エンジニアの派遣までの時間短縮やテレフィックス率のアップにも貢献

(株)寺岡精工

(株)寺岡精工では、サービスの平準化の中でも、オペレータの“スキルレベルのばらつき”が課題として挙がっていた。そこで同社では、ACD機能などを一括で利用できるASPサービスを導入。これにより、個々のオペレータのスキル向上および平準化に成功した。また、フィールドエンジニアの到着時間の短縮も実現し、顧客満足度の向上に結び付けている。

“顧客が受けるダメージ、ダウンタイムを最小限に食い止める”を合言葉にコールセンターの充実を図る

 「はかりの寺岡」で知られる(株)寺岡精工は、1934年の創業以来、各種計量器を世に送り続けてきた業界のリーダー的存在である。近年では、POSシステムや店舗総合情報管理システムなど、物流や製品・部品管理、流通情報に関するITインフラ企業として存在感を増してきており、2006年度の連結売上高は約785億円を達成している。
 現在、3万社のクライアントに、30万台以上のPOSシステムや店舗総合情報管理システムなどの各種機器を納入する同社にとって、顧客からのトラブルに迅速に対応することは、極めて重要なテーマである。このため同社では“顧客が受けるダメージ、ダウンタイムを最小限に食い止める”を合言葉に、コールセンターの充実を積極的に図ってきた。
 同社では2005年に、「サービスポータル事業部」を発足。同事業部は、コールセンターを中心に、ヘルプデスク、障害監視サービス、リモートメンテナンスなどにより、24時間・365日、お客様が使用している機器をトータルでサポートする部署である。コールセンターは、東京、大阪、福岡の3カ所。障害の発生から復旧に至るまでのプロセスを一元管理すると同時に、現場経験7年以上のキャリアを持つスタッフがオペレータとしてクライアントに直接対応している。有償サービスであるサービスパック(リモート監視サービス・深夜ヘルプデスク)の契約率とその売上高は、同事業部発足当時の3倍増に成長している。現在、月間のコール数は2万件を数える。
 ちなみに、訪問修理が必要になった場合は、全国約150カ所の営業所に配属された約700名のフィールドエンジニアが問題解決に当たっている。

ASPサービスを採用しオペレータのスキルの平準化を図る

 同社では、かねてよりコールセンターの充実に積極的だった。しかし、サービスポータル事業部開設以前は、全国約30の営業所がそれぞれに異なる電話番号を設けて担当エリアの顧客対応を行っており、全社的なサービスの平準化とはかけ離れた状態だった。当然、情報の共有化や人的資源の有効活用の面からも非効率で、顧客満足度の低下にもつながりかねなかった。
 こうした事情から、サービスポータル事業部の発足に伴い、電話対応業務を東京(32席)、大阪(10席)、福岡(10席)の3拠点に集約して、大胆な効率化を図ると同時に、全国一律のフリーダイヤルを導入し、顧客への利便性の向上を目指した。
 しかし、コールセンターの集約を図ったところで、個々のオペレータのスキルレベルのばらつきは解決しない。それどころか、スキルレベルの高いオペレータが次から次へと電話対応をこなす一方で、スキルレベルの低いオペレータは対応時間が長くなるなど、オペレータのスキルレベルのばらつきが顕在化。ピーク時には、両者の1日当たり平均対応件数の差は「40対20」と2倍にも達した。
 そこで同社では、このままではスキルレベルの高いオペレータへの負担が大きくなり、不公平感から生じるモチベーションの低下、ひいてはサービス品質の低下にもつながりかねないとの考えのもと、NTTコミュニケーションズ(株)のASPサービス「CustomerConnect(カスタマコネクト)」の採用に踏み切った。Customer Connectは、VoIP通話機能、IVR機能、ACD機能、通話モニタ・ウィスパー機能、運用管理(エージェント管理、レポート表示)機能などの必要な基本機能を盛り込み、IP電話を利用し、容易かつ低廉にコンタクトセンターを構築することができるサービスだ。これにより、顧客データがすべて履歴として一元管理されるようになったのはもちろん、顧客が電話を掛けた段階で、オペレータのモニター画面に当該顧客の保有機器や過去のサポート情報などのデータが映し出されるようになり、作業の大幅なスピードアップはもちろん、オペレータのスキルの平準化にも寄与。同社では、オペレータ1人当たりのコール対応件数を30件/日(8時間)程度にまで平準化させると同時に、オペレータ一人ひとりのスキルの向上につなげることができた。
 ちなみに、同社がASPサービスを採用した理由として、イニシャルコストを低減し、容易にセンターを構築できるなどのASPサービスそのもののメリットを熟知していたことが挙げられる。また、Customer Connectを選んだ理由として、競合サービスより低価格で優れている点を掲げている。
 加えて同社では、PHSを使った位置情報システムを採用。フィールドエンジニアの現在位置を把握し、Customer Connectと自社開発したシステムとをデータリンクさせることで、お客様に一番迅速に対応できるフィールドエンジニアを即座に派遣することを可能にした。これにより、修理依頼からエンジニアの到着までにかかっていた時間を旧来の120分から100分を切るまでに大幅に短縮することに成功している。

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コールセンターの在宅化を視野に入れる

 また同社では、「テレフィックス率(電話だけでトラブルなどの問題が解決する比率)のアップ」にも以前から力を入れており、7年以上の現場経験豊かなフィールドエンジニアをセンターに配属させている。現在でもオペレータの約半数が現場責任者の経歴を持つスタッフで構成されており、顧客が訴える多種多彩なトラブルに的確かつ短時間で対応し、顧客との電話のやり取りだけでトラブルを解決する例も少なくない。
 このように、故障機器のダウンタイムの短縮化に努めている同社ではあるが、Customer Connectと自社開発したCRMシステムのデータをリンクさせることで、これまで20%だった電話完了率が現在では35%にまでアップ。この数値は、IT関連企業のコールセンターとしてはかなりのレベルに達するという。
 「新しい常識の創造=SEARCHING FOR A NEWBALANCE」というモットーを掲げる同社。コールセンターにおいても、このモットーを徹底していると言っていいだろう。
 今後同社では、コールセンターのさらなる充実を図るため、「コールセンターの在宅化」を視野に入れていく意向だ。早ければ年内にも実現する模様である。すでに一部のエンジニアを対象に在宅ワークを実践している同社ならではの発想とも言え、オペレータがわざわざコールセンターに出勤しなくとも、自宅の回線とCustomer Connectをオンラインで結ぶことで、24時間・365日のサービス体制をさらに拡充するという試みである。これにはサービスの充実のみならず、コールセンターにまつわる設備投資の抑制と良質な人材確保という意味も込められており、その成り行きはコールセンターの構築を検討する企業から注目されていくことだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年6月号の記事