アフターフォローに徹底的にこだわり 顧客との絆作りを武器に成長

(株)シーボン.

2006年、創立40周年を迎えた(株)シーボン.に3代目の社長が就任した。金子靖代氏だ。金子氏は一美容スタッフからスタートし、ネイルサロンの立ち上げ、スタッフの指導、製品企画、営業部門の統括など、まさに現場を知り尽くした人物。「お客様が綺麗になるまでは、最後まで責任を持つ」という同社の方針を象徴する存在だ。徹底した顧客サービスで、独自の販売戦略を展開する同社のビジネスをレポートする。

危機を乗り越えた直販スタイルが現在では最大の強みに

 “美肌”という言葉は、もともとは広告のコピーとして登場した造語だが、今ではすっかりなじみのあるフレーズとして生活の中に溶け込んでしまった。女性にとって、綺麗な素肌は、やはりひとつの理想だからだろう。(株)シーボン.は、そんな“美肌への努力”には欠かせない基礎化粧品を主力としたビジネスを展開する企業だ。1966年に犬塚尚典氏によって創業された。こだわったのは製品のクオリティ。品質さえ良ければ、多少価格が高くても、絶対に顧客の支持を得られるはずだという信念に基づいている。その精神は現在にも引き継がれていて、同社では造り置きをせずに小ロット生産体制を守っている。後ほど詳述するが、販売後のアフターフォローも徹底して行う。自社の製品には最後まで責任を持つことが、同社の基本姿勢なのだ。
 しかし、これまでの歩みは決して平坦なものではなかった。同社は分割払い方式によるセット商品の訪問販売を業界で初めて導入したことで、急速に成長を遂げた。しかしそこには落とし穴があったのだ。化粧品の訪問販売は営業スキルを身に付けていなければ難しい。そこで同社では、販売代理店組織を中心とした販売活動を全国展開していた。ところが、女性の社会進出に伴い、日中家にいる主婦が減り訪販効率が悪化。しかも、一部の販売代理店がメーカーである同社の方針を無視した強引な営業活動を行ったため、代理店契約を解除せざるを得ないトラブルが発生してしまったのだ。
 良質な製品造りにこだわっていただけに、これは同社にとってショックな出来事だった。何としてもそのような問題は解決しなければならない。そんな固い決意のもと、1986年7月に2代目社長に就任した大塚雅大氏は、全国をカバーする直販体制の確立を決意。自社製品の販売窓口とするため、現在の「シーボン.フェイシャリストサロン」の前身に当たる会員制の「シーボン.ビューティスタジオ」の全国展開をスタートした。この直販チャネルは順調に成長し、現在では全国で94店舗を展開。同社の全売り上げの95%をサロンが占めている。
 そして現在、この会員制のサロンによる直販というビジネスモデルは、同社の最大の強みとなっているといっても過言ではない。

フェイシャリストがしっかり顧客の心つかむ

 ではどのようなシステムになっているのか。まず、アウトバウンド・テレマーケティング、フェイシャリストと直接触れ合えるイベント、紙媒体やWebによる広告などにより、体験エステ料が1,000円のお試しサービスの告知を行い、サロンへの来店を促す。アウトバウンド・テレマーケティングの場合で、60~70%が来店するという。サロンではフェイシャルサービスが終了後、お茶をもてなしてくつろいでもらう。そして、あらかじめフェイシャルコンピュータへ入力しておいた肌の画像に基づき、肌質改善のためのプログラムを自動的に作成して、顧客の肌の状態に合ったシーボン化粧品を薦める。初回来店者の6~7割が購入するというから、かなりの高確率といえる。とはいっても、もちろん強引な勧誘をするわけではない。あくまで美肌にこだわったアドバイスだからこそ、多くの顧客が納得して「買ってみよう」という気持ちになるのだ。化粧品を購入した顧客は、その場で「シーボン.会員」として登録。「シーボンカード」を発行する。会員になると、製品の購入金額に応じてポイントが加算されるが、1ポイントに付き1回、全国のフェイシャリストサロンを無料で利用できる。このサービスが、顧客が再来店する大きな動機付けとして機能している。登録会員数は現在9万人。非常に優れた直販システムと言えるだろう。
 しかし、全国のサロンを統括する営業本部直販営業部マネージャー 佐藤正文氏は、多くの顧客が何回もサロンを訪れるのは、ポイント制度があるからだけではなく、フェイシャリストがしっかりと顧客の心をつかんでいるからだときっぱりと言い切る。
 「当社の製品は基本的には自宅でお使いいただくホームケアが主体です。ですから、アフターフォローが欠かせません。サロンのフェイシャリストは、お客様をキレイにしたいという思いで施術をはじめとするサービスを行っています。その気持ちがお客様にも伝わり、サロンスタッフとのしっかりとした心の絆ができるから、再来店してくださるのです」
 そのような良質なサービスをすべてのフェイシャリストが行えるようになるために重要なのが、きめ細かい教育制度だ。初期教育はもちろん、全国で働くすべてのフェイシャリストに対し、宿泊施設が完備された本社の研修棟で、定期的にフォローアップ研修を行っている。マッサージ技術、皮膚科学、製品知識、接客マナーなど、その内容も非常に濃い。
 初来店のきっかけを生み出す、コールセンターのオペレータへの教育も、もちろん忘れていない。適正なトークマニュアルと現場での常時指導による徹底した教育を行うことで、誇張のない適正な情報が顧客に伝わるように努めている。初期教育はもちろん、SVのOJTによるサービス品質の向上にも取り組んでいる。
 「肌につける化粧品を扱っているということもありますが、当社には製品をお客様に販売したらそれでおしまいというのではなく、使い切るまで責任を持つという社風が根付いていました。サロンはそれを具現化したものといって良いでしょう。料金以上の満足をお客様に感じていただきたいのです」と佐藤氏はサロンのサービスの根幹に流れる精神をこう説明する。

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サロンの受付は明るく親しみやすい雰囲気(写真左)/フェイシャリストが肌状態をチェックして、アドバイスしてくれる(写真右)

ITの導入で全国どこのサロンでも最適なサービスを実現

 顧客の利便性をとことん追求するために、ITも積極的に導入している。例えば、先ほど触れたフェイシャルコンピュータシステム。計測した顧客の肌状態に関するデータは本社のデータベースで一元管理しているが、全国どこのサロンでも、全会員のデータをこのシステムで参照することができる。外出先でちょっと時間が空き、シーボン.フェイシャリストサロンを偶然見つけてふらりと来店しても、このシステムを利用すれば、現在の肌状態に最適なフェイシャルサービスや指導が受けられる。つまり、全国どのサロンでも、自分の肌にぴったりのパーソナルサービスが受けられるわけだ。
 さらに、販売チャネルの面でも、新たなチャレンジに打って出た。大阪のヨドバシ梅田店に、サロンで販売している高機能化粧品を、気軽に購入できるコスメショップを開店したのだ。さらに、ダイエー新越谷店、ダイエー千葉長沼店、イオン各努原店へも出店した。ショップにもフェイシャリストが常駐しているので、肌トラブルの相談に乗ってくれる。顧客視点に徹することで、同社の今後の展開はゆるぎないものになりそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年9月号の記事