「お客様センター」を“お客様視点”の行動による顧客満足度向上の起点に

サントリー(株)

サントリー(株)では、「お客様コミュニケーション部お客様センター」に寄せられる情報を蓄積・分析し、全社的に活用する情報システム・体制を整備している。このほか、日常業務で顧客と直接触れ合う機会が少ない部門の社員がお客様センターでの電話応対を体験するプログラムを実施するなど、“お客様視点”から行動する企業風土の醸成に余念がない。

50名体制で年間11万5,000件の「顧客の声」を受け付け

 日本を代表する食品メーカーの1社であるサントリー(株)では現在、「お客様コミュニケーション部お客様センター」が顧客とのダイレクト・コミュニケーションを担うコールセンター部門となっている。
 同社が初めてコールセンター部門を設けたのは1986年。当初の名称は「消費者室」で、業務的には商品に対するクレームへの対応などが中心であった。その後1980年代に入って、顧客の声が商品やサービスの改良につながることに気付いたことから、より多くの顧客の声を得るために商品パッケージにお客様センターの電話番号を記載。その後1990年代後半から、フリーダイヤルの採用、eメールの受け付け、携帯電話からのフリーダイヤルの受け付けなどの施策を次々と講じたことにより、受付件数は年々増加しており、2007年度では年間11万5,000件にも及んでいる。さらに、さまざまな事件により「食の安全」に注目が集まっている2008年度は前年度を上回るペースとなっており、年間12万件前後に達することが予想されている。
 受付件数の増加に伴い、体制の整備も行っている。「消費者室」開設当初は5名体制であったが、現在の「お客様センター」では50名体制(約80名在籍のコミュニケーション・スタッフが交代勤務)が敷かれている。また、ソフト面でも、全社的なビジョンである「お客様満足のための基本方針」に基づき「お客様センターの行動指針」を制定。さらに苦情対応の品質マネジメントに関する国際規格であるJIS Q 10002に則って「お客様対応規定」を制定し、「お客様センター」を中心に全社的に周知徹底を行うことにより顧客満足の最大化を図っている。

情報システム・体制を整備しVOCを最大活用

 同社では、顧客からの問い合わせ・指摘・要望を「お客様情報」と呼んでおり、その最大活用に取り組んでいる。
 「お客様センター」に寄せられた「お客様情報」は、社内情報システム「Neo HarmoniCS(ネオハーモニクス)」に入力。さらに担当部門と連携して行った問い合わせへの対応結果なども記録している。ちなみに「Neo HarmoniCS」の“HarmoniCS”は“Harmony(お客様と響きあう)”と“Customer Satisfaction(お客様満足)”を組み合わせた造語であるとのことだ。
 「Neo HarmoniCS」に蓄積された「お客様情報」は、同じ「お客様コミュニケーション部」の「マーケティングサポートセンター」で分析され、週次・月次・年次などの定期レポートとして社内に発信されるほか、特に新製品や広告関連の情報などは、タイムリーに関係部署に報告されている。また、一方的に情報発信をするだけでは参考意見にとどまりがちであることから、事業部単位でVOC会議を開催し、「お客様情報」への対応と次のアクションの策定を行ってもらっている。このような取り組みにより、VOCに基づく商品・サービスの改善は日常的に行われており、さらにその成果をWebサイト上の「お客様の声をいかしました」というコーナーで発表するなど、企業と顧客の双方向コミュニケーションの充実化にも役立てている。

コストに見合うパフォーマンスを追求

 同社の「お客様センター」はVOCの収集拠点としてマーケティング活動の一翼を担っているとも言えるが、基本的にはコストセンターとして位置付けられており、コストに見合ったパフォーマンスの実現が追求されている。
 「お客様センター」は以前、東京・大阪の2拠点で展開していたが、2007年9月に東京センターに集約している。センターの実務は専門性を重視し、グループ会社のサントリーパブリシティサービス(株)に業務委託しており、コミュニケーション・スタッフの採用・教育から品質管理までのあらゆる業務を同社と連携して実施している。
 「お客様センター」では顧客満足度を最重要視しているため、十分な応答率を確保することに加え、1件ごとの対応品質そのものの向上に力を入れている。お客様の真意をくみとり、期待以上の対応ができているか、スーパーバイザーによるリアルモニタリングやトレーナーによる研修の充実が欠かせない。
 1件当たりの対応時間については、場合によっては「時間が掛かってもお客様に納得してもらう」ことを優先する必要もある。従って、対応時間全体を短縮するよりも、イレギュラーな対応の原因と結果に着目するようにしている。また、なるべく1度のやりとりで完結することを目指しており、商品データベースの充実化など対応をサポートするシステムの整備を行うとともに、必要に応じてエスカレーションを行うなどの対策を講じている。
 コミュニケーション・スタッフのモチベーションがコミュニケーション品質を大きく左右するという認識から、働きやすい環境づくりにも注力している。特に意識しているのは管理スタッフとコミュニケーション・スタッフの間に物理的にも心理的にも“垣根”を作らないこと。風通しをよくすることで、コミュニケーション・スタッフがその能力を最大限に発揮できる環境を提供できるよう留意しているとのことだ。

“お客様視点”に基づき行動する企業風土の醸成を目指しセンターを起点としたプロジェクトを運営

 同社では、“お客様視点”に基づき行動する企業風土を醸成することを目的に、2005年度から「お客様センター」を起点とする「お客様視点プロジェクト」を運営している。
 「お客様視点プロジェクト」は「お客様視点気づき講座」と「お客様視点体験プログラム」により構成されている。
 「お客様視点気づき講座」は、「お客様コミュニケーション部」のスタッフが講師となり、「お客様センター」での実際のコミュニケーション事例などを基に、企業と顧客の意識のギャップや顧客の関心の変化などについての講義を行うもの。マーケティングや研究開発部門に加え、生産部門など、日ごろ顧客と直接接触する機会のない部門も対象に年数回実施している。
 一方、「お客様視点体験プログラム」は、他部門のスタッフに「お客様センター」での電話応対を実際に体験してもらうプログラム。日ごろからレポートなどで文字情報としての「お客様情報」に接しているスタッフでも、実際の応対では「目からうろこ」の体験をするケースも多いことから参加申し込みも多く、待機状況が続いているとのことだ。
 プロジェクトへの参加者は年々増加しており、2006年度には約1,400名であったものが、2007年度には約1,600名に及んだ。同社では今後もこのプロジェクトを積極的に推し進め、全社的な“お客様視点”の行動によって、「お客様満足」のさらなる向上につなげていく意向である。

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P46体感プログラム

「お客様視点気づき講座」(上)と、「お客様視点体験プログラム」(下)で、お客様視点に基づいた企業風土の醸成を目指す


月刊『アイ・エム・プレス』2008年7月号の記事