夢の街創造委員会(株)

1999年の創業以来、ITを活用したデリバリー市場の発展を見越し、デリバリー総合サイト「出前館」を2000年にスタートさせた夢の街創造委員会(株)。現在では全国で約8,100店舗が加盟するデリバリー総合サイトに成長している。社名である「夢の街」に託した「あったらいいなというサービス」の実現を目指す、シンプルで無駄のないビジネスモデル、そして、その取り組みの現状を紹介する。

情報発信と出前オーダーの両立を可能に

 ライフスタイルの変化に伴い、1999年を境に、「食」ビジネスは外食産業と非加工食品の需要が減少に転じる一方で、中食(なかしょく)市場が規模を拡大。デリバリー市場についても、この10年間で年率約10%の伸びを示している。時を同じくして、1999年、デリバリー市場の伸びを想定した上で、それまで存在しなかったインターネットによるデリバリー・サービスを事業化しようと創業したのが、夢の街創造委員会(株)である。翌2000年10月には、デリバリー総合サイト「出前館」をオープン。これは登録会員がパソコンや携帯電話、後述するデジタルテレビ向けのポータルサービス「アクトビラ」などを通じて同社に出前を注文、同社が各加盟店に受注情報を伝達、実際の出前は各店舗が行う仕組みになっている。加盟店の負担は、数万円の初期費用と月々3,000円の掲載料、そして5%のオーダー手数料。宅配ピザ、宅配弁当を中心とした大手ナショナルチェーンのほとんどが加盟しており、現在、加盟店舗数は8,100店ほど。国内老舗のデリバリーサイトとして最大規模の店舗数を誇り、会員数は150万人を上回る。2007年度(2008年8月期)の売り上げは前期比35.5%増の10億円、利益は同28.8%増の3億円を見込んでおり、デリバリー市場の成長と足並みを揃えて、順調に成長を続けている。
 加盟店舗と登録会員という2種類の顧客を持つ同社。加盟店舗には、チラシを配布して電話で受注する従来の出前に比べ、販促のコストダウンが図れることに加え、受注時にかかる時間のロスや、受注時の電話を取り損ねた際などに生じる機会ロスの削減といったメリットも生まれている。インターネットで情報発信と受注の両方を行うことが可能な上、リピートオーダーが獲得でき、早めの顧客フォローも可能とあって、加盟店舗には好評のようだ。加盟に関する問い合わせも多く、月に約100店舗ずつ加盟店が純増するという人気ぶりである。現在では、「出前館」のほかに、テイクアウト予約受付専門サイト「予約館」、困ったときのお役立ち総合サイト「駆けつけ館」も運営する。

両者にメリットをもたらすビジネスモデル

 現在、デリバリー注文サイトとしては、「出前館」のほかに「楽天デリバリー」と「ぐるなびデリバリー」があるが、「出前館」と他社サイトの双方に登録している加盟店の中には、一般生活者からの注文の9割は出前館からという店舗もある。サイト画面の内容は他社とほぼ同じという中で、同社が選ばれる理由として、顧客の居住エリアにある加盟店舗数に圧倒的な差があることが挙げられる。他社サイトがどちらかというと、店内での飲食をメインとする飲食店のサイトに比重を置いているのに対し、「出前館」のサイトはあくまでもデリバリーに特化している点も強みである。
 注文方法はシンプルだ。顧客が「出前館」のサイトから郵便番号を入力すると、ピザ、寿司、中華、和食などのジャンルごとに、出前商品の最新メニューや当該エリアへのデリバリーが可能な店舗を検索できる仕組みになっている。画面には出前が届けられるまでの所要配達時間が表示されるほか、チェックボックスにチェックを入れるだけで、簡単にトッピングやオプションの選択ができる。一方、店舗側にとっては配達エリア外からの注文が防げるほか、顧客がトッピングやオプションを選択することで、客単価アップが図れるといったメリットがある。また、顧客からのオーダーが入ると各店舗にファクスが自動送信されたあと、店舗側に受注したことを知らせる確認の電話が自動発信されるため、従来の電話受注では起こりがちだった聞き間違いが防げる上、パソコンが不要であるため、加盟店にとって使いやすいシステムとなっている。情報提供と受注データの管理を同社が行い、商品の出前と代金回収は店舗側で行う、合理的な出前サービスともいえる。
 顧客層は男女半々。7割が個人客、残り3割弱がオフィスからの注文で、年齢別では、30代が4割、20代と40代は約3割ずつ。パソコンからの注文は8割、携帯電話からの注文は2割であるが、対前年比でいうと、パソコンの130%に対し、携帯電話は200%と高く、20代の利用が多い。同社では今後、高齢者のニーズの増大を見込んでおり、デジタルテレビ向けのポータルサービス「アクトビラ」に「出前館」のコンテンツを掲載。テレビにインターネット回線をつなぐことで、リモコンを操作してテレビの大画面で注文できるようにした。また、大口注文にも対応できるようにと、店舗と直接話ができる「宅配ホットライン」という電話のチャネルも設けた。

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「出前館」のサイト。郵便番号を入力すると、ピザや寿司などのジャンルごとに、デリバリーが可能な店舗が簡単に検索できる

加盟店舗増で認知度向上とユーザー拡大を図る

 大手チェーン店はほとんど加盟済みの現在、同社が最優先の課題としているのは、既存加盟店における出前の活性化と、中小規模の店舗の取り込みである。店舗の取り込みについては、半径200メートル圏内でチラシを配布し、バイクかクルマで出前を行っているような店舗へのアプローチに注力する意向。同社では、こうしたアプローチ先のリストアップは容易ではないというが、対象店舗約3万5,000店のうち、2万5,000店の開拓を目指していく。
 さらに、6カ月以内のリピート注文が約6割に上るというリピート率の高さから、出前館というサイトの認知度を高めることも重要な課題となる。そのため、同社では、自社サイトのほかにも、「Yahoo!グルメ出前注文サービス」「ホットペッパー出前注文サービス」といった、大手のサイトと提携し、新規ユーザーに向けた窓口を広げたいとしている。
 また、同社では月に1回、登録会員に対してメルマガを発行しているが、それとは別に、今年5月から登録会員の携帯電話へ、それぞれの会員の居住エリアにある加盟店舗のクーポンが付いた販促メールを送るサービスを始めた。会員情報を把握しているため、こうしたピンポイントの販促が可能になるのである。6月からは新ポイントプログラムも開始。これは出前館の利用100円に付き1ポイントが付くもので、従来は商品券などに換えていたポイントを店舗で使えるようにするという、顧客の声を取り入れたサービスである。さらに、商品のお勧めコメントを書いた顧客にポイントを与えることで、顧客からの声を取り込み、同社を通じて、各店舗とのコミュニケーションも図れるようにしている。
 いまのところ加盟店舗は都市部が主だが、今後は全国展開に向けて加盟店舗を増やした上で、マス広告により認知度を高めていく意向。また、顧客の居住エリア周辺の情報を届けるという意味では、地域密着ともいえる同社。昨年は大阪市と提携し、大阪市のWebサイトに、ガラス修理やバイク買い取りなどのサービスを手配する、「出前館」の姉妹サイト「駆けつけ館大阪市版」のコンテンツ提供を開始した。地域密着型のビジネス展開を目指し、今後は行政との提携も順次、増やしていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年8月号の記事