大塚製薬では、ファイブミニの機能性を説明するために、美人になるための講義を受ける「ファイバー美人大学」と奇抜なキャラクターを起用した「体内怪人WEB」の2つのオリジナルサイトを開設。サイトへの誘引を図るために、SNS(Social Networking Service)大手のmixiを活用して口コミを発生。さらに、他媒体を絡めることでアクセス数を伸ばし、限られた予算、表現上の制約からくる宣伝の難しさの壁を見事に打開した。
限られた予算、表現上の制約の中SNSでの口コミ活用による宣伝を展開
大塚製薬(株)の「消費者関連事業」は、消費者の健康をサポートするために、数々の独創的な商品を提供している。そのひとつである『ファイブミニ』は、発売から19年を迎えたロングセラー商品。レタス1.8個分の食物繊維に加え、レモン15個分のビタミンCを含有するさわやかなフルーツ味の微炭酸飲料で、特定保健用食品に認定されている。発売当初は、当時主流であった「摂取型健康法」から「排出型健康法」へとトレンドを巻き起こした商品として注目を浴びた。
このファイブミニは、大々的にマス広告を投入できるほどのマーケティング予算がない上に、コンセプトを直接的に表現できないことから、マス媒体を通じて消費者へ理解させることが難しいという課題を抱えていた。そこで打開策として、ターゲットが20~30歳代前半の女性に絞り込まれていることから、ネット上での“口コミ”活用が有効ではないかと発案。まずは、「ファイバー美人大学」と「体内怪人WEB」という2つのオリジナルサイトを開設し、話題性に富んだコンテンツを提供することにより、口コミ発生を狙った。
オリジナルサイト立ち上げ時は交通広告などでの認知を促したものの、アクセス数は思うように伸びず、見込客をどのようにしてサイトへ誘引するかという課題が残った。TVCMなどで大型予算を使用したのでは本末転倒になってしまう。打開策を練っていたときに、ミクシィ(以下、mixi)上で自発的にファイブミニのコミュニティが設立され、話題になっているとの情報を得た。そこで同社では、サイトへの誘引策として、mixiの公認コミュニティの本格活用に踏み切ったのだ。
mixiコミュニティで毎日楽しませるコンテンツを提供
ここで、2つのオリジナルサイトとmixiの公認コミュニティについて説明しよう。
「ファイバー美人大学」は、美人になるための講義を行うバーチャル大学。“食物繊維”を摂取して美人になった暁には卒業できるという大学で、タレントの森三中も学生として参加している。
一方で「体内怪人WEB」は、体内に潜む7種類の悪玉を怪人に見立てたキャラクターが登場するサイト。この奇抜なキャラクターが人気を呼び、「キモカワイイ」などのコメントが相次ぎ話題になっていた。このサイトでは、怪人を退治することで体内から“悪玉”を追い出し、健康になるまでを体験できる。
この2つのサイトを体験すると、説明が難しいファイブミニの機能性が理解できるようになっている。
同社では、この2つのサイトを盛り上げるために、mixiを効果的に活用するという手段を選択した。mixi上にそれぞれの公認コミュニティを立ち上げ、「ファイバー美人大学コミュニティ」は、警備員が管理人になって登場し、学校内での出来事を日記につけて盛り上げ、「体内怪人コミュニティ」は、怪人が悪さをする様子を悪の親玉である管理人がつぶさに報告することで、参加者を楽しませていた。サイトを活性化させるために、コミュニティ上のコメント更新を毎日欠かさないなど、運用面でも工夫を凝らした結果、mixi上の2つの公認コミュニティの登録者はほぼ同数の約2,600人を数え、大変な盛り上がりを見せた。
さらに、この2つの公認コミュニティ間で、「怪人が美人を襲い、美人が病気になる」「美人が怪人を倒しに行く」などの状況を設定し、サイト間の相互誘導を促進することにより、mixi内にとどまらず大きな話題を呼ぶことになった。
体内怪人サイト。“キモカワイイ”キャラクターが大きな話題を呼んだ(写真左)
他メディアとの連携や楽しませる工夫で同社オリジナルサイトのアクセス数を伸ばす
オリジナルサイトの開設は2006年春で、mixiの公認コミュニティを導入したのは同年の7月中旬から11月末まで。1日当たりのサイト訪問者は、mixiを開始するまでは数百人程度だったのが、開始直後には一気に6,000人にまで激増。しかも、「体内怪人」という造語の検索件数が、開始前に比べて数百倍にも上った。
しかし、8月中旬頃には一時期の盛り上がりは沈静化し、訪問者数はもとの数百人程度に戻ってしまった。そこで、せっかく盛り上がった話題を一般の方々にも楽しんでもらえる仕掛けとして、「体内怪人占い」を展開。まずは、簡単なセルフチェックで「あなたに潜む“体内怪人”」を調べて体内怪人ランク付けし、その人の1週間の運勢を占うというものである。
サイトの告知には、雑誌はもちろん、居酒屋の箸置きにも広告展開し、QRコードからWebへの誘導を試みた。また、90秒のバイラルCMを作製し、交通広告や街頭ビジョン、一部地域での90秒CMを展開した。これは「You Tube(ユーチューブ)」などにも取り上げられたという。
このように、他メディアと絡めて展開することで、ピーク時には1万人の訪問者を獲得するほどの盛り上がりを見せた。時を同じくしてmixiが上場し、ファイブミニの活用事例が報道されたことや、SNSが急速に生活者に浸透したことが、訪問者増につながった。
今回のプロジェクトを通して、mixiのようなSNSを活用したマーケティング施策は、単にコミュニティという“ハコ”を用意するだけでは効果が表れないことを実感した。SNSはあくまでも会員がプライベートな情報を交換する場なので、企業側から一方的に情報発信するだけでは、すぐに飽きられてしまう。企業が運営するコミュニティは、参加者も「広告目的」だとわかって参加している。しかし、広告だとわかっていても、楽しめるような細やかな工夫が凝らされていれば、サイトを活性化させることができるのだ。
情報の発信方法については、SNSで口コミを引き起こし、 ネット上で話題になった後に、 雑誌などのリーチが確実なメディアを絡めると、さらに効果的な結果をもたらすことがわかった。また、SNSで話題を呼ぶにはネットで扱う情報の質も重要で、万人受けする情報よりも、むしろ一部の人が話題とする特異な情報の方が向いている。しかし、TVCMでは万人受けさせなければいけない。マスメディアとWebの媒体特性の違いを理解し、効果的に使い分けることがポイントである。
今後の展開としては、2007年4月にファイブミニのTVCMを開始し、さらなる話題づくりを仕掛けていく予定だ。そのほかにも、これまでマスマーケティングを中心に展開していた「オロナミンC」に口コミ・マーケティングを融合するなど、商品・目的ごとにメディアを使い分けていく。Webは特定ターゲットに強く、マスメディアは広くリーチするのに有効なメディア。同社ではこの2つのメディアを連携させ、今後も効果的な“口コミ・プロモーション”を行っていく意向である。