生活日用品の製造、販売のトップランナーであるライオン(株)。同社は、2006年3月から、除菌・清潔キープ剤「ルックきれいのミスト」(「きれいのミスト」)の全国販売を開始した。同社では、従来の消臭スプレーとはまったく異なる“除菌・清潔キープ”という商品特性の認知向上のために、ターゲットを絞ったサンプリングを実施してきた。
“きれい”が続く除菌スプレーという特徴を強調し、差別化を図る
洗剤、石鹸、歯磨き、さらには医薬品、化学品など、生活関連用品を幅広く手掛けるライオン(株)。同社では、競合製品とは一味違う“特徴”をもつ除菌・清潔キープ剤「ルック きれいのミスト」の認知向上を図るため、ばら撒きではなく、ターゲットを絞ったサンプリングを実施している。
「きれいのミスト」シリーズは、2005年4月に、トイレ用と浴室用の2種類の試験販売を中京地区限定でスタート。翌2006年3月に、キッチン用を追加して全国発売に踏み切った。この当時、ラインアップは3アイテムに過ぎなかったが、2006年8月に布製品用の2タイプ(ローズ、すずらん)を発売したのを皮切りに、2007年4月には布製品用に2タイプ(無香性、せっけんの香り)を追加、さらに2007年8月には「玄関・くつ用」を発売するなどラインアップを拡大し、現在合計8種類を発売。以来、販売本数は累計で1,800万本に達している。
「きれいのミスト」は、従来からある消臭スプレーとは異なり、同社独自の技術により配合した新除菌成分「銀イオン」の働きで、スプレーするだけで“ヌメリやニオイ”の発生を防ぎ、掃除したての“きれい”を維持する除菌スプレー。家庭から出る不快なニオイの原因は「雑菌の繁殖」といわれているが、「きれいのミスト」は増えた雑菌の除去はもちろん、雑菌の繁殖を「抑え込む」という予防的な機能も擁するのだ。
こうした機能を生活者に認知させるには、単なるばら撒き的なサンプリングでは、巷間溢れる消臭スプレーのひとつとして埋没しかねない。そこで同社では、“除菌・清潔キープ”という効果を納得してもらうため、ターゲットを絞ったかたちのサンプリングに注目したのである。
「幼稚園」「引っ越し時」「ビジネスホテル」でサンプリングを実施
“スプレーするだけできれいが続く”というコンセプトに基づき、「きれいのミスト」のサンプリングは2006年3月の全国販売と同時に開始。まずは商品ターゲットを「20~30代の女性」と定めた。この層には、「家庭環境をきれいに保ちたい」という願望は強いものの、「仕事や子育てに追われ、隅々までなかなか掃除の手が回らない」という悩みを持つ者が多い。そこで同社では、これを“潜在需要”ととらえ、こうした見込客が多く集うコミュニティとして、「幼稚園」にフォーカスした。
幼児を子に持つ主婦にとって悩みのタネのひとつに、「子どものおトイレの失敗」がある。オシメから卒業したはいいものの、小用時に尿をまき散らしてしまう。これにより雑菌が繁殖し、不快なニオイの元凶となる。「きれいのミストトイレ用」の菌の繁殖抑制効果をサンプリングによって実体験してもらうには、まさに幼稚園は打って付けだった。
こうして同社は、首都圏の幼稚園を対象に約2万本をサンプルとして配布、幼稚園児を抱える主婦に実際に試してもらった。サンプルと同時に配布したアンケートを回収した結果、「不快なニオイがなくなった」など製品の“きれい”を保つ効果に納得した回答が多く見られ、認知向上の手応えを感じたという。
ちなみに同社では、トイレで気になる不快なニオイは、男性の小用時に床などに飛び散る“尿ハネ”が菌によって分解されて発生することを確認。その抑制技術を確立し、製品化したのが「きれいのミストトイレ用」である。
このようなターゲットを絞ったサンプリングは、その後、「引っ越し時」や「ビジネスホテル」でも展開。前者は日本通運(株)、後者はアパホテル(株)に協力を仰いだ。前者では、新居に移り住んだ時にきれいな状態を保ちたいという生活者の心理を、また後者では、出張先でスーツに纏わり付いた気になる不快なニオイを消臭したいという思いを、それぞれ購買に直結する「動機」に成り得ると判断。それぞれ引っ越し客、宿泊客にサンプルや「無料お試し」として提供している。
累計1,800万本の販売数に達している「きれいのミスト」シリーズ全8種類。“除菌・清潔キープ”という商品特性の認知向上のため、ターゲットを絞ったサンプリングを実施
「リアルサンプリングプロモーション」に参加 延べ1,500人のブロガーに商品サンプルを配布
一方、同社では、インターネットを通じて契約企業の商品サンプルを生活者に配布し、評価してもらうサイト「サンプル百貨店」に注目。同サイト登録会員を500人規模でホテルの宴会場などに集め、商品サンプルを直接配布する「リアルサンプリングプロモーション」に、これまでに3回参加し、延べ1,500人のブロガーにサンプリングを行っている。
同社が「リアルサンプリングプロモーション」に参加した理由は、商品サンプルを配布するとともに、“10分間のプレゼン”が用意されているためだ。つまり、「きれいのミスト」の“除菌・清潔キープ”という商品特性を顧客に直接説明することで、“きれい”を保つ効果があることを定着させたい同社にとっては、格好のイベントと言えるのだ。
イベント当日は、2007年8月に発売した新製品「きれいのミスト玄関・くつ用」について説明すると同時に、「きれいのミスト」シリーズ共通の商品特性についてもアピールした。
その効果は予想以上のものだったらしく、「サンプル百貨店」のサイト内では「気になる不快なニオイがしなくなった」「玄関・くつ用だけではなく、トイレ用や浴室用も購入して試してみた」といったブログが数多く見受けられるなど、玄関・くつ用の認知向上に加え、イベントで配布した以外のアイテムの購買につながったことも確認できたという。
以上のように、「きれいのミスト」のサンプリングは、あくまでも潜在的な見込客にターゲットを絞ったものであるが、このほかにも最近では「ブランドイメージの向上」を意識的に狙ったサンプリング施策にも乗り出している。
その先鞭となったのが、東京港区汐留にあるショールーム併設型カフェレストラン「アーキテクトカフェ」におけるサンプリングである。お洒落な家具・調度品と西洋料理が楽しめるこの高級感漂うカフェは、今や若い女性を中心に人気を博している。そこで、同店のトイレなどにさりげなく商品を置いてもらうことで、「あのアーキテクトカフェにあった『きれいのミスト』」という高級イメージを生活者に根付かせることを狙ったわけだ。
同社では、サンプリングが「きれいのミスト」の売り上げアップに顕著な効果があるとはとらえていない。あくまでも「宣伝」の一環として割り切っている。“除菌・清潔キープ”という「きれいのミスト」の商品特性の認知向上に注力することが、最終的には“差別化”や“ファンの育成”につながると確信しているのだ。今後は、もっと話題を集められるようなサンプリング手法などを検討していく意向だ。