あくまでも顧客との対話を重視 “優遇感” にマーケット戦略の軸足を置く

住商オットー(株)

2007年2月に売上高約179億円を達成した住商オットー(株)。2004年度に陥った経常赤字から脱却し、2億7,000万円の当期純利益を計上するまでに、業績を回復した。その起爆剤となったのが、2006年に行った「Otto」というブランド名への統合だ。自社が持つ特徴を活かした優良顧客戦略を検証した。

ブランドを「Otto」に統合 5つの行動指針も定め、意識改革に成功

 いまや日本人のライフスタイルにすっかり浸透した通信販売。住商オットー(株)はそんな通販ビジネスを展開する企業のひとつだ。1986年9月に、ドイツの通販会社オットー社と住友商事が共同出資して誕生した。その後、時代の変化に対応して1999年に新カスタマーセンターを稼動させ、2000年からはWeb上でオンラインショップの運営をスタートするなど、顧客接点の充実に努めてきた。
 最大の特徴は、ファッションや家具・インテリア・雑貨などに関する感度が高く、これらのショッピングを通じて生活を彩ることに熱心な35~55歳の大人の女性をターゲットにしたファッションに力を入れていること。商品構成としては、ドイツのオットー社がヨーロッパで販売して人気が高かったアイテムを日本人向けにカスタマイズした製品が約50%で、残りを日本で独自に調達した品々が占めている。
 同社では5年以内に購買実績がある顧客が200万人存在する。中でも注目したいのが、半年間で10万円以上を購入する“VIP”と呼ばれる1万人の顧客の存在だ。同社では春夏と秋冬の2回、特別カタログを発行していることなどから、VIP顧客の購入金額はほかの通販会社に比べ高額になる。もちろん、このようなVIPに対しては、さまざまな優遇サービスを実施しているが、その点については後ほど詳細する。
 ところで、同社の21年の歴史を振り返ると、常に順風満帆だったわけではない。2004年度には、6億7,000万円の経常赤字を計上している。この事態を受け、蜂谷裕喜前社長の下、各部署から30歳前後の担当者を10人集め、自社の強みや行動方針を見直す「ザ・トータルブランディング」というプロジェクトを立ち上げた。その結果、2006年にはブランド名を「Otto」に統合。さらに、オットースピリットを5つの行動指針として具体化した。インターナルブランディング戦略で社員の意識改革に成功したのだ。

不毛な価格競争を避け顧客へのきめ細かなメッセージで対応

 その結果、最も変わったのが“ハードマーケティングからソフトマーケティングへの転換”だとマーケティング営業部部長の平野靖幸氏は説明する。
 「以前はプライスダウンなどによりお客様への訴求を図っていたのですが、それでは不毛な値下げ競争に巻き込まれるだけです。そこで、単なる“お得感”ではなく、さまざまなメッセージや体験の提供により、“優遇感”を持っていただける戦略を採ることにしました。コンセプトは『Dress Your Life』です」
 同社ではメイン顧客である35歳以上の女性を対象としたカタログ「Otto WOMEN」を年11回各100万部、55歳以上の富裕層をターゲットとしたカタログ「Otto Madame」を年6回各45万部、家具や生活雑貨、インテリア商品のカタログ「Otto HOME COLLECTION」を年4回各50万部発行している。これらのカタログには、A4・4ページ・カラーのセルフメーラーを同梱する。写真のように、セルフメーラーの表紙には、右上に宛名が、その左横に顧客へのメッセージが印字される仕組みだ。これだけでもきめ細かな顧客サービスと言えるが、驚かされるのは、後述するステップアップ・プログラムのランク、発送月に誕生日を迎える顧客、その翌月が誕生日の顧客、それ以外の顧客で、メッセージを差し替えていること。メッセージ内容は計20通りにも達する。
 「メッセージを差し替えると印刷の手間が掛かるだけではなく、それぞれのメッセージが顧客情報に対応しているか確認する作業も必要ですし、間違ったメッセージをお届けしてしまうというリスクも発生するわけです。それでもVIPの皆様には、自分のことをきちんと見つめたきめ細かな対応を行ってくれているのだなと感じていただきたいのです」とアドヴァタイジング部部長の宮嶋珠実氏は、顧客との対話の重要性を訴える。
 このため、VIPに対してはカタログを一般顧客よりも早く届けたり、VIPしか参加できないパーティーを開催するなどのサービスも行っている。フリーダイヤルも、VIPは専用ダイヤルだ。
 直近で好評だったのが、今年5月に開催したドイツ大使館との共同企画で、広尾のドイツ大使公邸にウィーンミュージカル「エリザベート」の人気キャストを招いて開催した音楽会の企画。この音楽会は、総勢約70名のゲストのうち同社VIPが半数、さらにドイツ大使が招待したゲストが半数を占め、皇族や著名人も参加するなど、豪華キャストや一級品の料理、おもてなしと相まって、とても華やかなものとなった。同社が基本コンセプトとして掲げる「Dress Your Life」という考え方やライフスタイルを実感してもらうイベントだと言える。

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春夏シーズン、秋冬シーズンがスタートする3月と9月、セルフメーラーは高級感あるデザインのバインダーに挟まれて、「Otto WOMEN」「Otto Madame」に同梱される(写真左)
タイトルロゴを金箔の光沢のイメージに加工し、特別な用紙を用いたVIP向けカタログ(写真右)

インタラクティブな対話のためにさまざまな工夫を凝らす

 このような顧客の“優遇感”に訴えるアプローチに加え、同社では半年間の購入金額に応じ、一定の割合で次の半年間全カタログ掲載商品をプライスダウンするステップアップ・プログラムを実施している。具体的には購入金額が10万円以上の「Otto GOLD」で6%、15万円を越える「Otto PLATINUM」で8%、25万円を上回る最優良顧客の「Otto DIAMOND」では10%をサービスする。ここにもちょっとした工夫が凝らされている。商品を郵送する際、配送伝票に「あと○○円のお買い上げて、△△MEMBERです」というメッセージを添えているのだ。いわばハードとソフトの両面から、顧客に対してランクアップへの意欲を喚起する作戦だ。
 「ステップアップ・プログラムについては、まだ詳細は決定していませんが、お客様にとってよりわかりやすく、きめ細かなサービスができるように内容を検討中です」と平野氏はさらなる優良顧客の掘り起こしに積極的だ。
 一方、新規顧客の開拓にも余念がない。2年前までは新規顧客獲得の80%を新聞の折り込みチラシに頼っていたが、ブランド統一を機にDM送付へと軸足を変更 。 「Otto WOMEN」「Otto Madame」「Otto HOME COLLECTION」から抜粋した商品情報を、68ページにまとめたダイジェストカタログを制作。DMとして500万部発送する方法に切り替えた。
 対象は休眠顧客をはじめ、クレジットカード会社など提携先のリスト。春夏は3月、秋冬は9月にDMを送付する。
 通信販売業界では、現在厳しい競争が続いている。そのような中、同社ではいわば優良顧客がオンリーワン感をもてるマーケティング戦略を展開していく。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年10月号の記事