ブランドの老朽化を防ぐために映像コンテンツと連動したクロスメディアを展開

日清食品(株)

日清食品(株)のカップヌードルは、お湯をかければ3分間で出来上がるというインスタントカップ麺の代名詞。同社では2006年4月より、FREEDOM製作委員会とのコラボレーションによる「FREEDOM PROJECT」をスタートした。大友克洋の描くキャラクターが躍動するDVDアニメ作品と連動したTVCMが大いに話題を呼んでいる。

若年層にターゲットを絞り込みアニメーションを採用

 日清食品(株)から1971年に発売されたカップヌードルは、インスタントカップ麺の元祖とも言うべき存在であり、発売以来多くの人に愛用され続けている。同社がその35周年を記念して2006年4月より行っているプロモーションが、 「FREEDOM PROJECT」 である。
 カップヌードルのプロモーションは1990年代以降、「Hungry?」篇、 「20世紀ヌードル」篇、 「NOBORDER」篇など、常に斬新な映像とメッセージにより多くの話題を喚起してきた。幅広い顧客層に支え続けられてきたカップヌードルは、食品業界の中でも最も確立された定番ブランドであり、そのプロモーションの目的は常に、商品のイメージを陳腐化させず、顧客の間で新鮮さを維持し続けることにあった。
 「FREEDOM PROJECT」も、メッセージを刷新して「カップヌードル」というブランドの老朽化を防止することが目的なのだが、今回の特徴は若者にターゲットを絞ったこと。同社は顧客の意識・満足度の定点観測の結果から、特に若者の間でのイメージの希薄化の進行を危惧し、若者の広告接触を最大化する仕掛けとしてアニメーションに着目。FREEDOM製作委員会とのコラボレーションによるクロスメディア施策を通じて、商品イメージの刷新を図ったのである。

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TVCMには摂食シーンが多く挿入されている

顧客との接点とイメージの形成を重視しアプローチ手段を設計

 同プロジェクトで重視されているのは、「イメージ」と「接点」だ。
 「FREEDOM」では、前回の「NO BORDER」の静的なイメージを刷新し、若者の心をとらえるような躍動感のあるイメージを志向している。映像コンテンツとしては、若者に人気の大友克洋のキャラクターを使用した各30分×全6話のDVDアニメ作品「FREEDOM」をFREEDOM製作委員会が制作、主題歌は宇多田ヒカルが担当している。作品中では主人公がカップヌードルを食べるシーンが要所に配されており、作品と商品とを直接的に結び付けるとともに、若者の暮らしと人生の中に常にカップヌードルがあることをもアピールしている。同商品の誕生の原点に立ち返れば、若者に「食の自由」を提供したことこそがヒットの理由であり、「FREEDOM」という命名には、「自由の象徴」としてのカップヌードルを通して「真の自由とは何か」を考えるキッカケにしていただきたいという思いが込められている。
 顧客接点としては、多種多様の幅広いチャネルを相互に関連させながら使用している。アニメ映像を使用したTVCMの放映を2006年4月から開始して新たなコラボレーションの登場をアピール(サイトを同時に開設)。TVCMでの予告を繰り返しながら、10月を皮切りにDVDのリリースを開始(2007年3月現在、第1、2話まで発売)。DVD発売前には先行配信をYahoo!動画で随時行っており、その配信数は80万にも上る。そのほか、雑誌広告、屋外広告も展開しているが、最も特徴的なのはQRコード付きのフタの裏面(資料1)だろう。カップヌードルを食べる際に告知が必ず目に入る仕掛けであり、顧客に 「なんだ!?」 という驚きを与えると同時にサイトへの誘導も促している。実施時のフタに表示されたURL経由のアクセスは1万件/日を超えていた。

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(資料1) パッケージのフタ裏も、「なんだ!?」と驚きを与えるコミュニケーションスペースとして活用。QRコードの先の受け皿としたモバイル専用サイトでは、動画コンテンツなどにより「長く楽しんでもらう」仕掛けをふんだんに用意した

 一方、 そうした広範な接点の「受け皿」 となるのは、カップヌードルのHPとはあえて別に設けられた「FREEDOM」のPC&モバイルサイトだ(資料2)。こちらは若者に楽しんでもらうことを前提に、 ストーリーなどの基本情報だけでなく、 見る物=動画コンテンツ(アニメ作品の予告編、TVCM、本編のダイジェストなど)を充実させ、訪問者の滞留を促している。逆に言うと、アニメ作品を使用していること自体が、 訪問者が楽しめるサイト作りへと直結しているのだ。また、 作品の製作進捗に並行した関連動画などのサイトへのアップは、 見る側に常に新鮮な内容が提供されることを意味し、 サイトへの興味関心を持続させる上でも効果がある。

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(資料2) FREEDOM PROJECTの専用Webサイト。TVCMだけでなく、キャンペーンの告知や更新情報などが満載だ

 こうした連動性の高い一連の施策の根底にあるのは、「できるだけ多くの顧客」 に 「ブランドを楽しんでもらうこと」が重要という考え方だ。マス媒体や、誰の目にも入るだろう「フタの裏」 を通じた量的なアプローチ。そこからサイトに誘致された訪問者には動画を中心に楽しんでもらい、さらにはリピートへとつなげてゆく。同社がサイトの評価指標としているのは、随時計測している「リーチ」 と「滞留時間」。その心は「どれだけ来てくれて」「どれだけ楽しんでくれたか」だ。
 幅広い多種多様な接点チャネルと、効果的な受け皿チャネルを合理的に組み合わせ、顧客との間で双方向の継続的なアクセスの流れを作り出してヘビーリピーターを形成。ブランドと顧客との親和性を高めることを通じ、アニメ作品と直結させている商品のイメージの改善・回復を狙っているのだ。実に入念に設計されたアプローチといえる。
 施策全体の評価は年2回行うのだが、その指標は「若者への浸透度」と「ブランドイメージの向上」である。1年を経てようやくその効果が把握できる段階に入ったと同社では考えている。

映像コンテンツを利用したクロスメディアのメリット

 作品自体はいまだ完結しておらず、「接点」を広げるためのキャラクター商品やノベルティの展開もまだこれから。同社としては今までの1年を認知のための期間と位置付けており、今後は店頭の商品周りでそれらの活用を図りたいとしている。
 また、現段階で具体的に検討してはいないが、同社ではコンテンツをキーにした世界展開も視野に入れている。それがアニメーションをコンテンツとして採用したもうひとつの理由だ。作品として成功を収めれば、主人公がカップヌードルを食べるシーンが永遠に提供され続けることにもなる。
 現段階で確認できるのは、映像コンテンツを利用したクロスメディアが、顧客との接点を最大化し、ブランドと顧客との間の緊密な関係を築く上で非常に有望なアプローチとなる可能性があるということだ。同社の担当者も語っていることだが、どのようなメディア、チャネルをどのように使用すべきかは、企業や商品の特性、置かれた環境に応じて全く異なるわけで、各企業には最適なアプローチをそれぞれに熟考して設計することが求められよう。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年5月号の記事