コンタクトセンターのバーチャル化や放棄率などKPIの達成に注力

ディー・エイチ・エル・ジャパン(株)

世界最大規模のロジスティクスプロバイダーであるディー・エイチ・エル・ジャパン(株)。同社のコンタクトセンターは、東京と大阪の2拠点で運営している。2004年に、経営幹部の意向でアジア太平洋地区のコンタクトセンターでIVR利用の中止が決定。2005年3月に、日本のコンタクトセンターも利用を中止した。これに伴い、東西のコンタクトセンターで相互にオーバーフローの受け付けが可能になるように仕組みを変更するなど、さまざまな工夫を施している。

社長直轄のセクションとして1日平均1万コールに対応

 1972年に、日本で初めての国際エクスプレスとしてサービスを開始した世界最大規模のロジスティクスプロバイダー、ディー・エイチ・エル・ジャパン(株)(以下、DHL)。現在では220以上の国・地域を結ぶ国際ネットワークを駆使し、国際エクスプレス、ロジスティックスソリューション、航空・海上貨物輸送、陸上輸送、国際メール便などのサービスをグローバルに展開している。
 同社のカスタマーサービス本部は、フロント機能を担うコンタクトセンター、バックオフィス機能を担うカスタマーケアのほか、テクニカルサポートや企画・教育を担当する部署からなる総勢200名体制の社長直轄のセクションである。このうちコンタクトセンターは、東京と大阪の2拠点で運営している。東西のコンタクトセンターのエージェント数は東京60名、大阪40名の計100名。
 顧客からの電話は、全国共通のフリーダイヤル番号を通じて、市外局番により地域別に、東西のコンタクトセンターに着信する。ただし、両コンタクトセンターのバーチャル化が実現しており、双方にもう一方のコンタクトセンターからのオーバーフローを受け付けるスタッフを待機させるなど、ひとつのコンタクトセンターとして機能させている。コール数は1日平均1万コールで、そのうち約50%が集荷依頼、約25%が貨物追跡調査依頼、約25%が通関や輸送日数などの問い合わせだ。エージェントの稼働率は80%以上で、他社のコールセンターに比べてかなり高い数値だという。
 同社のコンタクトセンターは、集荷依頼のインバウンドに対してアップセル、クロスセルを行うプロフィットセンターとして機能している。例えば、午前9時までにお届けする時間指定便を販売したり、付帯保険のご案内を行ったり、あるいは新規利用の問い合わせをセールスチームに回して、アカウントを作成してもらっている。このように、収益への貢献という部分でも注目を集めている部署だ。特に、新規顧客のセールスリードでは、全体の9割がコンタクトセンターをはじめとするカスタマーサービス本部から上がっているという状況だ。

経営幹部の意向によりIVRの利用を中止

 同社のコンタクトセンターの電話による有人受付時間は、8~21時(土・祝日は8時30分~17時30分、日曜・年末年始は休業)。受付時間外は、自動音声により受付時間を案内している。
 実は、同社では2005年3月まで、電話着信時にコールプロンプト(IVRのこと)を利用していた。IVRの利用を中止するきっかけは、2004年に打ち出された「顧客は、機械と話をしたいはずがない。DHLのコンタクトセンターは人が対応する」という経営幹部の意向。これにより、アジア太平洋地区にあるDHLのコンタクトセンターでIVRの利用中止が決定した。
 これに伴い、同社では、それまで別個に運営されていた東西のコンタクトセンターが相互にオーバーフローしたコールを受け付けられるような体制を整備したほか、コンタクトセンター以外のスタッフにもオーバーフローしたコールが流れるようにシステムを変更した。現在、基本的にはIVRの利用を中止しており、コールキューイング(接続待機)の時にのみIVRを活用している。電話がつながりにくくなり、待ち時間が「15秒」「30秒」とあらかじめ予測される場合、予測待ち時間の案内、例えば「ただいま、30秒ほどお時間をいただいています。そのままお待ちいただくか、一度お切りになって改めてお掛けください」といったアナウンスを用意している。また、請求に関する問い合わせには料金課直通の専用回線を用意しているが、お客様の中にはコンタクトセンターに電話を掛けてくるケースもあるため、コールキューイング時に「請求書関連は8番」といったIVRが自動的に流れる仕組みにしているという。
 同社のコンタクトセンターには1日平均1万コールの入電があるが、1カ月の営業日のうち6~7割が応答率100%。放棄呼が発生する場合も1日に2~3コール程度で、放棄率は0.02%だ。これは同社のコンタクトセンターの放棄率の目標0.1%より、かなり低く抑えた数値である。また、10秒以内の応答率は98%と高い数値を誇る。お客様からの電話が途切れることがない中で、ほぼ100%の応答率を達成できているのは、東西のコンタクトセンターがバーチャルに一元化されていることに加えて、前述した通りアナウンスの工夫によりお客様の待ち時間のストレスを軽減しているためだ。これにより、顧客満足度の向上につながったと言えるだろう。
 また、IVR利用の有無にかかわらず、コンタクトセンターの運営・管理指針となるKPI(Key Performance Indicator:主要業績指標)のひとつである放棄率を低く抑えることは大きな命題だった。WFM(Work Force Management)を導入し、正確な入電予測を行うことでバックアップ体制を整えたり、スーパーバイザー(SV)の意識改革や採用方法の見直しを行うほか、派遣会社のスタッフの中から優秀なエージェントを社員に登用するなどモチベーションの向上を図って、放棄率の目標0.1%の達成を成し遂げてきたのだ。
 実際、コンタクトセンターのスタッフは、放棄呼に非常に敏感だという。というのは、1カ月の放棄率の目標0.1%という数値は、1日平均コール数1万コールに対して10コールの放棄呼に相当する。1カ月に20万コールの入電があれば、200コールしか放棄できない。しかし、IVRを利用していた2004年当時は、忙しい時間帯だと15分間に50コールの放棄呼を発生させていたという。同社では、1日3コールの放棄呼が発生すると「アラート体制」が発令され、トレーナーやワークフォースプランナー、アナリストがプッシュボタンの点滅を見ながらお客様からの電話に対応する態勢を整えている。

サービスセンター担当のSVとエージェントを配置しお客様との密接な関係づくりを目指す

 同社には、国内拠点として43のサービスセンター・営業所などがある。以前は、複数の拠点で集荷依頼などの電話を受け付けていたが、2000年には東京と大阪のコンタクトセンターを整備し、集荷依頼などを一括集約した。しかし、これを機にサービスセンターとコンタクトセンターの間に意識の違いや温度差が生じており、目下、双方の溝を埋める取り組みに着手している。具体的には、今年から来年にかけて各コンタクトセンターのSVがひとり当たり3~4カ所のサービスセンターを訪れ、ピックタイム(集荷した荷物の仕分け・配送時間のこと)などオペレーションの流れを見学。また、個々のサービスセンターの特性や得意先企業の取扱商品の特徴を把握したり、営業担当者とのコミュニケーションを図るなど交流を深めていく。
 こうした取り組みを継続することで、最終的には各サービスセンターのエキスパートとしてのSVを養成すると同時に、エージェントもサービスセンターごとにグループ分け。発信番号の市外局番をキーに、お客様の最寄のサービスセンターの担当グループにコールを振り分けていく意向だ。これに加えて、サービスセンターごとにメインで担当するエージェントを任命するかたちで、エージェントの担当制を導入することも検討している。これにより、あるサービスセンターで何か問題が起これば、担当のエージェントがサービスセンター担当のSVに相談するといったことが可能になるほか、これまで以上にSVやエージェントにお客様に関する知識が付いてくると見ている。さらに、お客様にとっても「聞き覚えのある声」のエージェントによるOne to Oneの対応が実践できると判断した。
 また、同社では来年、フリーダイヤルの付加サービスを利用したコールの振り分けを導入する予定。これにより、お客様とサービスセンターとのより良い関係づくりを図っていく意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年12月号の記事