自動車メーカーとしてドライブの豊かさと楽しさを追求

日産自動車(株)

休日に家族や友人とドライブに出掛けたら、大渋滞に巻き込まれて結局くたくたになって帰ってきた。ドライバーならば誰もがこんな経験を少なからずしているはず。そんな運転の際のストレスを解消するのが「カーウイングス」というサービスだ。日産自動車のカーナビ機能を活用したユニークな取り組みをご紹介する。

カーナビの機能とサービスをリンク さまざなコンテンツ情報を提供

 タクシーに乗り込んで何気なくダッシュボードに目をやると、カーナビが搭載されている。今やそのようなことは珍しい光景ではなくなった。一般ユーザーの乗用車でもこの傾向は同じで、2004年の時点で、新車の搭載率は50%を超えたという。現在、通信機能付きカーナビの利用数は約150万台というから、かなり魅力的なマーケットだ。
 一般的に、カーナビといえば「クルマの移動にあわせて表示が切り替わるデジタル地図」と認識されているのではないだろうか。しかしそれは大きな間違いだ。カーナビは価値ある情報を提供してくれる機能を持った、高度なエレクトロニクス製品なのだ。中でもユニークなのが、日産自動車(株)。「カーウイングスナビゲーションシステム」という純正製品に対応した、カーウイングスという会員制のサービスを提供している。カーウイングスナビの購入者のうち、70%が会員になっているというから驚きだ。携帯電話とカーナビの連動により、さまざまな情報を活用できる。
 例えば、「最速ルート探索」。出発地と目的地をカーナビに入力すると、渋滞などを回避して、最速で目的地にたどり着けるルートと所要時間が表示される。「でもどれくらい正確なの?」と疑問に思う人も多いはず。そこで、実験をしてみた。平日の午後、厚木から東京銀座までをこのサービスを使って、走行してみたのだ。するとなんと、誤差はわずかに5分だった。もちろん渋滞状況やルートによって、バラツキはあるだろう。しかし、やはりこれは驚きの数字だ。
 どうしてこんなことが可能なのか。日産自動車プログラム・ダイレクターオフィス主担(CARWINGS事業企画)の小泉雄一氏は次のように種明かしをしてくれた。
 「日産のカーナビを搭載しているクルマからは、常にGPS用の位置情報が発信されています。全国の道路からこのデータを収集すれば、それぞれのクルマ同士の間隔や速度などにより、道路状況を把握できます。それに過去の渋滞実績情報、政府が管理する道路状況情報VICSなどを加味して、独自のアルゴリズムにより渋滞を予測。それを基に最速ルートを割り出すのです」
 この説明を聞くとなるほどと納得させられるが、これほどのことをするには、かなりのインフラ構築が必要なはず。実際同社では専用の情報センターを運営している。なぜそれほどのコストをかけてまで、このような情報サービスにこだわるのか。その理由を小泉氏は次のように説明する。
 「渋滞って、ものすごくドライバーにストレスを与えますよね。自動車メーカーである以上、それを少しでも緩和する努力が必要です。お客様から位置情報を集めて、それを加工して渋滞情報や最速ルート情報としてお届けすることは、Webからデータを収集して、有意義な情報に加工して発信するWeb2.0的な考え方といえます。それに加えてグルメ情報や観光情報まで運転中に手に入れば、クルマに乗ることがものすごく快適になるわけです」

こだわりのWebサイトを揃えユーザーニーズに応える

 Web2.0という例えが出てきたが、カーウイングスはインターネットコンテンツの配信サービスが非常に充実している。もともと、携帯電話と接続して利用するのだから、当たり前といえばそれまでだ。しかし、このサービスにも独自の工夫が採用されている。カーナビのディスプレイはPCと比べてかなり小さい。このため、サイトをそのまま表示するのには無理がある。そこで、TA(テレマティクス・エージェント)という機能により、データを軽くしてカーナビにあったレイアウトで表示してくれるのだ。気になるのが携帯電話の通話料金。通信キャリアのネット接続はデータ量で課金される。TA機能でデータが軽くなっているので、1回の利用料金は20~30円程度しかかからない(利用料金は携帯電話のプランによる) 。現在、「Yahoo!グルメ」「Yahoo!クーポン」「MapFanクチコミ情報」などのコンテンツにアクセスできる。
 「特に留意したのは、いわゆる定番コンテンツをはずすことでした。ネット環境はいまや成熟化していて、利用者はこだわり情報を求めている。いわばコンテンツのロングテール化です。ですから、これは面白いと思えるようなコンテンツを集めたのです」と小泉氏はコンテンツ選択の方針について説明する。
 インターネットへのアクセスを可能にした理由は、同社はあくまでもメーカーであり、サービスのプロではないので、コンテンツ提供者が必要だったのだと小泉氏はいう。
 「メーカーとしては、より見やすい環境でインターネットにアクセスできる機能を開発し、それによってコンテンツプロバイダーとカーオーナー様のマッチングを可能にしたわけです。それによってオーナー様はより多くの情報を入手できるのです」

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ドライブをより楽しくしてくれるのが、カーウイングスだ。

さらなる進化を目指し沿線ガイドサービスを導入

 一方、カーウイングスのもうひとつの特徴が、オペレータによるサービスを導入していることだ。カーナビのオペレータスイッチを押すと、コールセンターに接続され、オペレータと会話ができる。例えば、「いま伊豆にいるんですけど、近くにおいしいレストランありませんか」と問い合わせると、「かしこまりました。少々お待ちください」「該当するデータが見つかりました。ダイヤル中心のボタンを押してダウンロードしてください」というやり取り後、画面上の地図に該当するレストランが表示される。さらに、さまざまなカーナビの設定も、オペレータに頼めばリモート操作で代行してくれる。ITに弱い高齢者などに人を介したサービスを提供することで、安心感が得られるし、複雑な操作を伴う機能も、簡単に使うことができる。実際、同社のアンケート調査でも、利用者の75%が目的地の設定をオペレータサービスに依存しているという。
 そして、クルマの利用者の快適性を追求する同社のサービスは、さらに進化を続けている。館山市・南房総市と共同でマイカー旅行者向けに新しい観光情報サービスを開発中であり、RSSタグが埋め込まれた両市の観光サイトから、店舗情報を受け取ることができる。今のところ、ドライバーが自分のカーナビにブックマークを設定する必要があるが、将来的には位置情報と組み合わせて、自動的に最適な情報が配信されるようになるという。クルマを運転することから生じるストレスや苦痛を、テクノロジーを駆使して緩和し、ドライブをより豊かで楽しいものにしていく同社のサービスは、これからもさらにすばらしいバリューをユーザーに届けてくれるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年9月号の記事