生活スタイルにまつわる交流でお客様とのつながりを醸成

(株)千趣会

総合通販の老舗であり、多くの女性から支持されている(株)千趣会。同社では2006年9月、お客様の声を活かした商品作りを核としたお客様参加型コミュニケーションサイト「くらしのたまご」を立ち上げた。現在、ここでの活動を通じて、同社がカタログなどで提案する暮らしのセンスはそのままに、お客様とのつながりを醸成。ファン化を促進している。

お客様とのつながりを求めてコミュニケーションサイト「くらしのたまご」を開設

 仕事を持つ女性が増えて久しい。仕事に家事、遊びに学びと忙しい日々を送る現代女性にとって、ファッションや日用品を自宅にいながら購入できる通信販売は、彼女らのライフスタイルを支える強い味方だ。
 総合通販の老舗として知られる(株)千趣会では、こうした女性の姿を30年以上も前に予測していた。同社の創業は1955年。同社の営業スタッフが企業を訪問し、そこで働く女性を対象に頒布会を始めた後、ファッションのカタログ通販に乗り出したのが1970年代のこと。以降、雑貨やインテリア、キッズウェアなど取扱商品を拡大し、現在では18種類ものカタログを発行するまでに成長した。ネット通販も好評で、カタログで商品を選んでネットで注文するという購買スタイルも定着してきている。
 カタログ通販の利用が伸びる一方、頒布会は停滞状況にある。これは、対面でのインタラクティブなコミュニケーションの減少を意味する。しかし、カタログやネットでは、同社の考えや思いを十分に伝えることは難しく、お客様との関係を構築することは容易ではない。ともすれば、冷たい印象を与えてしまうこともある。
 こうした状況の中、お客様のリアルな声を聞き、お客様とのつながりを醸成していきたいと考えた同社では、2006年9月、お客様参加型コミュケーションサイト「くらしのたまご」を開設した。

お客様の声に基づくもの作りをサイトの中核に

 くらしのたまごの運営は、ベルメゾン生活スタイル研究所が担っている。同研究所は、千趣会創業50周年を記念して2004年5月に設立された、女性の生活スタイルの動向を見つめ、その意識や悩みなどを把握・理解した上で、くらしをサポートしていく部門である。独自に組織化したスタイルモニターのほか、有識者やクリエイターのネットワークを活かし、情報の収集と発信を手掛けている。
 くらしのたまごの基本コンセプトは“みんなでつくる、すてきな毎日”。日常生活の中で感じているさまざまな事柄について会員同士がWeb上で交流する、お客様が主役のコミュニケーションサイトである。30代の生活向上意欲の高い女性をターゲットとしている。
 会員は、既存の通販会員を対象としたメールマガジン(以下、メルマガ)のほか、同社の通販と親和性の高いレシピサイトや企業のメルマガを利用して新たに募集した。現在の会員数は2万5,000人。このうちの65%が千趣会の通販会員で、かつ購入金額に応じて優待を受けられるクラブ・ベルメゾンのゴールド会員(1年間の購入金額が税別で5万円以上~10万円未満)と、プラチナ会員(同じく10万円以上)の割合が高い。くらしのたまごによって、同社のファンが可視化されたと言えよう。
 同社では、「こんな物がほしい」「使い勝手が悪い」といった定性情報を開発部門にフィードバックすることができれば、新しい商品の開発にも役立つという考えがあったことから、お客様の声を聞きながら専門家やクリエイター、さらには取引先までも交えて、今までにない商品を開発していくプロジェクト「みんなでつくろう! プロデュース会議」をスタート。これをサイトの中核に据えている。

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「みんなでつくろう!プロデュース会議」の進行過程をWebで閲覧することができる(写真左)
投稿者に抽選でプレゼントしているグッズ。千趣会ならではのくらしのセンスが感じられる一品。さりげない心づかいへの感動も大切な経験として会員の心に蓄積されていく(写真右)

9カ月を経て商品が完成!

 プロデュース会議第1回のテーマは「お風呂」。くらしのたまごの開設と同時に、バスタイムをもっと楽しくするためのお風呂プロジェクトを始動させた。
 同プロジェクトでは、まずスタイルモニターにアンケートを実施。その結果、お風呂に入るのが好きと回答した人が87%もいるのに対して、自宅のお風呂に入るのが好きと回答した人は53%という意外な事実がわかった。次に、香りやバスグッズのスペシャリストにインタビューを行い、その話を踏まえながら開発テーマ会議を開催。会員の意見をとりまとめ、「美しくなれるアフターバスウエア」を作ることが決定した。
 具体的な商品企画に当たっては、お風呂上がりの過ごし方などに関するアンケート結果を踏まえて、デザインや素材を考えていった。実際に触れた上で素材を選び、染色工場を見学するほどのこだわりぶりである。
 サンプルができたところで、くらしのたまご編集部の近郊に在住の会員を集めて座談会を開催し、サンプルに触れたり試着したりしながら、仕上がりについて意見を聞いていった。そして、2007年5月、ベルメゾンネット限定で販売をスタートした。
 プロジェクト開始から販売までに要した期間は9カ月。この間、アンケートや掲示板、座談会などバーチャルとリアル、双方のチャネルを通じて会員とくらしのたまごはコミュニケーションを図ってきた。それぞれが経験した、「楽しい」「嬉しい」「ワクワクする」といったひとつひとつの感情は小さなことかもしれないが、塵も積もれば山となり、強固なつながりをもたらす。ベルメゾン生活スタイル研究所 主任研究員 スタイル研究チーム マネージャーでくらしのたまご編集長を務める和田康彦氏は、「もの作りの過程で、いいものができそうという期待感が生まれたり、会員同士のつながりやくらしのたまごと会員のつながりが深まっていくのでしょう」と話す。あるお風呂プロジェクト参加者は、「美しくなれるアフターバスウエア」の販売当日に購入。届いた日に自らが着用した写真と感想をeメールで送ってくれたという。
 現在、第2回として冷えとりプロジェクトを実施しているところ。もの作りを核としたコミュニケーションのスパイラルはまだまだ続いていく。

情報発信型コンテンツにも注力

 くらしのたまごには、「みんなでつくろう! プロデュース会議」のほかにも、会員参加型の投稿コンテンツや、ファッション、インテリア、ビューティーなどおのおのの専門家が暮らしのヒントやアイデアを発信する情報ページがある。会員からの投稿数は、1カ月当たり1,700~1,800件。これら会員参加型コンテンツと同様に、同研究所では情報発信型コンテンツの充実にも力を入れている。
 現在、「くらたまサポーター」を募集しており、第一期は全国から約15名規模で結成する計画。くらたまサポーターが日々の生活での出来事や感じたことを綴るブログや、地方のおいしいものを紹介するコーナーなどを設ける予定だ。
 ベルメゾン生活スタイル研究所では、さまざまなプロジェクトを通じてより一層、会員とつながっていくことで、くらしのたまごを身近に感じてくれるコア会員を増やし、ひいては千趣会という会社を身近に感じてもらえることを期待している。会員どうしの “経験価値”の共有やロイヤルティ醸成に貢献する取り組みとして大きな期待が寄せられるくらしのたまご。今後は、サイトの認知度向上にも努めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年7月号の記事